第21話「大天使の伝言」
―――冒険者ギルド ロパンド支部 支部長室
コンコン……
「入りたまえ。」
ガチャ……
「失礼します。……支部長、こちらを。」
ギルドの職員が一枚の紙を持って入室し、それを支部長へと手渡す。
「……そうか。下がりなさい。」
「はい、失礼します。」
バタン……
「フゥ……、遂に、“これ”が届いてしまったか。」
支部長は受け取った紙を見つめながら、葉巻の煙を大きく吐き出す。
「……すまんね、セバコタロー君。どうか私のことは恨まんでくれ。」
―――ロパンド東にある、とある宿の一室
「う~んっ、ここは……。」
強烈な倦怠感と共に、目を覚ます。
(……泊ってた宿の部屋か?)
上体を起こしてみると……、
「エ、エレナさん!?」
エレナが両手で自分の左手を握りしめ、椅子に座りながら、ベッドに顔を伏せて眠っている。
(きっと心配して、看ていてくれてたんだな。……んっ?ところで、これは!?)
エレナの首筋に、何か紋章のようなものが刻まれているのが見える。最近というよりは、ずっと前からそこにある感じだ。
(何だろこれ??……それより。)
眠り姫の右肩をポンポンと優しく叩く。
「ふぁぁ~~っ……。んっ?セバスさんっ!!」
エレナは大きく欠伸をしたのちに自分の名前を叫び、その細い両腕をグルっと自分の身体に巻き付ける。
「目が覚めて、本当に良かったです……。」
その目にはうっすらと、涙が浮かんでいる。
「……ごめん、死神って云われてたこと黙ってて。」
「今更、そんなことを云われても……。」
(そりゃ、そうだよなぁ……。)
「……だって、今まで行動を共にしてきて、セバスさんが普通の人じゃないなんてこと、とっくにわかり切ってますから。今更、実は死神でしたなんて云われても、ワタシは特に驚きませんよっ?」
彼女は顔を上げ、微笑みながら答える。
「そっかぁ……。」
「それに、セバスさんは誰よりも優しくて、周囲の人々を思いやる姿をワタシはこれまでに何度も見てきました。だから、噂で聞くような残虐非道の死神だなんて、とても思えません。例え、誰が何と云おうとも、ワタシはセバスさんのことを信じますっ!!」
「……エレナ。ウッ……、ほんとに、ありがとう。」
こちらはもう、涙を堪えるので精いっぱいだ。彼女は、裏切られたと感じるだとか、こちらの非を責めるどころか、逆に、こちらの心情を汲み取ろうとしてくれる。
「……それで、あの後って。」
少し気持ちが落ち着いてきたところで、自分が意識を失った後の状況ついて、話を聞いた。
サリエル様は、ウホウホ君を消し炭にし、残った魔族兵を一掃したのち、天から差す一筋の光の中を昇り、神界へと還っていったそうだ。
意識を失った自分のことは、スネイルが宿まで担いで運んでくれた。その後も自分は、二日半、目を覚ますことなく眠り続け、現在は、ウホウホ君襲来日から起算して、三日目の昼とのことだ。
被害状況として、街自体の被害は、外壁の一部が損傷した程度で済んだが、人的被害は、8名の死者と約40名の重軽傷者を出すに至った。悪魔王の襲撃に対する被害として、果たしてこれが甚大だったのか、それともこの程度で済んだと云えるのか、その評価をすることは出来ない。ただ、街の様子はすっかり通常運行といった感じらしい。
(……んっ?そういえば。)
ふと、自分の身体に気を向けてみると、重体であったはずの身体が完治している。
「オレの身体さぁ、すっかり良くなってるんだけど、エレナがヒールで治してくれたの??」
「いえ、ワタシが何かをする前に、大天使様が治して下さいました。『
「デ、デスペナルティかぁ……。」
(確かに反転してたら、最上級の蘇生魔法や治癒魔法なんだろうけど、本来なら即死魔法だよなぁ、きっと……。)
「でもまぁ、サリエル様には、助けてもらったお礼を云わないとね。」
「あ、そういえば、ワタシ、大天使様からセバスさんに、ご伝言を承っていたんです。」
エレナは思い出したかのように、両手を合わせる。
「えっ、ほんとに!?どんな伝言??」
「はい。仰られたことをそのままお伝えすると……、
『ハイハ~イ!どーも、サリエルですぅ♪
え~っと、今日はね、ボク、相当気合入れて準備してきたんですよぉ。初登場のシーンって、すっごく重要じゃないですか?見たでしょ?ハリウッド映画ばりのビカビカ、ゴロゴロ的なやつぅ?凄かったでしょ~!?あとは、雲の隙間から眩い光が差してきて、ボクが舞い降りていくシーンとかぁ♪あれはね、実は腕利きの照明さんに頼んでるんですよ。神秘的だったでしょ~!?
……でもねぇ、まぁご察しの通りだとは思いますが、結構掛かっちゃってるんですよねぇ、時間とお金が。お陰様で、先月分のお給料の半分近くも使っちゃいましたよ……。だから、今月はボク、ピンチなんです!!それとね、ボクもそんなに暇じゃありませんから、毎度毎度、登場するのに準備なんてしてられませんよぉ。
……ってことで、次からは普通に出て来ますからね?いいですか??くれぐれも、ピカピカとかゴロゴロは期待しないようにっ!!あのぉ、一応云っておきますが、これ別にフリじゃないですからね~。まぁ、伝えたかったのは、そーゆーことです!ではでは~、御機嫌よう♪』
……とのことです。」
「……え~っと、それだけ!?」
「はい。承った内容は以上です。」
大天使様からの伝言っていうから、多少、身構えていたのに、どう控えめに云っても、マジで内容がスッカスカだ……。わざわざ伝言にして頼むほどのことだったのだろうか?
「エレナ、よくこんな、どうでもいいような伝言を完コピして覚えたね。」
「だって、大天使様から賜った大切なお言葉ですから。」
(真面目かっ!?)
心の中で、タカトシの坊主頭の人のようなツッコミを入れる。
「ってことなら、まぁいいや。もうここで呼んじゃおっか、サリエル様。」
「いいんですかね、こんなところで?」
「いいよ、いいよぉ。だって、ピカピカもゴロゴロもないんでしょ?」
「まぁ、セバスさんがそうおっしゃるのなら……。」
「じゃあ、いい?呼ぶよ?」
「はいっ!」
「出でよ、大天使サリエル!!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
前半のシリアスムードから一転、サリエルさんの伝言のせいで、
すっかりいつもの流れに戻ってしまいました笑
次話、さっそく二度目のご降臨です!
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