第18話「結構です。」

 本日のクエストは、ラビアという小さな村を占拠する魔族2体の討伐である。実は先日も、同じ村で、下級魔族を1体討伐したばかりなのだが、また別の魔族が現れたとのことだ。本当に最近は、魔族の動きが活発になってきているのを感じる。現在、ラビアの村人たちは、ロパンドの外壁の外に設けられた仮設住宅街に避難している。




―――ロパンドの関門前


 ここ最近はずっと、クエスト時の待ち合わせ場所は、ロパンドの門の前だ。


(……まだ、来てないかぁ。)


 いつもは大体エレナが先に到着している。スネイルと雑談しながら待つものの、約束の時間を過ぎても彼女は姿を現さない。


(来ないなぁ……。)


 もちろん、彼女が遅刻をするなんて、初めてのことだ……。なんだか落ち着かなくなってきて、スネイルに昨日の出来事を話す。


「……おい、そりゃマズだろ。」


「そんなにマズいかなぁ……。」


「そりゃそうだろ。要するに、自分の男が、他の女と親しげに腕を組みながら、歩いてる場面に鉢合わせちゃった訳だろ!?」


「いやいや、自分の男って……。オレとエレナは別にそんな関係じゃないよ。大事なクエストの予定を変更してまで、デートを優先させたことに怒ってるんだと思う。……たぶん。」


「本当にそうかぁ??俺には、別の理由でエレナちゃんが怒ってるようにしか思えないんだが。……おっ、噂をすれば。」


 待ち合わせ時間から15分ほど経過して、ようやくエレナがやってくる。


「……すいません、遅れました。」


 エレナは自分に目線を合わせず、小声でボソッと呟くように口を開く。最悪とも思えるご機嫌に、正直どう声を掛けていいか分からない……。


「……おはよぅ?」


「おはようございます……。」


「え~っとさぁ、あのぉ、昨日のことなんだけど……、あれは違くってさ。」


「え、何が違うんですか?」


 いつもより低めのトーンで聞き返してくる。


「や、昨日のあのは、別に何でもなくって……。」


「……そうですか。“セバくぅん”は、別に何でもない女子とも腕を組むんですね。」


「あ、あれは本当にただの事故っていうか。偶発的にっていうか……。え~、ごめんっ!!」


「えっ?何について謝ってるんですか?」


「いやぁ、え~と、そのぉ……、何となくエレナさんが、怒っていらっしゃるのかなと思いまして。」


「ワタシ、別に怒ってなんていませんけど。そんなことより、早くクエストへ行きませんか?……プィっ!」


(や、むっちゃ怒っとりますやん……。)


 自分が口を開けば開くほど、エレナさんの怒りのボルテージは上がっていく。火に油を注ぐとはまさにこのことだ……。

 攻略難易度で例えるなら、あの伝説の無理ゲー、ファ〇コン版『魔〇村』をも凌駕する。


 一方のスネイルはというと、『お前、やっちまったなぁ。』と云わんばかりの表情で肩をすくめている。



『…………。』



 案の定、クエストの道中も、エレナさんから口を開くことはない。自分に非があるとはいえ、この空気の重さはなかなか耐え難い……。まるで、初めて出会った頃にまで、人間関係がリセットされたかのようだ。いや、あの時よりも雰囲気的にはもっと悪い。


「あのぉ、ポックルの実、食べます?」


「結構です……。」


 その後はラビア村まで、一切口を聞いてもらえなかった。


 今のエレナさんの様子を見て、ふと、なっちゃんのことを思い出す。


(なっちゃんも一度むくれたら、一週間は口を聞いてくれなかったっけ……。)


 二人の性格は正反対なのだが、こーゆーところはちょっと似ているような気がする。




―――ラビア村


 さて、いつもより長く感じた移動時間ではあったが、ようやくラビア村に到着だ。入口付近では、早速、魔族たちがお待ちかねである。


「貴様でゲスかぁ?我が同胞セーレを倒した人族は?」


(人族扱いしてくれるのは、ちょっと嬉しい♪)


「あぁ、あのコウモリもどきのこと?」


「フン、人族の分際でよくセーレに勝てたでゲスね。」


「いやだって、実際、弱かったし……。」


「図に乗るんじゃないでゲスよ!運良く勝てただけでゲス!」


「はぁ。」


「毎度、上手くいくと思うなでゲスよぉ。今回は、あの中級魔族、ハルファスの兄貴も一緒でゲスぅ!」


 威勢のいいおチビちゃんの次は、C-3P〇をガングロにして、細マッチョにしたような兄貴が凄んでくる。


「おぅ、シャバ僧、お前がうちのセーレをやったんだってなぁ。わかってんのかぁ?今日はきっちり落とし前をつけてもらおうじゃねぇか。」


 そう云いながら、右腕をグルグルと回す。


(おいおい、向こうの言動が、フリにしか感じられないのは何故だ……。)


 こちらは完全に不良漫画でいう、勝パへと突入してしまっている。


「ザガン、お前は女をやれ!俺はこのシャバ僧を殺る!」


「エレナさん、そっちのちびっ子、任せちゃってOK?」


「はい、大丈夫です。」


 仕事とプライベートの区別は一応つけられるタイプのようで、ひとまず安心する。


「おんなぁ、舐めるなでゲスよ!!」


 おチビちゃんは、何の工夫もない直線的な動きでエレナさんに向かっていく。


「ディレイ!クイック!」


ファ~~~~ッ

ヒュ~~~~ッ


 必要はないだろうが、念のため、エレナさんには反転ディレイを、おチビちゃんには反転クイックを掛けておいた。


「さぁ、こっちも始めようか、C-3P〇。」


「んじゃ、コラァ、ボケぇ~!!」


ブン、ブンブン、ブンブンッ……


 ハルファスの兄貴は、ヤクルトのブンブン丸ばりに、自慢の剛腕を振り回す。しかし、モーションが大き過ぎて、まるで当てられる気がしない。もちろん、反転クイックなんて掛けてはいない。


 ……向こうの戦況に耳を傾けてみると、どうやらおチビちゃんは、エレナさんに遊ばれているようだ。


「くっそ~、おんなぁ、生意気でゲスね!」


「あなたの攻撃は、ワタシには当たりません。」


(……勝パ突入しちゃってるし、こっちもさっさと決めようか。)


ブンブン、ブン、ブンブンッ……


「クソぉ、俺のダイナマイトパンチが当たりさえすれば……。」


「だったら、いいよ、当ててみな?別に避けないからさ。」


 自分は手を後ろで組み、ハルファスの兄貴を挑発する。


「なら遠慮はしないぜ、シャバ僧……。あの世で後悔しろぉ!!」


バキッ!!


「ハハッ、もろに顔面に入れてやったぜぇ!…………!?」


「……んで、いま何かしたか?」


「な、な、な、何故だぁ!?完璧な一撃だったはずなのに……。」


 ハルファスの兄貴の表情から一切の余裕が消える。


「司祭ボディの耐久性をナメるなよ?今度はこっちの番だ。わんぱく空手奥義、超ウルトラスーパーミラクルハイパーボディブロー!!」


バコッッ!!


「グゥワハッ……。ゲホゲホッ……。」


 ハルファスの兄貴は、口から大量におぞましい色の液体を吐き出す。放っておいても絶命する気はするが、一応、トドメを刺す。


「ヒールぅ!」


ブゥオーーーーっ!!


「グゥワぁぁ~~っ!!」


(よしっ、こっちは討伐完了!)


 もう一方の戦いはというと……、昨日のストレスを全て発散するかのように、エレナさんはおチビちゃんをフルボッコにしている。


(これじゃあ、どっちが魔族かわかんないっす……。)


 自分が近づいていくと、もう虫の息のおチビちゃんが弱弱しく話掛けてくる。


「……あ、兄貴はぁ?ハルファスの兄貴はどうしたでゲス?」


「天国?いや、地獄へ渡ってる最中かもね。」


「そんなの嘘でゲスぅ。どんなトリックを使ったでゲスかっ?」


 おチビちゃんのかすれた叫び声が、虚しく響き渡る。


「ゴホッ、ゴホッ……。まぁいいでゲスよ。今頃は、“あのお方”がロパンドに到着しているでゲス。ゴホッ……。いくら貴様が卑怯な手を使おうと、あのお方には、絶対に敵わないでゲスよ。ゴホゴホッ……。残念だったでゲスなぁ。あの街も、今夜が山田……。」


 そう云い残して、おチビちゃんは息を引き取った。最後、そこは『今夜が山でゲス。』だろとツッコミたくはなったが、どうにも嫌な予感がする……。


「エレナさん、急いでロパンドに戻ろう。」


「はい。」





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


おやおや、一難去ってまた一難みたいですね。

そもそも、エレナさん問題が解決されたのかどうかも不明ではありますが笑

さてさて、現在、ロパンドでは一体何が起こっているのでしょう??


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