地平線の果てまで

七海トモマル

第1話 奇妙な二人

夕暮れの道を車が走っている。

この世界ではレトロになっている、ポンコツな車だ。

サイズは小さめで、丸くて黄色い。

タイヤは回る。

でも、元気がない。

ゴトゴトいいながら、

ちょっと小さな車は町を目指す。

空は赤く、のどかに暮れている。

畑仕事のものは家路に着き、

町にはもうすぐ明かりがともるころだ。

あたりは草原。

真っ赤な夕暮れの向こう、かすかに山の稜線が見える。

町まではそう遠くはない。

道だけがある程度荒く整えられている。

舗装されているわけではない。

石なんかがたまに転がっている、

土の道だ。

ゴトゴト走るたびに、ちょっぴり土煙が上がる。

前にも後ろにも誰もいない。

車は相当田舎に来たらしい。


「見えてきた」

運転席の男が口にする。

一見すると真っ黒。

聖職者風の黒装束、黒いコート、黒いシャツ、黒いケープをまとって、

頭に黒く丸い帽子をのせている。

髪型が独特で、

後ろ髪は黒いが、

前髪だけ、鼻の辺りまで覆うように長くて、赤い。

前が見えないのではないかと思うくらい、真っ赤だ。

そして、視線がどこを見ているかは、わかりづらい。

「今日中に着けたな」

運転席の男より低い声で、

助手席の男がつぶやく。

一見すると真っ黒。

黒い執事服、白い手袋。

髪は少し長めだが、ばさばさとしつつも整えられている。

髪の色は銀。

運転席の男と違い、視線は見えている。

誰もが振り向くような美貌、でも、冷たい。

目の色は緑、そして、眼鏡をかけている。


奇妙な黒ずくめの二人組みが、

ゴトゴトと車を走らせている。

丸い小さな車は悲鳴を上げている。

見た目からぼろぼろしているが、

相当年代ものらしい。

「燃料持つかな」

「だから、補給しておけばよかったんだ」

銀髪の男がため息をつく。

ため息すら様になる。

「だけど、サイカぁ…」

「面倒は嫌い、か?」

サイカと呼ばれた銀髪の男が問う。

赤い前髪の男がうなずく。

「ネジ、面倒よりも自分の今を考えろ」

「けど…」

「とにかく燃料と宿だ」

「うん」

ネジと呼ばれた赤い前髪の男がうなずく。

アクセルを踏む。

丸いポンコツの車が走る。

のどかにゴトゴトと。

土煙が追ってくる。

元気悪くエンジンがうなる。

少し調整したほうがいいかもしれない。


「なぁ」

「うん?」

「また面倒起きたらどうしよう」

ネジが前を見ながらつぶやく。

「そのときはそのときだ、けれど」

サイカは言いながら、ぼんやり外を見ている。

「けど?」

「できる限りかかわるな。特に、深刻なことにはな」

「善処します」

言いながらネジはうなずく。

サイカは軽くため息をつく。

「お前が善処するときは、決まって面倒が起きる」

「だから善処するって」

「当てにならない」

「ひどいな」

ネジは赤い髪から覗く、ほほを膨らませる。

異様な前髪で、やはり異様に見えるが、

本人は普通にしているつもりらしい。


ネジとサイカは、小さな丸い車に乗って、

のどかな草原の中の道を走る。

町まではもう少し。

高く鐘のある塔と、赤い空が教会の十字架を表している。

周りは低めの柵で覆われていて、

高い城壁でないあたり、このあたりは平和なのだろう。

視線をめぐらせると、

遠くで家畜を追っているのが見える。

では、あの元気よく動いているのは牧羊犬かも知れない。

このシステムの世界で、これほど平和なのは久しぶりかもしれない。

平和で、レトロだ。

この世界では珍しい、どう珍しいかと問われると難しいが、

たぶん町に入れば、この世界だと自覚するのだろう。

「いろいろあるけどさぁ」

ネジがつぶやく。

サイカが視線だけを投げる。

「まずはシャワー浴びたい。それから酒」

「…飲みすぎるな」

「善処します」

ネジがそう言うと、サイカは大きくため息をついた。


町まで、夜まで、あと少し。

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