第3話「上級魔族、襲来」

グリィ~~ズ!!


 突如として現れた大型の獣は、雄叫びを上げながら、こちらへと突っ込んでくる。


タッッ!


 自分は咄嗟に右後方へと飛び、それを避ける。


(うほっ、自分の身体が羽みたいに軽い♪……それにしても、コノヤロー、いきなり鋭い爪の付いた手で殴りかかってきやがった。)


 獣はヒグマに似ているが、もっと丸くてデカい。そして、例に漏れず額には立派なツノがある。


グリィ~~!!


 追撃にきた。この獣、見た目によらず速い。


「クソっ、ケンカっ早過ぎるだろっ。」


ダッッ!!


 獣の頭上へと高く飛び、首元へ思いっきり踵落としをお見舞いする。


ガツン!!


 綺麗に決まった。獣はどうにか立ち上がろうとするが、どうにも足に力が入らない様子だ。まさか、こんなところで、小学生の頃通っていた“わんぱく空手教室”での鍛錬の成果が出ようとは……。まぁ、ぶっちゃけた話、完全にこの恐ろしくハイスペックな身体のおかげだ。自分の身体じゃないみたいに、力が漲っているのを感じる。


グリィィ……


 うずくまりながら唸り声を上げる獣を見て、自分は全く根拠のない確信を持つ。


「やい、ヒグマもどきっ!ツノウサちゃんに大怪我負わせたのはお前だなぁ!?正義の裁きを受けて見ろっ!!」


 そして、正義のミカタが使うとは到底思えない例の必殺技を放つ。


「ヒールぅ!!」


ブゥオーーーーっ!!


 怪奇光線ヒールを受けたヒグマもどきは、ピクリとも動かない。それもそのはずだ。胴体には広く深く穴が開いている。ツノウサちゃんの件に関しては完全に八つ当たりだが、仕掛けてきたのは向こうだ。文句はあの世で云いやがれ!


「う~ん……。」


 横たわるヒグマもどきを見て、少し知恵を働かせてみる。……もしかすると、この世界では物々交換の習慣があるかもしれない。一応、ツノと肉を少し貰っておこう。


(そう、そういえば、アイテムボックスの中には……。)


=> 黄泉よみの大鎌


「あった、これだ!」


 何とも仰々しい名前だが、初めての活躍機会が食肉解体になろうとは、この大鎌も思ってもみなかっただろう。


「さぁ~てと……。」


 ブラックホールの中に手を突っ込み、大鎌を取り出す。


 すると……、


ヌゥおぉ~~んっ!!


 その圧倒的な存在感に、周りの空気が一変する。


(これはマジでヤバいやつだ……。)


 黒紫色をした片刃は緩やかに反り、波打つ波紋が輝いている。柄は黒い硬質な金属製で、その末端はドーナツ状の形をしている。


(……んっ?これは、古代文字か何かか?)


 柄には、走り書きされた昔の和文みたいなものが、縦方向に4列で刻まれている。何が書かれているかはさっぱり分からないが、何だか怨念めいたものを感じる。


(でも、直観でわかる。きっと知らない方が良いような内容だな……。)


 ただ、その見た目に反し、柄はよく手に馴染み、重量は適度に重く、とても扱い易そうだ。


 まじまじと大鎌様を眺めていると……、



『……其方ガ、新タナル“サイザー”カ??』



 突然、歪みつつも重厚な声が聞こえてくる。


「…………!?」


(な、なんだ!?頭の中に何者かが直接語り掛けてくる……。)


「も、もしかして、黄泉の大鎌さんでしょうか??」


『……ソウカ、ヤハリ、我ノ声ガ聞コエルノダナ。』


「あ、あのぉ、“サイザー”とは、一体何のことでしょう??」


『フンッ、ソノ件ニツイテハモウイイ。既ニ、解決済ミダ。』


「そ、そうですか……。」


『良カロウ、我ノ力ヲ其方ニ貸ストシヨウ。』


「えっ?チカラっ!?」


(いきなり何なんだ!?)


『…………。』


 大鎌様の声が聞こえなくなると、今度は……、



ジュおぉ~~~~~~~~んっっ!!!!



 禍々しいオーラが大鎌様全体を包み込む。


「こ、これはっ!?」


 凄まじいエネルギーが、両腕に伝わってくる。


「す、すげぇ……。」


 試しに、周囲の木に向かって、大鎌様を振るってみると……、


ヴゥンッ!!


 スター・ウ〇ーズのライトセ〇バーのような音を発し、木は切れ落ちた。全く力は入れていない。まるで切れ味鋭い包丁で、絹豆腐切っているかのような感覚だ。切れた木の断面は滑らかでとても美しい。


(……うほっ、何だか少し楽しくなってきたぞ♪)


ブン、ブン、ブブン、ブン、ブン、ブブン、ブンッ!


 まるで、湘南暴走族がバイクを吹かし、国道134号線を突っ走るかのように、木々は倒れていく。


「フハッ、フハハハッ♪」


 不覚にも思わずニヤけてしまい、悪人のような笑い声が漏れる。


「ヒ、ヒェッ……。し、しっ、死神っ。」


ガサゴソガサゴソ……


 突然、付近の藪が揺れる。


「んっ?気のせいかなぁ……。」


 一瞬、人の気配がしたような気もしたが、きっと小動物か何かだろう。


 ……結局、ヒグマもどきの解体はいとも簡単に終わった。収納までの時間を含めても、恐らく10分と掛かっていない。何とも罰当たりな使い方だが、流石は大鎌大明神様である。


 その後、小一時間ほど小道を進むと……、


「村だぁ~!!」


 森を抜けた先の一段下に、村が広がっている。方角は分からないが、左手には岩山が連なる。つい今しがた『村だぁ~!!』とハイテンションで声を上げてはみたものの、村自体に活気はなく、どうにも寂れた様子だ。


「第一村人、発見!!」


 見たことがある訳ではないが、中世ヨーロッパの村人?のような恰好をしている。通りに出たが、人影はまばらで、特段こちらに注意を向ける様子もない。


 更に通りを進むと……、


「……カルネラの宿??」


 思いっきり日本語の看板だ。十中八九、この建物が何なのか、予想は当たっているだろう。


(言葉も通じるのかなぁ?とりあえず、中に入ってみよう。)


キィ~~~~ッ……


 扉を開けると、薄暗い受付部屋の奥から女主人が出てくる。なかなか恰幅の良い、恐らく、50歳前後のお姉さんだ。


「いらっしゃい。旅の人かい?」


(やっぱ、言葉も日本語だ。)


「ええ、まぁ……。」


 女主人は自分の厨二シャツに気づくと、急に顔色を変える。


「あんたねぇ、どこからやってきたか、知らないけど、そんなもん着てちゃいけないよ。」


「えっ、何か問題でもあるんですか??」


「そりゃ、あんたそのドクロマーク、“死神”崇拝者のシンボルじゃないか。あんた人族だろ?」


「はい、そうだと思いますけど。“死神”って何ですか?」


「そりゃ、“亜人共”が崇めている神みたいなもんさ。私はそんなに歴史は詳しくないけど、400年くらい前に現れて、当時、人族の奴隷だった亜人共を攫っていったり、各地で暴動を起こしたり、他にも色々と悪事を働いたって話だよ。」


「そんなにこのシャツって、マズいですかね?」


「当たり前だよ!!人族の王国は勇者信仰!それに対して、亜人共が独立してできた国は死神信仰!あんた、そんなの着てるの見つかったら、反逆罪ではりつけの刑にされても文句は云えないよ??」


 女主人は自分からの能天気な質問に、語気を強めて警告する。


「そうなんですね……。」


 確かにそれはヤバそうではある。ただ、今はこれしか着る物がないし、なっちゃん捜索のことを考えると、あまり、服は替えたくない。


 ……その問題は一旦置いといたとして、喫緊には今夜の寝床だ。


「あのぉ、実は……、宿に泊まりたいんですけど、お金がないんです。」


「あんたねぇ……。」


「その代わりといってはなんですが、これを……。」


 アイテムボックスを開き、先程獲ってきたヒグマもどきのツノと肉を差し出す。


「これは、“グリーズ”のツノと肉だね。……いいよ、泊っていきな。しっかし、今の時代、物々交換とは……。あんた、ほんと一体どこの田舎からやってきたんだい?」


「はははは……。」


 愛想笑いで受け流す。


「ほら、それとこれ、お釣りだよ。」


ジャラリラリん♪


 初めて見るこの国の通貨。どことなく、江戸時代?の一文銭みたいだ。


(……それにしても、カモろうと思えばカモれただろうに、律儀にお釣りだなんて。“亜人共”って云い方はちょっと気になったけど、見かけによらず良い人だな。)


「あぁ、ちょっと待ってな、今、昼食を用意するから。」


 女将さんはそう云って、厨房へと向かい、グリーズなる肉の入ったシチューに、ライ麦パン、サラダを振舞ってくれた。


 食事をしている間は、女将さんがこの村のことについて話をしてくれた。……ここはカルネラの村。“マゾクリョー”という場所の近くにあり、かつては鉱山の街として栄えていたのだという。しかし、年々、“マスイショー”なるものの採掘量が減り、労働者が離れ、過疎化が進んでいるらしい。とはいえ、今も村人のほとんどは、鉱山労働に従事しているようだ。また、若い人の中には、村の用心棒や狩りで生計を立てる者もいるという。

 それから、カルネラから一番近い街についても教えてもらった。ここから南の方角にロバンドという商業都市があるそうだ。馬車で道なりに進めば、3、4日の距離だという。途中、峠が二つと小さな村があるらしい。

 自分が次はロパンドを目指してみると伝えたところ、女将さんは、念のためにと、その場で地図をハンドスケッチしてくれた。この世界について、何一つ知らない自分にとっては、本当に有難い。おかげで、おおまかなこの世界の地理を知ることが出来た。家宝と云っても差し支えないこの地図は、大切にアイテムボックスへと奉納した。


 ……なお、調理されたグリーズなる肉は、期待を裏切りとても美味であった。その見かけ、気性によらず、クセがなく、ケダモノ……、もとい、獣臭は一切ない。甘い肉汁がまろやかなシチューに溶け込み、本当に絶品だった。ヒグマもどきのことをここまでベタ褒めするのは、少々、悔しい気もするが、改めて思う。この日、自分は真の意味で“弱肉強食”を体現したのだと……。


 食事が終わると、女将さんは自分を二階にある客間へと案内してくれた。部屋の中は、まさかの畳に敷布団……。多少、かび臭くはあるが、野宿よりは数倍マシだ。


「あー、お腹もいっぱいだし、ちょっと眠くなってきたな。」


 まぁ、無理もない。昨日は野宿で眠りが浅かっただろうし、今朝はハードなエクササイズもこなしている。


「んじゃ、お昼寝でもするか。」


ZZz……♪




―――時が進むこと数時間


 目が覚めると、窓からは夕日が差し込んでいた。村は夕焼け色に染まり、何ともノスタルジックな光景だ。


「ちょっと、散歩でもするかな。」


トン、トン、トン、トン、トン、トン……


 下の階へ降りると、女将さんと目が合った。


「今からどこかへ行くのかい?」


「あ、ちょっと散歩にでも。」


「日が落ちると、寒くなってくるからね。風邪ひかないように。」


「ありがとうございます。」


「夕食作って待ってるから、お腹すいたら戻っておいで。」


「はいっ!」


(やっぱ良い人だなぁ、女将さん。)


 外へ出ると、この時間帯、帰路につく人々でさっきより人出が多くなっている。通りでは、初老の女性二人が、よもやま話をしていた。


「あの話、聞いたかい?」


「あぁ、聞いた、聞いた。」


「出たんだってねぇ、死神が。」


「あぁ、今日はみんなその話ばっかさぁ。」


「狩りやってるベルドナ君が、森の中で、鎌さ振り回して、笑い狂ってる姿見たって。」


「あぁ、あの子はすんげぇ真面目な子だ。嘘云いふらす訳ねぇべ。」


「んだな。だべど、やっぱあの有名な“天からの預言”ば、ほんとなんだべかね?」


「あぁ、“ハマの………”が復活する時、“勇者様”と“死神”がまた現れるさって話ね。」


「恐ぇな。」


「あぁ。」


 その話が耳に入ると、自分は反射的に腕を組んでドクロマークを隠し、極端に猫背になった。何故なら、思い当たる節があるからだ。


(あの時の気配は、小動物のものじゃなくって、狩人の兄ちゃんのものだったのか……。)


 更についてないことに、その兄ちゃんはここいらでは、絶対的な信用があるっぽい。


(……死神なんかと誤解されちゃ、たまったもんじゃない。)


 なにせ、自分は“人族、セバコタロー”である。


(ことを荒立てちゃいけない。明日の早朝、ひっそりとこの村を立とう。)


 そんな中、人の心配を余所に、空気を読まずにアイツがやってきた。



ドカーン!!



「上級魔族のミゼルだっぴょん♪」


 ……こうして、セバコタロー、“死神認定”へのカウントダウンが始まった。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次話は、ある意味、物語の転換点、ミゼルぴょんとの戦いです!


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