第4話「死神降臨」

 ……自称、上級魔族が空から降ってきて、砂埃が舞い上がる。


「どうにも辛気臭い村だっぴょん。」


 だっぴょん言葉を使ってはいるが、全くもって可愛くはない。風貌といえばあれだ……。ワールドカップが来る度にやってくる“わたし”に近い。その“わたし”の全身をべっとりと真っ黒に染め上げ、羽を生やし、頭に二本ツノ付けた、まさにそんな感じだ。


(マジで、4年に一度だけにしてくれよぉ……。)


 一方のミゼルぴょんは、こちらの心労などガン無視で暴れ始める。


ブォ~~~~ッ!!


 吐き出す炎が、質素な家々を焼き払う。


『うわぁ~~~~っ!!』


 パニックであたふたする村人たち。村の用心棒も完全にひよっている。


(流石に何とかしないと……。)


「おい、お前、ちょっとやめろよなぁ。みんな困ってるだろ。」


 咄嗟に出たセリフがこれだ。それはまるで、勇敢にも一人で不良たちに立ち向かっていく、正義感に満ちた少年Aだ。そして、大体こういった場合、少年Aは返り討ちに合い、袋叩きにされてしまうのだ。……今回はそうならないことを祈ろう。


 ミゼルぴょんがこちらを振り向く。


「何だっぴょん、あなたぁ?んっ?そのドクロマーク……。あなた、あの忌々しい死神の崇拝者ピョンね?あなたから始末してやるピョン!」


ダッッ!!


 ミゼルぴょんがこちらに突っ込んでくる。そして、自分はそれを生理的に避けて回り込み、背後から横腹にミドルキックをかます。


バコッ!!


 綺麗に入ったが、物凄く硬い。まるでトラクターのタイヤを蹴っているような感覚だ。


「痛ったいわねぇ。人族如きがわたしにダメージを与えるだなんて……。あんたぁ、死刑決定よ!!」


 ミゼルぴょんの口から、だっぴょん言葉が消える。相当、ご立腹のようだ。次の瞬間、バックハンドブローが飛んできて、身体を家屋まで吹き飛ばされる。


ドゴーーンっ!!


 めちゃくちゃ効いたが、おかげで、昼寝後でボーっとしていた頭がすっかり冴えた。云うても相手は上級魔族。流石に、打撃攻撃だけでミゼルぴょんを倒すのは難しそうだ。一身上の都合で控えてはいたが、大鎌様とあの禍々しいヒールを解禁するしかない。


「もうやったるわ、全力でっ!!」


ダッダッダッダッダッダッッ……!!


 生理的な嫌悪感を抑えながら、ダッシュでミゼルぴょんへと近づく。そして、戦闘素人にだからこそ許される、火力に任せた攻撃を繰り出す。


「ヒール、ヒール、ヒールぅ!!」


ブゥオー、ブゥオー、ブゥオーーーーっ!!


 三発全て直撃した!そして、悲鳴が聞こてくる。


『ギャ~~~~っ!!』


 ミゼルぴょんのものではない。……村人たちのだ。怪奇光線三連発を目の当たりにして、さぞ恐怖を感じたのだろう。まるで妖怪大戦争を見るような目でこちらを見ている。


「……あぁ、なんかもう、手遅れのような気もする。」


 諦めの境地と共に、ブラックホールの中から、黄泉の大鎌を取り出すと……、


『上級魔族程度、今ノ其方デモ十分ニ葬リ去ルコトガデキルデアロウ。』


 大鎌様が自分の脳裏に囁きかけてくる。その言葉に勇気づけられた自分は、煙を上げるミゼルぴょんに向かって切りかかる。


ヴゥンッ!!


 寸でのところで躱されてしまうが、既に先程のヒール三連発により、ダメージは深刻なようだ。


「そ、それは、黄泉の大鎌ぁ!?……そういうことぉ。あんたが“死神”だったのね!!」


 響き渡るミゼルぴょんの声、青ざめる村人たち……。この状況の中、全く空気の読めない発言をしたミゼルぴょんに対し、頭に血が上り、怒りに身を任せて身体に刻み込まれた大鎌様の必殺技を放つ。


「……お前なぁ、そーゆーところだぞぉ!!秘義、かまいたちっ!!」



ヴゥオ~~ンッ!!



 真空の刃がミゼルぴょんを貫く。真っ二つになった体から、噴水のように血が噴き出す。そして、その汚い返り血を浴びる人族、セバコタロー。


 その姿は傍から見れば、そう、まさに死神だ……。


「……グッ、グハッ。ゲホゲホッ。」


 血を吐き、上半身と下半身が完全に分離しているミゼルぴょん。しかし、まだ息がある。恐らく、もう絶命する寸前であるとは思うのだが、それでもなお、顔を起こす。そして、自分への言葉の暴力を続ける。


「……死神ぃ、よく聞きなさい。“覇魔の大魔神”様は復活されたの。大魔国と魔族領を繋ぐワープゲートに張られた結界は徐々に弱まっているわ。今までみたいに下級魔族だけがゲートを通過できると思ったら大間違いよ。中級、上級魔族はもちろんのこと、もうすぐ悪魔王クラスの魔族もこの世界に流れてくるの。だから、覚悟なさい、死神っ!わたしの同胞たちの手にかかれば、あんたなんか……、イ・チ・コ・ロなんだから……。ばきゅん♪」


 大魔神とやらが復活した事実を告げ、息を引き取るミゼルぴょん。そのザラ付いた声質は嫌でも耳にこびり付く。


(人のことを散々、死神呼ばわりしやがって。最後まで、何て嫌がらせだ。)


 幸い、ハートは撃ち抜かれずに済んだが、ミゼルぴょんの言葉は、当然ながら、村人たちの耳にも入る。そして、村の長老風の男が一歩前に出てきて、口を開く。


「あの胸のマークは、間違いねぇ。400年前、人族に厄災をもたらした極悪非道の死神だべ。」


「ちょ、待てよっ!!」


 ラ〇ジェネレーションの伝説のセリフが口をつく。


 『じいさん、マジで勘弁してくれ!このロンティは厨二の時、2,980円で、Amaz〇nから取り寄せた代物だ!しかも消費税5%時代に!!』と説明しても恐らく通じまい。


 例の貴婦人二人が、後に続く。


「し、死神だべぇ……。」


「あぁ、間違いないべ。見るからに悪そうな顔してるだ。」


 他の村人たちも一斉に口を開く。


「し、死神ぃ、何しにカルネラさ来たぁ!!」


「村から出ていけ!!」


「亜人共の国に帰れー!!」


 まるで、親の仇と云わんばかりの集中砲火だ。無駄だと分かってはいるが、一応弁明する。


「いや、ほんとそれは誤解なんです。オレは人族で、セバコタローといって。この世界には来たばかりで……。」


「何さ訳のわかんねぇことを……。おら達を惑わそうって魂胆だべぇ!」


 予想通り、聞く耳は持ってくれない……。何しろ自称、上級魔族のお墨付きだからだ。それより、自ら本名を名乗ってしまった痛恨のミスに気づく。


(後々、後悔するような事態にならなきゃいいんだけど……。)


 続けて村人たちは……、



『かーえーれっ!、かーえーれっ!、かーえーれっ!、かーえーれっ!』



 手拍子をしながら、追い打ちをかけるように、まさかの“帰れコール”を浴びせてくる。こんなのは学園ドラマでしかお目にかかれない。完全に学級が崩壊している……。


 一瞬、自分の中の死神が『村を滅ぼしてやろうか?』と囁いてきたが、それをやっちゃ、本当に死神だ。自分の中の邪心を必死に鎮めていると……、


ブッ、ブーッ♪


 通知バイブが鳴り、またしても激しい頭痛に襲われる。理由は何となく分かる。もう一段階上の怪奇光線ヒールの打ち方が、頭に入って来たからだ。おおよそ、ミゼルぴょんを倒したご褒美といったところだろう。昼寝をしていたおかげで、今回はどうにか気を失わずに済みそうだが、その間も、自分に浴びせられる“帰れコール”。


(……何か色々、心が折れそうだ。)


 もちろん、『オレ、割と村を救ったんじゃね?』という気持ちも入り混じる。

 女将さんには大変申し訳ないが、もはや宿に戻れそうな雰囲気ではない。この空気感の中、平然と夕食をいただく度胸が自分にはないからだ。そして何より、女将さんに迷惑を掛けてしまうのは本意ではない。


「覚えてろよ~っ!!」


 まったく、悪役が吐く捨て台詞を残し、沈みゆく日の中、南へと逃走した。




―――商業都市ロパンドへ通ずる街道


タッタッタッタッタッタッ……


 ……追われるように村を後にし、夜道をハイペースで駆け抜ける。恐らく、フルマラソン世界新記録ペースだ。目の前に、立ちはだかる峠。そして、自分は根本的な勘違いをしていたことに気がづく。そう、これはマラソンではなく、箱根駅伝なのだと。今は、全く立ち止まりたくない気分だ。箱根の関所を越え、なおも走る。


「オレは4代目山の神だっ!!」


 しばらくすると、朝日が昇り、村が見えてくる。


(とっても綺麗だなぁ……。)


 ミゼルぴょんの襲撃を受け、破壊が進んだカルネラとは比べものにならない。まるで、イギリスのコッツウォルズにあるような美しい村だ。もちろん、実際には行ったことはない。BSの特集で見たやつにそっくりという意味だ。しかし、今は、どうにも立ち寄る気にはなれない。まだ、“村アレルギー”が残っているからだ。なにせ、あの“帰れコール”はトラウマものである。更にペースを上げ、村を通り過ぎる。あのキプチ〇ゲと見間違う速さだ。もしかすると、実業団入りのスカウト話も来てしまうかもしれない。

 昼頃になると、流石の高スペックボディも疲労を感じ、速度をやや緩める。途中、カルネラ方面へ向かう行商人風の男を見かけたが、念のため、腕を組んで、うつ向き加減ですれ違う。

 ……その後も足を動かし続け、気がつくと、いつの間にか日は落ちかけていた。


「疲れたぁ……。」


 それもそのはず、昨晩からノンストップで走りっぱなしだ。そして、今更ながら、怪奇光線三連発の疲労も込み上げてくる。


「……んっ、あれは?」


 街道の脇に、小屋のような、あばら家のような建物がある。人のいる気配は感じられない。中へ入ると、ワラのベッド、くたびれた椅子とテーブル、ランプ等が備わっている。ここは、旅人にとってのセーブポイントみたいなものなのだろうか?


(よし、決めたっ!)


「ここをキャンプ地とするぅ!!」


 重要なのは“メシより宿だ”。百戦錬磨のど〇でしょう軍団もそう云っている。


「……そういえば。」


 カルネラ村で、『ブッ、ブーッ♪』となった通知が気になり、スマホを取り出す。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


[基本情報]

氏名:セバ コタロー

年齢:22

性別:男

種族:人族

天職:ヒーラー*

称号:大神官

状態:正常


=> 習得魔法

=> 習得スキル

=> アイテムボックス


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 称号が、“神官”から“大神官”に変わっている。走りながら感じてはいたが、身体のスペックは更に上がっているように思う。試しに、なんちゃってシャドーボクシングで確認してみると……、


シュッ、シュッ、シュシュッ、シュッシュ、シュシュッ!!


 拳風でワラが舞い上がる。これは間違いない。


(カルネラのみんなぁ、今日からオレのことは“死神”ではなく、“モンスター”と呼んでくれぃ!)


 ……どちらにしろ、村から追われることは確定だ。


「ハァぁ……。」


 とりあえず、木の桶と鏡泉の水を使って、衣服に付着したミゼルぴょんの返り血を洗い落とす。おぞましい色の血ではあったが、不幸中の幸い、黒のロンティだから、汚れは目立たない。そのまま、衣服を干してパンツ一丁となる。

 空腹はポックルの実で紛らわす。ヒグマもどき、もとい、グリーズの肉も少し残ってはいるが、流石に調理器具は置いていない。


(まぁ、そもそも、オレ、料理なんて出来ないんですけどね……。)


 他にも何かやらなきゃいけないことがある気もするが、もういい。今日は寝よう。ワラのベッドに横たわると、恐らく1分もかからずに眠りに落ちた。


ZZz……♪




―――翌朝


ピーッ、ピッ、ピッピ……


 小鳥のさえずりと共に目が覚める。粗末なベッドではあったが、熟眠できたおかげで、目覚めは良い。日の光が差し、明るくなった部屋を見渡すと、壁に黒いローブが掛かってあるのに気づく。拝借して、早速、着てみるとサイズはぴったりだ。

 余計に死神に見えなくもないが、今はこのドクロマークを隠すことが最優先である。


「さぁ、行こう!!」


 あばら家を出発し、もう一つの峠を越える。

 視界が広がると、そこに見えるのは……、商業都市ロパンドだ。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


村人からの“帰れコール”には流石に心折れますね……。

さて、次話からは、商業都市ロパンド編に突入です。

美少女ヒロインが登場したり、一緒にクエストをこなしたり、

大天使サリエル様が出てきたりと、

ようやく、ファンタジーものらしくなってきます笑


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