第6話「最後の希望」

「またな、セバス!」


 この世界で初めてできた友達、スネイル。


 実のところ、元の世界において、自分は、ゴリマッチョ系とは少し距離を置いてしまうところがあった。家でいくら腕立てや腹筋をしたところで、なかなか筋肉の付かない痩せ型の体質。そんな自分は、ゴリマッチョに対して、どうにも劣等感を抱いてしまうのだ。でも、このゴリマッチョとは不思議とウマが合う。こちらの世界でも、元の世界でも、初めてできたゴリマッチョ系の友達、スネイルである。


 ……やっとのことで門をくぐると、街はどうにもお祭りムードだ。正面を抜ける大通りの脇では、露店の準備が進んでいる。


(もしかして、死神様の新歓コンパかなぁ?)


 残念ながら、というか幸い違う。スネイルによると、明日は市長の就任記念日を祝う祭があるらしい。『市長ってそんなに偉いの?』と尋ねてみると、『お前なぁ……。』と呆れられながらも、それ以降は、無知な奴という前提で教えてくれた。

 商業都市ロパンドは、勇者真教を国教とする“ゴリン王国”に属しているのだが、王国は都市国家の体制を取っているため、市長が実質、一国の主なのだそうだ。もちろん、王都には国王がおり、都市国家を統括する役割を果たしている。周辺の町村は、どこかしら、都市に属しており、自治体制や方針は基本的にその都市に一任される。ロパンドは商業都市をうたっているため、警備や街の清掃、道の整備などその他もろもろは入札で決められるという。ぶっちゃけた話、癒着やら何やらはあるようで、スネイルの所属する商会は、警備における入札で、現在、28連勝中。まさに、ロパンドの大阪〇蔭(注1)だ。それも込みで、何とも自由競争、民主主義的である。


 スネイルからは、他にも色々と教えてもらった。


 門番の主な役割には、通行料の徴収の他に、亜人族の侵入阻止も含まれているらしい。亜人族とは、主に、エルフ族、ドワーフ族、獣人族の三種族のことを指す。他にも、ホビット族等の少数民族もいるが、出くわすことは皆無という。約9割の亜人族は邪教徒のため、勇者真教を信奉するこの街の中へ、通す訳にはいかないのだそうだ。

 それと、ロパンドは冒険者の街としても有名なのだという。ここのギルドの支部長は、王国にあるギルドの中でも特に発言権が強いとのことだ。ギルドは王国の直轄組織なのかと尋ねてみると、運営自体は王国ではないが、設立には王国の援助もあったという。恐らくは、天下りもあるだろうし、三セクのような組織なのだろう。


 ……まぁ、そんなことはどうでもいい。知りたいのはギルドの仕組みである。


 まずは、登録についてだ。プライベートカードを隅々までチェックされ、情報が登録される。魔力測定などもあるという。


(そりゃ、そうだよなぁ……。)


 次に、登録料だ。小判1枚と十文銭2枚らしい。


(……いくらだ??)


 文に換算すると120文。それに対して、現在の手持ちは11文。10倍以上の額である。


(どっちにしろ、登録は無理だね……。)


 他にも色々とギルトについて聞こうかと思っていたが、一気に聞く気が失せた。


 そんなことより、よっぽど有益な情報がある。街の南東部には安宿街があり、今の手持ちでも泊まれる宿があるそうだ。素泊まりでも、幸い、鏡泉の水とポックルの実があるので、どうにか食いつなげる。猶予はあと二日。その間にどうにか稼ぎ口を見つけなければならない。


「……そうだ!?」


 ……次の瞬間、再び、ビビビッと悪知恵が回る。


『お主もワルよのぉ。』


 どこからともなく、越後谷でのお褒めの言葉が聞こえてくる。思いついたアイディアを早速実行に移すため、街の西部にあるという冒険者ギルドを目指す。早歩きで、祭り準備中の通りを抜ける。


「よしっ!」


 迷わずギルドへと到着した。


「……あのにしよう。」


 何とも有難いことに、ギルドの手配書は建物内で確認する方式ではなく、外にある掲示板で確認する方式のようだ。……流れは完全にこちらへ傾いている。そして、今、一人少女が掲示板の手配書を眺めている。一見すると、街の不動産屋さんの前でお部屋探しをしている学生のようだ。


(この春から大学入学なのかなぁ??)


 ……でもここは、アパ〇ンショップの前ではない。さぁ、声を掛けよう。


「あのぉ~、魔獣討伐の依頼をお探しですか?」


 何とも、ギルドの中の人を装う怪しい男のような声かけだ。それに反応し、少女は驚いた表情でこちらを振り向く。


 よく見ると、というか、よく見なくても、途轍もない美少女だ……。


 その少女の外見は、クリっとした目に、青い宝玉ほうぎょくのような美しい瞳、フランス人形のような綺麗な肌、パステルブルーの長い髪には、緩やかなウェーブがかかっている。


(一体、どんな染料を使えばこんな髪色になるんだ?)


 左手には、大きな青い水晶のようなものが付属されたロッドが握られている。

 ……ただ一つ残念なのは、露出度が皆無なことだろうか。コミケでコスプレイヤー達が見せる恰好とは対極だ。白い修道服?のような服装で、所々、アクセントに水色のラインが入っている。非情にガードが固めな恰好ではあるが、ここは清楚系ということで納得しておこう。


(……しっかし可愛いなぁ。。なっちゃんの次くらいに。)


 つい、その姿に見入ってしまっていたところ、美少女の口から耳を覆いたくなるような一言が発せられる。


「……しっ、死神さん!?」


 怯えた表情で、人族、セバコタローに問いかける。


(な、何故だ……!?)


 ドクロマークは隠してある。物騒な鎌はブラックホールの中にしまってある。もちろん、怪奇光線ヒールなどはお見せしていない。……なのにどうして??今のところ、この状態では、死神認定されたことはない。


 ……自分はある仮説を導き出す。


(もしや、そういうことだったのか……。)


 女将さんも、スネイルも、ファーストコンタクトとしては、云わば、『なんだか怪しい奴が来たけど、仕事だし、まぁ、しゃーないか。』の精神で接してくれていたのだ。

 今度は、自分への忖度なしで、客観的にセバコタロー、もとい、セバスチャンを観てみる。


 鎌のように長い手足に、ドラキュラ伯爵のマントのような黒いローブ、目元のクマに、不愛想な表情、そして、意識高い系女子もビックリなその白肌は、あの鈴〇園子(注2)にも肉薄する。


(あ……、こりゃ、完全に死神や。)


 不信感を払しょくするために、ここはもっとフランクに話し掛けてみよう。前の二人だって徐々に仲良くなったのだ。まだ、挽回のチャンスはある。


「拙者、流浪人セバスでござる。悪党退治のお供をするでござるよ。」


「…………。」


「……おろ?」



ツ~~~~~~ン



 場の雰囲気が凍り付く。美少女からの冷たい視線が突き刺さる。まさか、マヒ〇ドを使ったのか!?……否。単に、自分が対応を誤っただけだ。

 そして、もう一つ重要なことを見落としていることに気づく。前の二人に共通していること、それは……、“始まりの森の守護神グリーズ様の聖肉”だ。女将さんも、スネイルも、聖肉を差し出したあたりから、態度を軟化させていった。しかし、その聖肉は、既にアイテムボックスの中にはない。


(完全に詰んだ……。)


 ……それでもまだ、自分には一筋の光が見えている。というより、思いつく限り、もうこれしかない。ただし、その難易度は、蜘蛛の糸を辿って地獄を脱出するレベルの無理ゲーだ。あのカンダタ先輩ですら、成し得ていない。


 一か八か、アイテムボックスを開き、ポックルの実を美少女に差し出す。


「わぁ~、ポックルの実!ありがとうございますっ!!」


 ……嘘やぁ~ん!?めっちゃ食いつきがいい。




(注1)誤解を招く表現となり、大変申し訳ございません。大阪桐蔭野球部は、クリーンな野球を展開する素晴らしいチームです。怪我した相手チームの選手に向かって、真っ先に冷却スプレーを持っていく姿、本当に感動しました。これからも陰ながら、応援させて頂きます。

(注2)誤解を招く表現となり、大変申し訳ございません。お美しい肌の形容表現で、それ以上の他意は全くございません。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ようやく、ヒロインが登場しました!

ポックルの実に救われた形にはなりましたが、

まだこの二人がパーティを組むイメージが沸きません。

果たして、このままセバス君の仲間になってくれるのでしょうか??


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