第3話 青白い歯車
大通りを歩くと、
暖かい色の街灯がついている。
街灯のそばに、からからと鳴る青白い歯車。
ネジはそれに気がつき、
あたりをぐるりと見ながら歩いた。
車を運転しているときは、わかりにくかったものが見える。
店の軒先らしいところに、青白い歯車。
人が運転するトラックが、排気を出さずに通り過ぎていく。
動力が違うということなのかもしれない。
そこかしこに青白い歯車がある。
「サイカ」
サイカが立ち止まって振り向く。
「あれが歯車?」
「そうだ、青白く光るあれだ」
「どういう仕組みなの?」
「説明すれば長くなる」
サイカは真面目に眉一つ変えずに言う。
本当に長くなりそうだとネジは思った。
「ならあとで聞く」
「そうか」
「とにかく宿を取ろう」
「そうだな」
二人は大通りを歩き、まもなく町の宿を見つけた。
一階は酒場になっている。
ふらふらに酒場を目指しそうになる、ネジの首根っこを捕まえて、
二人は宿に部屋を取った。
ベッドが二つ並ぶ部屋に入ると、
ネジは狭い部屋の中を探検し始めた。
真っ赤な前髪のいい年したであろう男が、
嬉々として狭い部屋を回っている。
サイカは執事服の上着を脱ぐ。
ハンガーがあったのでつるす。
「サイカぁ」
「うん?」
「シャワールームも歯車なのな」
「生活の基本だからな」
「シャワー浴びていいか?」
「かまわん、好きにしろ」
ネジは黒い服を脱ぎ出す、
そして、違和感に気がつく。
「あれ」
「どうした」
「俺、何でこんなものを持っているのかな」
ネジはコートの内側の腰から、
銃を取り出す。
それは間違いなく銃で、やや大きめだ。
銀色にきらきら光っている。
ネジが気がつかなかったのは、
重さが少ないのか、
ネジが記憶を飛ばしているのか。
サイカはどちらも問わない。
わかっているようだ。
「その銃は、お前にとって必要なものだ」
「そうなの?」
「いずれわかる」
ネジはしげしげと銃を眺める。
手に取り、重さを確かめる。
「結構重い」
「そうだろうな」
「何で忘れていたのかな」
「お前にとって自然だったからだろう」
「そっか…」
ネジはぎゅっと銃を抱きしめてみた。
ちょっと女々しい気もするが、
忘れていたことへの謝罪みたいなものだ。
ネジは銃を置く、
「それじゃサイカ、ラプターを頼むわ」
ネジは言い残してシャワールームへ行こうとする。
「ネジ」
「うん?」
「思い出したのか?」
「何が?」
「ラプター。銃の名前だ」
「あー…」
ネジは説明ができない。
とっさに出てきたのかもしれない。
「まぁいい」
「そっか、それじゃな」
サイカもそれ以上問わず、
ネジはシャワールームへと入っていった。
ネジはシャワーを浴びる。
真っ赤な前髪がかまわずぬれる。
どうしてラプターだと知っていたのだろう。
ネジは上から落ちてくるお湯を浴びながら考える。
ネジには確たる記憶が少ない。
運転ができること、これはどうにか。
サイカは悪いやつじゃないということ。
たぶん悪いやつならネジを拾わない。
拾わない?
拾われた?
ネジの中では、そのあたりも曖昧だ。
とにかく身体をさっぱりさせることにする。
それからあとでこっそり酒場に行こうと計画する。
ラプターもやっぱり持っていくべきだろうか。
銃がどういう意味合いを持っているのか、よくわからないが、
今まで自然に腰にいたのだから、
やっぱり連れて行くべきかなと思う。
盗まれたら。
そしたらどうしよう。
「そのときはそのときかなぁ」
ネジはぼんやりつぶやき、身体を洗った。
わからないこと、曖昧なことがまだ多い。
サイカはすべてを教えるわけではないらしい。
ならば、ネジがどんどん知る余地がまだあるってことだ。
青白い歯車がシャワーの下で回っている。
これが基本らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます