第22話「指名手配書」

ボフンッ!!


「ハイハ~イ!」


 何とも軽いノリの返事と共に、サリエル様がふと目の前に現れる。


(近くで見ると、結構タッパがあるんだなぁ……。)


 自分もそれなりに長身ではあるが、それよりも高い。


 降臨して早々ではあるが、サリエル様から先制パンチが飛んでくる。


「あのぉ、“セバスさん”? “どうでもいいような伝言”とは、一体なんのことでしょう?」


(げっ、マジかよ……。神界から聞いてたのか。)


「いやぁ、あのぉ、その~、“尊いよなぁ伝言”って云ったんです。」


 咄嗟に苦しい言い逃れをする。


「あら、そうでしたか。ボクの聞き間違えだったんですかね?」


「そ、それより……、サリエル様、先日は悪魔王の魔の手からお救いいただき、ありがとうございましたっ。」


「あらあら、“セバスさん”は意外と律儀なんですね~。召喚された身としては、ただ当然の責務を果たしたまでですよっ。お身体の具合はいかがですか?」


「はいっ!デスペナルティを受けて、この通りピンピンしております!」


「アハハッ、意味的には相当おかしいですよ、それぇ!」


 サリエル様は両手を叩いて爆笑する。


「はははは……。サリエル様はとてもフランクな方でいらっしゃいますけど、天使様は皆さまそうなんですか??」


「ん~っ、天使がっていうより、ボクがなんでしょうねぇ、きっと。絡みにくい天使だっていますよ~、例えば、労務担当のミカエルさんとか。あの方は性格が細かくて大変なんです。先日も有給の申請を出したらですね、もう今年度分の有給は消化しちゃってるからダメって云うんですよぉ。いいじゃないですかねぇ、もう一日くらい。もう、こっそり休んじゃおうかなぁ~。」


(……や、それは細かいとかじゃなくて、ミカエル様の判断が正しいかと。)


「あっ、そうそう、サリエル“様”って呼ばれるのはなんだかムズ痒いので、これからは、サリエル“さん”で結構ですよっ♪あと別に、敬語じゃなくても構いませんからね~。」


(フランク過ぎて、逆に絡みにくい……。)


「……わかりました。敬語の件は慣れてきたら、少しずつ頑張ります。」


「それでは、今日はこの辺で~。……あっ、そうだ。一つ重要なことを伝え忘れてました。」


「何でしょう?」


「いや、今度からですね、ボクに来てほしい時は、普通に『サリエルさ~ん!!』って呼んでくれれば来ますから~。いちいち、カッコつけて『出でよ!』とか、そーゆーの別にいらないんで、ご安心下さいねっ!ではでは~、御機嫌よう♪」


 サリエルさんは重要なことを伝え終わると、そのまま神界へと姿を消す。


『…………。』


「大天使様、賑やかな方でしたね。」


「……うん、そうだね。」


 過ぎ去った台風に呆気に取られていたところ、スネイルが大慌てで部屋の中に入ってくる。


「おう、セバス、意識が戻ったんだな。体調はどうだ??」


「あぁ、お陰様で。ここまで運んでくれたんだって?ありがとう。」


「そんなんは訳もねぇ。来て早速で申し訳ないが、バッドニュースだ。」


「えっ、何かあったのか?」


 スネイルは晴れない表情で話を続ける。


「冒険者ギルドにお前さんの“指名”手配書が届いた。」


「指名手配書!?」


「あぁ、王国から直々に依頼が出されたものをそう呼ぶんだ。ギルド指揮のもと、最優先で取り組むことになる。……依頼内容は、“死神”、そう、お前さんの討伐だ。」


「……そうか。」


 前もって予想は出来ていたため、割と冷静に事態を受け入れる。


「“Dead or alive”で多額の報奨金が掛けられているんだが、それに加え、情報提供者にも特別報奨金が出るらしい。これはかなりやべぇやつだ……。」


「知らせてくれて、ありがとう。……それより、スネイル。」


「なんだぁ?」


「今まで死神って云われてたこと、黙っててごめん。」


「あぁ、そのことか。」


「……でも、信じてくれ。周りはオレのことを死神だって恐れるけど、オレ自身、自分のことが死神だって認識は一切ないんだ。」


「ハッハッハッハ!そんなこたぁ、どうでもいいぜっ!」


 スネイルは自分の憂いを笑い飛ばす。


「仮に、お前さんが本当に死神だったとしても、俺たちは一生マブダチだろ!?」


「ズネェイルぅ~~~~っ!!!!」


 もはや涙腺は大崩壊だ。涙が溢れて止まらず、まともに言葉を発することさえ出来ない。


「お前、泣くなよぉ~。」


 そう云いつつも、スネイルの目にも少し光るものが見える。

 それと、偽名を名乗っていたことについても、併せて、謝罪をする。


「……ヒック、……今更だけどさ、二人には、もう一つ、謝らなきゃいけないことがあるんだ。オレの本当の名前は、セバスチャンなんかじゃなくて、セバコタローっていうんだ。」


「俺は指名手配書を見ちまってるからなぁ。もう知ってるよ。これからはコタローって呼べばいいか??」


 スネイルはケロッとした様子で答える。


「あぁ、ありがとう、スネイル。……ヒック。」


 死神と呼ばれていたことや本名を隠していたことについて、責めることも、理由を聞くこともしない。こちらが突かれて痛いところは、一切突こうとしない。スネイルは、大事なのは過去ではなく、今、この先をどうするかというマインドの持ち主なのだ。


(あぁ、もうスネイルになら、いっそ抱かれてもいいっ♪)


 そう思い始めていたところ……、


「ぴえ~~んっ!!」


 他方では、今度は、エレナが大号泣だ……。


「え~っとぉ、エレナさん??そりゃ、そうですよね~。今まで、本当の名前を隠してて、どうもすいませんでしたっ!!」


「グスン、……ヒック、コ、コタローって、嘘でしょ……!?」


(え、何何何っ??)


 どうして、自分の本当の名前がコタローだと分かった途端に泣き始めるのか?……もしかして、なっちゃんなのか!?こっちの世界に来る前に、頭を強打した影響で、性格が変わってしまったのだろうか??


「エレナ、キミはもしかして……。」


「……ヒック、同じ名前なんです。孤児院で飼っていた犬の名前と……。ワタシがまだ小さい時からずっと一緒で、とても可愛がっていたのですが、昨年の冬、永眠してしまいました……。コタローって名前を聞いた瞬間、色々と思い出してしまい、それで……。ヒック……、すいません。」


「……あぁ、そう。それはとても辛い思いをしたんだね。」


 まさかのオチに拍子抜けしていると……、


「そうだ二人とも、バッドニュースはもう一つある。」


 スネイルが緩みかけていた空気を戻す。


「コタローと行動を共にしていたこともあり、エレナちゃんにも異端の嫌疑が掛けられている。こっちの依頼内容は、異端審問会への出廷が前提だから、捕縛ということになってる。」


「そんなぁ、エレナは関係ないだろぉ!!」


 思わず、自分の語気が強まる。


「そうだな。全くその通りだ……。」


「……エレナ、本当にすまない。」


「いいんです。全然気にしないで下さい。」


 エレナはあっけらかんとした様子で答える。


「でも……。」


「ワタシは今まで、ロパンドという狭い世界の中でしか生きてこなかったので、外の世界に飛び出す、いいきっかけなんだと思います。それに……。」


「それに?」


「セバスさん……、いえ、コタローさんがこの先何があろうと、絶対にワタシのことを守ってくれるはずですからっ!!」


 エレナが真っすぐと自分の目を見据える。


「そうだぜ、コタロー!お前さんがしっかり、エレナちゃんのことを守ってやれっ!!」


 スネイルが、バシッと自分の背中を叩く。


「あぁ、そうだな。わかった、任せろ!エレナのことは、何が何でも、必ずオレが守り抜く!!」


(今まで、狭い世界でしか生きてこなかったか……。まるで、ちょっと前の自分と同じだな。)


 そーゆーことならっ!これから、色んなところへ行って、色んなものを見て、色んなものを食べて、なっちゃんを見つけて、共に、この世界を旅しよう!!





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


サリエルさんはもしかすると神界の問題児なのでしょうか?笑

いよいよ、ロパンド編も終盤戦へと突入してきました。

果たして、セバス、もといコタロー君は王国の指名手配から逃げ切ることが出来るのでしょうか??

ロパンド脱出を目論むコタロー君ですが、

ストーリーは思いもよらない方向に展開していきます!


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