第13話 召喚師の噂
窓の外でゆっくり星が瞬きだす。
音楽は流れる。
違う曲を、沈黙を挟みながら。
ネジは少しずつ、サイカからこの世界の事を聞こうとする。
けれど大抵聞いたことで、
核心に触れるようなことは話してくれない。
サイカは知っているのに。
ネジは少しだけいらいらする。
もどかしいというか、そんな感じ。
多分記憶をなくす前は知っていたのに、
そしてサイカは知っているのに、
少しでも踏み込むのは、はぐらかす。
ネジはベッドに横になったまま、ため息をつく。
この世界すらわかんないのに、旅ができるものだろうか。
サイカがベッドの端から立ち上がる。
ネジのほうのベッドに近づくと、
ネジの黒い帽子をちょこんとネジの頭に乗せる。
「晩飯を食いに行くぞ」
「おなかすいてない」
「少し食べておけ」
ネジはしぶしぶうなずく。
宿から下りて酒場へ。
おじさんとおばさん、
そして、お客が何人かいてにぎわっている。
「よー!」
甲高い声がかかる。
見れば修理工場の禿のおじさんだ。
「ひと段落ついたから飲みに来たんだ」
「どうです、具合は」
「車の具合は、かなりよくしておいたよ」
「よかった」
ネジはうなずく。
おじさんも地酒を飲みながらうなずく。
禿頭が真っ赤だ。
「燃料の予備は必要かい?」
ネジはサイカのほうを見る。
行き先を決めるのは、多分サイカだ。
「頼む」
サイカが短く答える。
禿のおじさんはうなずいた。
「それじゃ山のほうに行くのか」
「そういうことだ」
「あー、それじゃ噂は聞いたかい?」
「港町のか?」
「ちょっと関係あるかもしれないなぁ」
おじさんが地酒を飲む。
そして、声をひそめて話し出す。
「山の中の町、あそこには召喚師の一族がいるって話だ」
サイカの眉がちょっと上がる。
「なんでもな、中央から認められて、地方に派遣された召喚師でな」
「ふむ」
「それがあの町にいるって話だけど」
「だけど?」
「なんでもな、港町で召喚をしたらしいって話があるから、トランプが動いてるってな」
「それって…もがもが」
サイカがとっさにネジの口をふさぐ。
ネジも悟って黙る。
これは大事なことだ。
黙っていないといけないことだ。
「おじさん、地図ある?」
ネジは声をかける。
「あいよ、明日の道かい?」
「そういうこと」
ネジは答え、カウンターから地図を受け取る。
禿のおじさんと、サイカと、ネジで地図を囲む。
「ここがこの町、ゲンの町って言うんだ」
「ふむ」
「で、この線が街道で、こっちが港町リズ」
「こっちが山?」
「そう、街道沿いにマーヤの町がある」
「マーヤ」
「そこに召喚師一族がいるって話だよ」
「ふぅん…」
ネジは興味を持つ。
もしかしたら、サイカの技は召喚なのかもしれない。
「おやじ」
サイカが声をかける。
「なんだい兄さん」
「召喚ランクまでは伝わっているか?」
「さぁなぁ」
禿のおじさんは首をかしげる。
「地方派遣なら、いっても三級なんじゃないのかい?」
おばさんがチーズのお皿をテーブルに置く。
置きながら得意げに話す。
「さんきゅう?」
ネジがたずねる。
「なんでもね、命を物のようにする召喚とかあるらしくてね」
ネジの脳裏に先ほどのサイカの言葉が走る。
「五級くらいランクがあるって聞いたよ」
「おばさん物知りだ」
「ほめても何もでないよ」
おばさんはうれしそうにネジの背中をたたく。
サイカがため息をつく。
そして、サイカは話し出す。
「召喚には何種類かあって」
「ふむ」
「熱量召喚、登録召喚、物理召喚とか言われている」
「どれもわかんない」
ネジは情けなく答える。
「命を物のように召喚するのは登録召喚だ」
「とうろく?」
「中央都市に登録されている命を、召喚師が召喚する。そういうものだ」
「登録しないのも呼び出せる?」
「その場合は非登録召喚といい、犯罪だ」
ネジはちょっとだけ考える。
命を物のように。
そういうシステムがあるのかもしれない。
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