第2話「魔法、反転!?」
ジュ~~~~~~ッ……
立ち込める煙と微かな異臭が鼻を刺す。
(……いっ、今、一体何が!?)
目の前で起きたことに理解が追い付かず、脳が混乱する。
「ヒ、ヒールを使ったんじゃないのか……。」
頭に鮮明に残るのは、禍々しい閃光に包まれ、溶けるとも、焼けるとも、如何とも形容し難いエフェクトの中、消失するツノウサちゃんの姿……。
「これがHealだと!?Heelの間違いだろぉ!!」
一人ツッコミが虚しく響き渡る……。
(この世界で初めての友達になるはずだった。名前もすぐに付けてあげるつもりだった。なのに、あんまりだ……。)
「……ツノウサちゃん。。」
ツノウサちゃんとの突然の別れに、悲嘆に暮れていたところ……、
「んっ??また、急に頭が痛くなって……。ぐッ……、うわぁ~~~~っ!!」
再び、意識が途切れる。
「…………。」
……恐らくは、1、2時間ほどだろうか。今までの人生で、寝る時以外に意識が飛ぶ経験なんてしたことがない。なのに、今日だけで二度もだ。
「……うっ。」
やはり、起きがけの頭は重い。
気を失う直前、頭の中へ一気に情報が流れ込んできた。どうやら、初めて使った先程のヒールがトリガーとなったようだ。治癒魔法、補助魔法、蘇生魔法に召喚魔法、そして、スキル。一部、効果の分からないものもあるが、一通り使い方が分かるようになっている。
その後、スマホ画面の情報と擦り合わせをし、実験がてら少し魔法を使ってみた。……察するに、自分が魔法を使うと効果が“反転”するようなのだ。そもそもヒールの反転ってなんだよ?とは思う。その結果が、この“怪奇光線”なのか!?
ここまでざっと見てきて、いくつか気になった点がある。まず、“天職:ヒーラー”の横にある*(アスタリスク)だ。何とも不自然というか、何を意味するものかが分からない。ひょっとすると、このマークが、魔法を反転させている原因なのだろうか?
次に気になったのは、召喚魔法の“大天使サリエル”だ。スマホに詳細が表示されていない上、魔法が反転している以上、容易に使える代物ではない。大天使様を呼ばざるを得ない時は、よっぽどヤバい状況といえる。今は、使う機会が訪れないことを切に願おう。
最後に、“大鎌使い”のスキルを習得していること。“天職:ヒーラー*”とは、全く結びつきを感じないスキルだが、アイテムボックスには得体の知れない名前の鎌が格納されている。とりあえずは、触らぬ神に祟りなしだ……。
「……さてと。」
いつまでも、ここにいたって仕方がないため、先へ進むことにする。
(上手いこと、平野に出られるか、見晴らしの良い高台や川が見つかればいいんだけど……。)
タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ……
しばらく歩くと、辺り一面に木の実が落ちていることに気がつく。小さな、こげ茶色のメロンのような形だ。
「……食えるのかなぁ、これ。」
一応、保存食としては取っておきたいところではある。
(でも、今食べて食あたりでも起こしたらなぁ……。)
何しろ、補助魔法、“アンチ-ポイズン”を使ったところで、症状が悪化するのは目に見えている。ただ先程、アイテムボックスの中には、多種多様な容器があるのは確認済みだ。
「一応、持ってくか。」
ビュオォ~~ッ……
アイテムボックスの見た目は、小さな渦巻くブラックホールだ。その中から、冷蔵庫収納サイズの大きめのタッパみたいな容器を取り出し、木の実を詰める。アイテムボックスに収納すると……、
ブッ、ブーッ♪
バイブレーション機能が作動し、名前が表示される。
=> ポックルの実
タップすると、効果が表示された。どうやら栄養補給元になるみたいだ。他にも、ビタミンEやらリノール酸やらカルシウムやら、成分も表示されているが、ここでは割愛しておこう。
……更に、歩みを進める。森の様子も大分変わってきて、先程までの息苦しさと圧迫感はもう感じない。辺りには、鉄パイプほどの細長い木々が立ち並ぶ。先は見易くなったのだが、日はもう暮れかけている。
「んっ?あれは……。」
木々の間から泉が見える。とても美しい泉だ。月明かりに照らされ、神秘的な雰囲気を醸し出している。丁度、喉も乾いていたところなので、有難い。
「大丈夫だよなぁ?きっと飲めるよな??」
ゴクリっ……
エイヤと両手ですくった水をすすり飲む。
「……あぁ、おいしい。」
今日一日でショートした頭と歩き疲れた身体に染み渡る。あの使いどころの見えないヒールより、よっぽどヒールなのは皮肉な話だ。日は完全に落ちているので、今日はこれ以上進む気にはなれない。
(……湖のほとり、あの木の下で休むか。)
ヒュ~~~~~~ッ……
横たわって感じる夜風が気持ちいい。
「……なっちゃん、無事だよな。」
やはり、ちょっと不安にはなる。でも、きっと大丈夫。自分なんかよりも遥かにサバイバル能力の高そうな、なっちゃんだ。必ず、生きてこの世界のどこかにいるはずだ。
「……星、綺麗だなぁ。」
それにしても、この世界の月は、なんとも青白い……。
目を瞑り、虫の音を聞いているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。
―――翌朝
顔を洗おうと、泉の前で腰を下ろして愕然とする。
「……なんじゃこりゃぁぁ!?」
昨晩は暗くて気づかなかったが、顔が、違うのだ……。
シュッと細い眉、切れ長の目にダークレッドの瞳、目元のクマ、細く伸びた鼻筋、薄い唇、意識高い系女子も驚愕な白肌……。焦茶色に染めていた髪も、硬い髪質の黒髪に変わっていた。
(いやいや、これには流石のジーパン刑事もビックリだろ……。)
幸い、不細工なんかではない。控えめに云っても男前ではある。ただ、どうにも何を考えているか分からないというか、何とも不愛想な顔だ。今日まで22年間、共に時を過ごしてきた自分の顔の系統とはまるで異なり、どうにも見慣れない。
「……にしても、この泉、ほんと鏡みたいだなぁ。」
しかし、すぐに泉の美しさに感心している場合ではないことに気づく。主な心配事は二つ。
『……なっちゃん、オレを見ても気づかないんじゃね?』
当然である、見た目が全くあのトロそうな兄ではないのだから。それと、昨日は自分の外見に気を向ける余裕なんてなかったが、確かに違和感は感じていた……。そう、視野の高さだ。今、改めて気にしてみると、日本人男子の平均程度だった自分の身長が、恐らくは、10センチ以上伸びている。
……そして、もう一つの心配事。
『……なっちゃんの姿も変わってんじゃね?』
これが結構、深刻な悩みだ。どうやって見つければいい?全ての市町村を『なっちゃ~ん、大好きな琥太郎お兄ちゃんだよぉ♪どこにいるの~!?』って大声で叫びながら、探し回るか??……否。完全に不審者、アウトである。そもそも当の本人は、『まぁ、見た目が変わったって、おにぃなら、ウチのことくらい簡単にわかるっしょ。』程度に思っているに違いない。ただ、不幸中の幸い、自分の場合は声が変わっていない。なっちゃんも、そうであることを切に願おう。
不幸中の幸いは、もう一つ。それは服装が変わっていないことだ。ただ、自分の場合、完全に部屋着で出てきてしまったため、上は厨二の時に買った黒のロンティ。中央にはデカデカとドクロマークが鎮座している崇高な代物である。下は灰色のスウェット。洗濯のし過ぎで、多少毛玉が目立つ。しかも、手足が長くなった影響で、上下共に中途半端な七分丈だ。今更ながら、もうちょいマシな恰好をしておけば良かったと思うが、後悔先に立たずである。
でもまぁ、スウェットはともかくとして、この特徴的な厨二シャツを見れば、なっちゃんが気づいてくれる可能性も高い。結果オーライとも云える。
(それと……。)
今朝、気づいたことはもう一つある。泉の向こう側には、明らかに人の行き来によって生まれた細い道があった。この道を辿れば、恐らく、人の住む集落に行き着くのではないだろうか。
「……その前にっと。」
出発に先立ち、ブラックホールの中にある容器を使い、泉の水を汲む。スマホで名前と効果を確認してみると……、
=> 鏡泉の水
そのまま、ズバリの名前である。効果は、喉の渇きの癒し、疲労回復、お清めとのことだ。今更ではあるが、昨晩は恐る恐る泉の水を飲んだが、初めからこうやって確認してから飲めばよかったのだ。
「あぁ、よかったぁ……。」
改めて、お腹を壊さなかったことに、ほっと胸をなでおろす。そして、当分、困らない量の水を収納し、小道の先へと歩き始める。
―――泉からの小道
朝は涼しい。通称、始まりの森と比べると、日も適度に差して気持ちがいい。それになんといっても、この後、この世界に来てから、初めて人に出会えるかもしれない。そう思うと何だか胸が高鳴る。
見た目は自分と変わらないのだろうか?言葉は通じるのだろうか?どんな文字を使っているのだろうか?何を食べているのだろうか?友達100人できるだろうか?
まるで、期待と不安で胸を膨らませる小学校入学前の子どもみたいだ。
(現状、愛と勇気だけが友達だもんなぁ……。)
そんなことを考えていると、突然……、
ダッダッダッダッダッダッッ……
「んっ?何の音だ??」
ダンダンダンダンダンダンッ……!!
何かがこちらに向かってくる。
殺気を帯びた何かが……。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
コタローのもとに迫りくる影、正体は一体!?
次話は戦闘シーンからです。
続いて、上級魔族も現れます。
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