第15話 車は走る
二つ並んだベッドに、
それぞれ二人はもぐりこむ。
ラジオは止まって、夜は静かだ。
ネジは聞きたいことが、いっぱいあったけれど、
サイカの「早く寝ろ」と、一言で終わらされてしまった。
残念だけど、ネジはあきらめてはいない。
明日もまたお日様は昇るし、
明日に聞いたっていいのだ。
ネジは眠る。
青白い歯車に誰かが乗っている。
ステップを踏んでいる。
ウサギが追ってくるから、ここから離れないと。
また戻ってこないと。
ネジは透明の歯車に乗る。
また戻ってこなくちゃ。
たん、たん、たん。
ステップが聞こえる。
遠くで、ステップを踏んでいる音がする気がする。
ネジはまぶしいと思った。
そして、目を覚ました。
ラジオが聞こえる。
踊るような曲がかかっている。
顔を向ければ、サイカはすっかり準備が整っている。
ネジは身を起こした。
スプリングがなる。
「起きたか」
「うん」
「準備をしろ、すぐに行く」
「朝ごはんは?」
「弁当を作ってもらっている」
サイカは抜かりない。
ネジは納得すると、朝のシャワーを浴びた。
聖職者のいつもの黒服に着替え、
帽子をちょこんと頭に乗せる。
ラプターも持った。
忘れ物もない。
宿で料金を払い、
ネジはおじさんとおばさんに挨拶する。
おばさんがお弁当を作ってくれた。
おいしいチーズの入ったお弁当だと説明してくれた。
「また、地酒飲みに来ますね」
ネジはそんなことをいってみる。
世界は広い、グラスは七つある。
一つのグラスがどれほど広いのか、
ネジは想像もつかない。
多分世界は広い。
その中で、おいしい地酒にまた出会えること。
それはとっても幸せなことのように思った。
「またおいで」
おじさんとおばさんが見送った。
青白い歯車のあちこち見える、
朝の町並みを歩く。
少し狭い道を入ると、
修理工場に出た。
サイカが先にたつ。
ネジは後から追いかける。
修理工場の中を見渡して、
禿頭のおじさんを見つける。
「おじさん」
ネジが声をかける。
おじさんは甲高い声で答えた。
「お、もうきたのか」
「朝一で出ようと思って」
「準備はばっちりだよ」
おじさんは親指をぴっと上げる。
ネジは鍵を受け取る。
サイカが支払いをした。
「トランクに予備の燃料がつんである」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いいんだって。エンジンいじくれて楽しかったさ」
声がとてもうれしそうだ。
ネジとサイカは乗り込む。
ネジが運転、サイカが助手席だ。
「じゃ、いってみます」
「おう、元気でな」
ネジはエンジンをかける。
古臭くも元気な音を立てて、エンジンが動き出す。
回すハンドルもいい感じだ。
ネジはおじさんに向かって礼をすると、アクセルを踏んで走り出した。
小さな丸い、黄色い車。
ぼろぼろだけど元気になった車。
歯車の構造を持っていない車。
ネジは町の大通りを走る。
朝日がきらきらしている。
お日様って物はいいものだなと思う。
「来たか」
サイカが助手席でつぶやく。
「トランプ?」
「遠くではあるが、目立つマークが書いてあった。おそらく」
「少し飛ばそうか」
「悪くない」
ネジはうなずいた。
そして、バックミラーをチラッと見た後、アクセルを踏む。
一路マーヤの町に向けて、
車はそれなりに加速して進む。
町を抜けると広い草原。
街道の土の道が山に向かって続いている。
「みんないい人ばっかりだったね」
ネジが思い出しながらつぶやく。
「こんな風に記憶を重ねていけるなら、いいな」
「お前には記憶がないからな」
「サイカぁ」
「うん?」
「俺、何で記憶がないの?」
「転んで頭を打ったことにしておけ」
「かっこ悪い」
「説明してわかるようになったら、いうかもな」
「なんだよそれー」
ネジはほほを膨らます。
町から離れて、車はゴトゴト走っていく。
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