第2話 修理工場

ネジとサイカは、町にたどり着いた。

思ったより人が多い町のようだ。

日が暮れて、思い思いに家路についているらしい。

明るくなっている店は、

酒場とか食堂とか、

そういうものらしい。

ポンコツの車を珍しそうに見る者もいる。

「燃料どうにかしないとな」

ネジがつぶやく。

「このくらいの町なら燃料もあるだろう」

サイカが窓を開ける。

ネジはスピードを落として、歩くスピードくらいまでにする。

「すまないが」

サイカが物珍しそうにみている町人に声をかける。

「古い形で歯車システムがないんだ、燃料を調達したいんだが」

町人はにっこり微笑み、サイカに、ある店を教えた。

ネジも聞いて、二人して礼を言うと、

ポンコツ車はそこまで走り出した。


「歯車システム」

ネジがつぶやく。

「それも忘れたか」

「うん」

「とりあえず転んで記憶をなくしたことにしておけ」

何事もないように、サイカは言い放つ。

「えー」

「なにが、えー、だ」

「かっこわるい」

「基本がわかっていないのは、もっとかっこ悪いぞ」

ネジは憮然とする。

表情はわからないが、アクセルが若干踏まれる。

「まぁ、運転できるだけ、よく記憶が戻った」

「ほめてるの?」

「事実だ、次を右折」

サイカが指示を出し、ネジはハンドルを切った。


自動車修理工場。

看板にはそうある。

町の中の路地をちょっと入ったところに、

その工場はあった。

ネジはゆっくり車を入れて、二人は車を降りる。

「すみませーん」

ネジが声を上げる。

工場の建物の中から、

つなぎを着た禿頭の男がやってくる。

ネジはとっさに男の指を見る。

油にまみれて変色しているのかなと思った。

「すまない、歯車システムになっていない車なんだ」

サイカが端的に説明したらしい。

禿頭の男は、ポンコツ車をしげしげと眺める。

「中覗いてもいいかい?」

やたら甲高い声で、禿頭の男が聞く。

サイカはうなずく。

ネジがちょっとよけると、禿頭の男はボンネットを開けた。

「うわー、こりゃひどい」

甲高い声が車の中に響く。

「お客さん、よくこれで走れたね」

「まぁ、なんとかな」

「燃料もそうだけど、いろいろガタが来てるよ」

「整備を頼んでもいいだろうか」

「任しとけって、最近歯車ばっかりで飽きてたところなんだ」

禿頭の男はにんまり笑った。

「明日丸一日かかるな」

「急ぐ旅でもないから、頼む」

サイカが落ち着いて頼んだらしい。

急ぐ旅ではなかったのかとネジは納得する。

「旅人さんかい」

「まぁ、そんなところだ」

「この町はいいところだよ、地酒とチーズがうまい」

「ほんと?」

ネジがたずねる。

基本がわかっていないといわれても、

酒が好きなのは、どうしようもないらしい。

サイカがチラッとだけ、苦いような顔をした。

「それじゃ明後日に取りに来る。頼む」

「任せとけ」

サイカが禿頭の男に頼むと、

表通りに向かって歩き出した。

ネジがあわてて続く。

「おじさん、またね」

ネジは挨拶すると、あわててサイカを追った。


サイカが執事服を翻して歩く。

ネジが聖職者のコートをひらひらさせて追う。

「サイカ」

声をかけてようやく、サイカは立ち止まった。

「歯車って何なのさ」

ネジはとりあえずの疑問を口にする。

「この世界の基本だ」

「ふぅん?」

ネジは覚えていない。

本当に転んで記憶がなくなっているのだろうか。

それはとてもかっこ悪い。

「これから町を見て回るが、生きる基本が歯車だ」

「へぇ…」

「車を運転していたときは、わかりにくかっただろうが」

「うん」

「生きるものの基本が歯車でできている。生活も然り」

「そうなんだ」

「わかりにくいなら、転んで頭打ったことにしておけ」

「…そうする」

サイカの話を聞くと、歯車はとっても基本のことらしい。

ネジは頭を打ったことにして、町を歩くことにした。

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