第19話「第七悪魔王ダムド」

―――ロパンド手前の林道


 今回のクエストでの疲労は、ほとんどない。行きの半分ほどの時間で街道を引き返す。ロパンド手前にある林道を走っていると、街の方角が何とも騒がしい。


『うぉ~~~~っ!!』


 おとこたちの猛々しい声がここまで聞こえてくる。


 視界が開けると……、おチビちゃんの云う通り、魔族の襲撃だ。魔族兵が50~60体ほど。その後には、腕を組んで傍観している指揮官風のデカい魔族がいる。


(ここまで大規模な魔族の一団を目にするのは初めてだな……。)


 幸い、まだ手遅れといった様子ではなく、関門の前では、ロパンド直轄の衛兵、下請け警備商会の所属員、ギルド所属の冒険者たちが、魔族たちの街への侵入を阻止している。門の中では、野次馬たちが不安そうな表情を浮かべ、外の様子を伺っている。


(……しっかし、アイツはヤバ過ぎだろ。)


 魔族兵だけなら、まだ、どうにかなるかもしれないが、あの、偉そうに後ろでふんぞり返っている奴からは、危険な匂いがプンプンとする。巨大なマウンテンゴリラにツノが2本と羽が付いたような見た目の、ウホウホ君(仮)がまとう“邪気”は、あのミゼルぴょんの比ではない。


「ライトニングぅ!!」


「アイスランス!!」


 この街の一流の魔法の使い手たちの放つ攻撃が魔族兵を襲う。動きを止めるには十分だが、致命傷には至らない。渦中に飛び込むのは気が引けるが、そこには当然、我が愛しのスネイルの姿もある。助太刀しない訳にはいかない。


「エレナさん、ちょっと先に行ってくる!」


「わかりました。ワタシも、すぐに追い付きます!」




―――ロパンドの関門前


「クソぉ……、魔族たちめ、数が多すぎるぜ。」


「あぁ、このままだとジリ貧だ……。」


ドカッッ!!


「うおぉ、魔族兵が吹っ飛んだぞ!!」


「んんっ?あれは、傭兵セバスだぁ!!」


 魔族兵1体を蹴り飛ばしたのち、すかさず最前線へと顔を出す。


「待たせたかぁ?スネイル!!」


「遅ぇ~よ、バカ!!」


 まずは、魔族兵を蹴散らして、相手大将を引っ張り出さないといけない。ロパンド陣営の士気を高める意味でも、まずは、名刺代わりに怪奇光線ヒールをぶっ放す。


「ヒールぅ!!」


ブゥオーーーーっ!!


『うぎゃぁ~~~~っ!!』


「す、すげぇ……、あれが傭兵セバスの実力か。」


「魔族兵2体を、一気に消し炭だ……。」


 周囲の反応は上々だ。後のことを考えると、少しでも力を温存した状態で、ウホウホ君と対峙したい。


(よし、みんなにはもう少し、結束して動いてもらおう。)


「エレナさん、着いて早々ごめん。怪我人の手当てをお願い!」


「はいっ!!」


「戦える人、回復した人は、魔族兵1体に対して、もっと束になってかかってほしい!」


「わかったぜぇ!」


「やってやろうじゃねーか!」


『うぉ~~~~っ!!』


 その後は、ロパンド陣営が一気に盛り返し、魔族兵の撃退が進む。


「ヒール!」


ファ~~~~ッ


 エレナも必死になって、怪我人の手当てにあたる。

 ただ、魔族兵が残り半数ほどになったところで、みんなにも疲労の色が出始め、徐々にペースダウンしていく。自分個人としても、まだ全体攻撃の魔法やスキルを習得していないため、戦い方が効率的とは云えず、少しずつ消耗が進む。それでも、僅かながらではあるが、こちらの勢いが向こうを上回る。


(……あと、もう一息だな。)


 しかし、魔族兵も残り14、5体になろうかという時、遂に、あのウホウホ君が動き出す。


「お前たちはもういい。後は黙って見てろ。」


「あ、悪魔王様が、直々にですかっ!?」


 やはり、それなりの身分の魔族のようだ。


ノシ、ノシ、ノシ、ノシ、ノシ、ノシ……


 ゆっくりとした歩みで、自分の前までやってくる。周りのみんなは、ウホウホ君が発する威圧感で動くことが出来ない。


「ちょっと見てたけどよぉ、お前だけ飛び抜けて強えぇな。本当に人族か?」


「……はい。一応そのつもりです。」


 ビビって、つい敬語になってしまった……。


 正対して、改めて感じるウホウホ君のヤバさ。こんな時にも拘わらず、幼い頃に見た缶コーヒーのCMが脳裏を過ぎる。

 それは、佐〇さんとアイムフォータイムスチャンピオンがリング上で戦っているCMだ。その戦いを観客席から見ている一人のお兄ちゃんが突然、〇竹さんをディスりだす。『何でそんな蹴りもらうかなぁ。俺なら避けちゃうよぅ。』とか云っていると、今度は自分がリング上に飛ばされ、アー〇スト・〇ーストと対峙する羽目になる。もちろん、マウスピースは装着済である。お兄ちゃんはホー〇トに『ユー。』と凄まれて、顔を引きつらせ、万事休すといった状況でCMは終了する。……要するに、佐〇さんへのリスペクトが欠けると、バチが当たるぞという訓話だ。


(やべぇよ、こんなのに絶対勝てる訳がねぇ……。)


 今の自分の心境は、まさにあの時、あのお兄ちゃんが感じたものに近いのではないだろうか。しかも、22歳学生、重度の厨二病患者という奇跡的な共通点。もはや、他人事とは思えないレベルで、強いシンパシーを感じる。


 一方のウホウホ君は、こちらの心労など知る由もなく、話を続ける。


「俺は第七悪魔王ダムドだ。今日はコイツ等の子守りのつもりで来たんだがなぁ。まさか、この俺直々に出張ることになるとはよぉ。」


「え~っと、今日のところは、このままお帰りいただく訳にはぁ!?」


「いくかボケぇ!!」


 こうして、望まぬ戦いのゴングが鳴った……。


ブゥフォッ!!


 いきなり、ウホウホ君のすんごい右ストレートが飛んでくる。辛うじて避けることは出来たが、こんなのをまともに喰らったら、間違いなく首がフッ飛ぶ。


(痛いのはまっぴらごめんだ!最初からフルスロットルでいこう!!)


「行くぞ、第七悪魔王ダムドっ!!」


 ここはもちろん、現在、習得している中で最大火力の技、超怪奇光線ハイヒールだ。


「ハイヒールっ!!」


ヴゥオーーーーーーっ!!


 超怪奇光線ハイヒールがウホウホ君にクリーンヒットし、砂埃が巻き上がる。


(……やったか!?)



『…………。』



 砂埃に隠れたウホウホ君の様子を、敵味方関係なく、全員が固唾を呑んで見守る。


ジュ~~~~~~ッ……


「……悪くない攻撃だ。フハハハハっ、久しぶりにダメージというものを受けたぞ!」


 そのセリフに反し、ダメージを受けている様子など微塵も感じられない。ハイヒールが直撃しても、全くもって余裕の表情だ……。


『うぉ~~~~っ、流石ダムド様ぁ!!!!』


 一気に敵陣営が活気づく。


 ヒールの連発と全力のハイヒールで、正直、自分の体力はかなり消耗している。


(クソッ、こうなったら。)


「アンチ-ポイズン!!……あれっ?」


「フハハハハっ、愚か者めが!格上相手に状態異常を引き起こす補助魔法など通じる訳なかろう!」


(そ、そうなのか……。そんなルールがあるなら、誰か先に教えておくれよ。)


「万策尽きたようだなぁ。そろそろお遊びは終わりにしよう。焼き尽くせ、地獄の業火ヘル・フレイム!!」


 両掌を合わせたウホウホ君が、必殺技を放つ。


ブワぉぉ~~~~っ!!


(あ、熱いっ!!)


 なんとか直撃は免れたが、司祭ボディでもダメージは大きい。後ろを振り向くと……、


『ぐうぁ~~~~~~っ!!!!』


 ロパンド陣営、数名が青い炎に包まれ、その身を焼かれている。


(クソッ、恐らく、そのうちの何人かは……。)


 エレナさんは、まだリヴァイブが使えない。例え、リヴァイブが使えたとしても、発動条件となる損傷状態やタイム感は非常にシビアだ。より上位の蘇生魔法も存在するが、そんな使い手、このロパンドには存在しないだろう。そもそも、蘇生魔法は術者にとっても消耗が大きく、そう何度も使えるものではない。


 ……ハッキリ云って、今の自分の実力では、ウホウホ君に勝つのはかなり難しい。それでも、出来る限りのことはしたい。追われる身になるのは確定だが、“アレ”を使おう。


「黄泉の大鎌っ!!」



ジュおぉ~~~~~~~~んっっ!!!!



「フハハハハっ!そうか、どうりで。……お前がミゼルをやった“死神”だったんだなぁ!!」


 ウホウホ君の発した言葉は、当然周囲の耳にも入る。


「おい、セバス。マジかよぉ……。」


「……セバスさん。」


 スネイルとエレナは驚いたような表情で、自分のうしろ姿を見つめる。


「傭兵セバスが、死神だとぉ!!」


「死神と悪魔王の戦いなんて、付き合ってられっか!!」


「巻き込まれる前に、みんな逃げるぞぉ!!」


 ロパンド陣営の2/3は、蜘蛛の子を散らすようにして背走した。先程までの威勢の良さは、もうそこにはない。義務として戦地に赴かざるを得なかった者の中には、逃げる理由が見つかり、安堵した者もいることだろう。確かに傍から見れば、地獄絵図のような状況だ。一体、誰が責めることなど出来るだろう。……それでもなお、ここに残った者たちもいる。“死神の死に様”くらいは、カッコよく見せてから散りたい。


「ディレイ!!」


ファ~~~~ッ


 1ミリでも勝率を上げるため、反転ディレイを自身に掛ける。


「ミゼルは全くの愚弟だがよぉ、物のついでだ。仇だけは取ってやる。死神ぃ、かかって来いヤァァ!!」


ダッッ!!


 地面を蹴り上げ、ウホウホ君へと立ち向かう。


ブン、ブン、ブブン、ブン、ブン、ブブン、ブンッ!


 図体に似合わず恐ろしく速い。すんでのところで攻撃が躱される。


(まだだっ!)


ブンブ、ブブンッ、ブン、ブン、ブブン、ブンッ!!


(畜生ぉ、全然当たらない……。)


 ウホウホ君は動体視力も驚異的だ。攻撃が全て見切られてしまっている。


 ……こんな時にも拘わらず、大鎌様からの声は聞こえてこない。例え、聞こえてきたところで、『残念ナガラ、今ノ其方デハ、我ノ真ノ力ヲ引出ス事ハ叶ワン。』とでも云われるのがオチだろう。


「死神ぃ、もうスタミナ切れかぁ??」


 大鎌様がだんまりを決め込むほどのレベル差に心が折れかけるも、それでもどうにかして、自身を奮い立たせる。


「まさか……。次で決めるっ!行くぞ、第七悪魔王っ!!」


(……虚勢を張ってはみたけど、オレには、もう“あの技”しか打つ手がない。)


ダッダッダッダッダッダッッ……!!


 出来る限りウホウホ君との距離を詰める。そしてっ……、


「秘義、かまいたちっ!!」


ヴゥオ~~ンッ!!


 真空の刃を、ウホウホ君の胴体にヒットさせる。


(これで、終わってくれっ!!)


「…………!?」


「チッッ、痛ってぇなぁ。俺に血ぃ流させるとか、お前わかってんだろうなぁ……。」


 ウホウホ君の顔色が一変する。


ゾワ、ゾワッ……


「死んで詫びろ、コラァ!!!!」


バキィッッ!!!!


 恐怖で身体が硬直していたところ、邪気に包まれたウホウホ君、渾身の右ボディブローが横腹に直撃する。


「グハッッ……、ゲホゲホッッ。。」


(……い、息が出来ない。)


 身体に力が入らず、そのまま地面へとひれ伏す。左側のあばら骨は、恐らく全部逝っている。血の風味が身体の奥から喉を伝って、口に溢れ出る。


(目の前が霞んできた……。)


「セバスさん!!!!」「セバスぅ!!!!」


 朦朧もうろうとする意識の中、エレナとスネイルが自分の名前を呼んでいるのが聞こえる。


(ごめん。それは、オレの本当の名前じゃないんだ……。)


 今更ながら、そう謝りたい。


(もう、ここまでだな……。)


 なっちゃん、ごめん。探し出してやれなくて、一緒に元の世界へ帰れなくって。


「…………。」


 柄にもなく、絶望的に弱気になっていたところ……、



『最後まで…希望を捨てちゃいかん。あきらめたらそこで試合終了だよ。』



 “あの先生”の言葉が自分を救い出してくれる。


(安〇先生っ…!!そうだ!自分にはまだ一つ、切り札が残されているじゃないかっ!!)


 ……“大天使サリエル” 。


 スマホにも、詳細情報が表示されていない謎の召喚魔法。魔法が反転する以上、迂闊うかつに使える代物ではないが、このままだと、どちらにしろあの世行きだ。どう転ぶかは一切わからないが、もうやけくそである。声を出すのもしんどい状態ではあるが、全力で張り上げよう。


「出でよ、大天使サリエルっ!!!!」





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


第七悪魔王ダムド、めちゃくちゃ強敵ですね。

ここまで連戦連勝できたセバス君ですが、全く歯が立ちません。

非常にピンチな状況ではありますが、

次話、遂に、大天使サリエルが登場します!!

敵か?味方かぁ?はたまた?

次話も要チェックやぁ~!!


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