第14話 また新しいこと

「召喚師かぁ」

ネジはため息をつく。

またわかるような、わからないようなことが増えた。

そして考える。

多分、港町リズで召喚をしたというのは、

サイカのことだろう。

そして、トランプが追っているのも多分サイカだ。

で、召喚なんてするのは、

山の中の町、マーヤのほうにいると。

召喚師が一族でいるらしいと。

トランプは街道を通って、多分マーヤを目指すのだろう。

「うーん…」

ネジはさらに考える。

サイカは技を使ったと、ネジは思った。

リズでチンピラを倒したとき、ネジは技だと思った。

召喚なんて言葉は出てこなかった。

記憶がないせいかもしれない。

でも、命を召喚したりとかはしなかった。

とりあえずサイカは追われている。

助けたいけど、どうしたらいいものだろう。

とりあえずこの場は、サイカの召喚のことを黙っているのが一番かもしれない。


「それにしても、みんな物知りだね」

ネジはみんなを見回しながら感心する。

「娯楽がないからねぇ」

禿頭のおじさんが地酒を飲む。

「そう、ラジオのニュースとか、中央都市から出ている新聞とか」

「そんなのあるんだ」

ネジははじめて聞くことばかりだ。

サイカはラジオで音楽しかかけない。

ニュースがあることを意図的に隠していたに違いない。

「新聞はね、新聞師という職業の人が配るんだよ」

「しんぶんし?」

「伝道機というのがあってね、それを扱うのを中央都市で叩き込まれるんだよ」

「へぇ」

「でもって、伝道機を持って、あちこちの町に派遣されるんだ」

「これも派遣なんですね」

「そうなんだよ」

「それで、伝道機っていうのは?」

「伝道機っていうのは、物事を文字にして伝える機械なんだ」

「へぇ…」

ネジは考えられない。

いったいどんなものだろう。

禿のおじさんは続ける。

「地方の新聞師が、町であった一大事を、中央に送る。このとき新聞師が文字にするらしい」

「ふむふむ」

ネジはうなずく。

よくわかんないけど、伝道機って言うので送るのだろう。

「そして、中央都市の新聞師が届いた事件を選んで」

「ふむふむ」

「で、新聞にして、伝道機で送る」

「なるほど」

「そうして、読みやすくなった新聞が、町の新聞師から届くのさ」

「よくわかりました」

禿のおじさんは頭をぴしゃりとたたいて見せた。

「いや、便利になったね」

「話を聞いているとそう思います」

「それもこれも、喜びの歯車のおかげさ」

「新聞も?」

「新聞もラジオも、伝道機だって喜びの歯車の動力を元にしているからね」

「ああ、そうか」

ネジはちょっと失念していた。

動力がなければ動かない。

「それに、召喚師も新聞師もそうだけど」

「どうなんですか?」

「中央都市に交信をして、こうね、情報を交換するんだ」

「交信?」

またわからないことが出てきたとネジは思う。

「おやじ」

ボソッとサイカがさえぎる。

「こいつは物をあまり知らない。詰め込みしすぎると混乱する」

「ありゃ、そうなのか」

禿頭のおじさんが、自分の頭をたたいてみせる。

「そりゃ失礼。いろいろ語りたくなるんだよ」

「わからないこといっぱいだけど、楽しかった」

ネジは素直に言う。

禿頭のおじさんは、笑った。

「世の中広いからな。七つのグラスをめぐればもっといろいろわかるさ」

「うん」

ネジはうなずいた。


晩飯を食べて、お酒は飲まずに、

いつものように宿代につけてもらって、

部屋に戻ってくる。

ネジがシャワーを浴びて、

ネジの頭をサイカが拭いて、

サイカがシャワーを浴びる。

ネジは寝巻きに着替えて音楽を聴く。

ニュースも聞けるらしいけれど、

ネジはいじるのが怖い。

顔にかかった赤い前髪がしっとりと。

「どうしようね」

部屋でネジがつぶやく。

知りたいこと、新しく聞いたこと。

召喚師のこと、新聞師のこと。

サイカのこと。


知らないことがたくさんあるなと感じた。

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