第3話 「ポンコツの呪いを解いて!」
未来のあらすじ:
宇宙一超々美青年の泉美沢冬斗(いずみさわふゆと)。彼は生まれたときから、自らに”運命の相手”がいると理解していた。約二十年もの間、その美しさで星に平和をもたらしながら、冬斗は一途にその相手を探し続けた。
ついに出会ったふたり。すぐに心を通いあわせたものの、ふたりには数多の困難が待ち受けていた! 絶対絶命の美しい檻、正体不明の魔女、未確認知的生命体とのダンス対決、いくらほどいても美しく絡まるイヤホンのコード、全宇宙仲人作戦--。
ふたりを最後の難題が襲った。ご両親へのアイサツ。難攻不落でこのうえなく高い壁は冬斗を美しく苦しめた。しかし、冬斗は諦めない。深い山にこもり、師匠の元、自身の美しさを磨いた。辛く苦しい道のりだった。冬斗は、鍛えた美しさで義父と和解した。アイサツは大成功を収め、義父と固く手を握り合った。
愛の力で難題を乗り越えたふたりは、ついに完璧なハネムーンの計画に成功する。だが、突如現れた多次元怪物・フコウハミツナンジャーに冬斗が連れ去らわれてしまう。このままでは、幸せな結婚生活が泡と消える! 苦心して考えた、百億もあるわが子の名前の候補がすべて無駄になってしまう! どうする冬斗! 時を同じにして、夢次元怪獣・ミナシアワセニスルドゴンが星に生まれた。
対立する悪と善の間、宇宙一美しい新郎の冬斗は--、
俺様はいったん筆を置いた。ちゃぶ台の上、シュカさんが淹れてくれたお茶から湯気がのぼる。俺様は茶を一口飲んだ。目の前の照とニエに感想を求める。
「っていう物語、どうだ?」
「ボツ以外無いよ」
「ウン。ボツ」
「お前ら厳しいな。どこを直せばいい? 怪獣の名前か? シアワセニスルゴドンがいいかな?」
「全部だよ」
ふたりはうんざりした顔を見せた。照がちゃぶ台から原稿用紙を掴み、畳の上に静かに置いた。大学の講義が終わり、俺様たちは陽炎荘に集合したのだ。ニエはお盆からせんべいを取り、ボリボリ食べる。
「だいたい、冬斗が作戦会議をしたいって言うから集まったんだよ」
「では、これから、第1081回 作戦会議をはじめる」
「そんなに会議してたッケ?」
「第1回から前回までは、すでに俺様の脳内で開催された」
「知らないよ。というか多すぎだよ。で、その会議で何か良い案は出たの?」
「いつも美しく同じ内容の結論になった。」
「同ジ結論?」
「どういう思考を巡らせても。結論はたった一つ」
そう。脳内に仮想俺様を招集して行った作戦会議。いくども会議を繰り返した。激しい議論の末、すべて結果は同じだった。つまり、
「つまり、俺様は運命の相手が大好きってこと。それだけだ。キャッ!」
いざ口に出すと照れくさい。俺様は美しい顔を赤く染め、両手で頬を覆った。ニエと照の目から、どんどん生気が失われる。
「さすガ、宇宙一ポンコツ青年だナ」
「……かっこよく言ってるけどさ。全部その結論って、脳内会議の意味あるのかい?」
「ナイ。修正がヒツヨウだ」
「お前ら厳しいな。どこを直せばいい?」
「頭だよ」
鏡を取り出し、俺様は頭を見た。今日も完璧に美しい。
「俺様の頭の形は完璧だと思うが。これ以上、美しい形状にするのか?」
「外じゃなくて中身だヨ」
縁側に面した窓から、風が入る。心地よい気温の風が居間を抜けた。網戸の隙間から、柔らかな光が届き畳を照らす。台所でシュカさんが鼻歌交じりに食器を洗う。水が流れる音と、食器がカチャカチャとぶつかる音が聞こえた。
俺様は原稿用紙の代わりに、白い紙と黒いペンをちゃぶ台に乗せた。ペンのキャップを外して、第1081回 作戦会議、と書いた。
「まず初めに、この会議の目的を話す。どうやったら俺様がまともに美しく告白ができるか、その方法を考えるための会議だ」
「理由はわからないけど、冬斗のあの様子じゃ、コトバで伝えるのは難しそうだよね」
「ダナ」
「コトバが使えないのなら。そうだ。手紙はどうだろう」
「謎の物語よりはよっぽどまともな意見だと思うよ」
「ウン。手紙作戦でいってみようヨ!」
まっさらの紙にペン先を置く。思いついたことを文字に変える。
「”拝啓 泉美沢様”」
「ちょっと冬斗、自分に出してどうするのさ。初手からポンコツを遺憾なく発揮するのやめてくれよ」
「だって、最終的に暮井さんも泉美沢になるんだし、いいかなって」
「よくないよ。未来に向かって手紙を書かないで。今に向かって書いてよ」
指摘の通り、しぶしぶ宛名を変えた。泉美沢様の前に、暮井様と書いた。
「そうそう。それでいいの」
「あとはこうやって」
暮井様、の後に少し書き足した。 ”暮井様(新姓:泉美沢様)”
「宛名が怖いよ」
「これでよし。次は……、”俺様は”」
「様はつけないでよ」
「”俺様は、泉美沢冬斗と申す。身長51cm、体重 3100g……」
「ちょっと! 小さすぎだし軽すぎでしょ! サバを読むなってば!」
「いや真実だ。俺様の生まれたときの身長、体重だ」
「今度は過去に戻ってるよ! というか、その情報必要かい?」
「愛するヒトのことはなんでも知りたいし、知っていてほしい」
「それでも告白の手紙に、出産時の身長体重はいらないよ」
「”美しさは2kmでした”」
「僕の話聞いてる? 美しさの単位が”キロ”ってなんなんだい」
「どれくらい離れた距離から、俺様の美しさを感知できるか、だ」
「へー。生まれたときはたったの2kmだったんダネ」
「いやフツーのヒトは1cmも無いから」
お盆のせんべいが空になった。ニエは立ち上がり、台所に向かう。食器を洗い終わったシュカさんから、まんじゅうを貰う。お盆にたくさんのまんじゅうを載せ、戻って来た。
「続きを書くぞ。”みなさまのご協力で、俺様は、今は身長が181cm、体重62kgです。美しさが725kmに成長しました。物足りないかもしれませんが、安心してください。目標は3000kmです”」
「どこまでいくんだよ」
「もし俺様が多次元怪物・フコウハミツナンジャーに連れ去られても、遠くから俺様の安全が確認できるぞ」
「その話続いてたのかい!」
「なあフユト。そろそろ本題に入ったラ」
「わかった。……うぅ」
本題。俺様の気持ちを、暮井さんに伝える文章を書く。ごくり、と唾を飲み込み、ペンを握りなおす。手汗が止まらない。ガタガタガタガタ。ちゃぶ台のお茶が波打つ。まんじゅうが飛ぶ。畳に落ちる前、ニエが口で受け止めた。
紙に、ぐるぐると、なんの意味もない黒い丸が量産される。
「き、きききき緊張して、手が震える……」
「冬斗! 落ち着いて、新しい紙にもう一回書こう! ほら!」
真っ黒になった紙を引き抜き、照が別の紙を机に置いた。
「”俺様は、泉美沢冬斗と申す。身長51cm、”」
「そのくだりは省略しなよ! もう、一行目から”好きです”って書いちゃえ!」
「す、すすすすす、すすっ、すすすす……心明かす、会いたい明日、義父は愛のボス、君はオアシス、美しい俺のフェイス、好感度マイナス、イエア!」
「隙あらばラップを止めろって!」
数十分後、真っ黒に染まった数多の紙が、畳を覆った。俺様は握っていたペンを机へ放った。背中を倒し、天井を見つめる。照がペンを拾う。ひと差し指と親指でペンを掴み、テキトーに宙で動かす。ペンがぐにゃぐにゃと揺れる。
「手紙もダメかあ。僕かニエが代わりに書くのは……」
両手でバツ印を作り、俺様はビーッと笛を吹いた。駄目だ。たしかに俺様は恋愛面でポンコツだが、それでも自分で書かなければ。
「代筆は、冬斗的に駄目だってさ」
「じゃあ、別のホウホウ考えないとナ」
直接言うのは無理、手紙も難しい。となれば。美しい脳細胞を総動員させ、起死回生の案を考える。どうにか、彼女に気持ちを伝える方法。……、夢次元怪獣・ミナシアワセニスルゴドンの力を借りて、美魔術青年に変身し……、ハッ。いたって真剣に考えているはずなのに、誰が茶々を入れるみたいに、思考がそれる。美しさに極振りしたせいで、肝心なところがこんなにポンコツになるなんて。美しい歯を噛みしめ、拳をぐっと握った。
キュキュとペンが走る。音の方に視線を向ける。ニエが勝手に、物語の第一行を書き換えた。”宇宙一超々美青年”が、”クソポンコツ宇宙一美青年”に変身した。表現が退化した。ニエがにんまりと笑う。ヤツは両手でチョキを作り、指を何回か開閉させた。美しい心が、底から苛立つ動作だ。
その様子に、俺様の脳裏にひとつの案が浮かんだ。
「思いついた! 身体言語だ。これで行こう。体を動かして、どうにか気持ちを伝えるんだ」
妙案をよそに、ニエは物語の最終行に好き勝手にコトバを足す。
「”宇宙一美しい新郎の冬斗は――、イノチからがら、星に帰りマシタ。なんと暮井チャンは洗脳され、ジャマスルンジャーが用意シタ新しい相手との、こ”」
「グワアアアア! やめ、やめろ、ニエ! その先は脳が拒否してる! 俺様の体が美しく四散する!」
「ニエ! その辺りでやめなさい!」
とんでもないバッドエンドの予感に、全身が拒否反応を示す。照は慌てて、ニエから原稿用紙とペンを取り上げた。不満げな表情をして、ニエは唇を突き出す。
「ブゥウウ。ここから面白くなるのニ。みんなもそう言ってるモン」
「はあはあ……。俺様たちの一生の思い出なんだから美しく感動的なものを……そうだイルミネーションで告白にしよう!」
「イルミネーションかあ。良い案だと思うけど。今、五月だよ。イルミネーションって普通冬じゃないかな?」
「ウン。冬のお祭りのときは、たしか木とか柱がぴかぴか装飾されてタと思うケド。ずいぶん先だヨ。それまで恋心を熟成させるノ?」
冬まで待つなんて、発想がフツーだ。ヘイボンだ。俺様は立ち上がり、ひと差し指を立て、ちっちっちっと左右に振った。
「ふふふ。シロウトだ。恋愛シロウトだね。照君。ニエ君」
「ポンコツ美青年の冬斗に言われたくないよ」
「右に同ジ」
「イルミネーションは……、ここだ!」
天を仰ぎ、両手を高く掲げる。深呼吸の後、俺様は自分を指差した。
「ん? どういうこと?」
「つまり、俺様がイルミネーションだ」
「意味がわからン」
「ポンコツ語は履修してないんだ。僕とニエにもわかるように翻訳してほしい」
仕方ない。美しい脳内で、ニエと照にもわかるように変換した。
「いいか? 俺様の美しさで俺様をライトアップする。さらに! 補助として、電球を体に巻き付けて照らす。体全体で”好き”と文字を暗闇に描けば良い! 素晴らしい案だ!」
ほら、こんな風に!と俺様は体内の美しさを皮膚に集め、光らせた。居間が一気に明るくなる。照とニエはサングラスを取り出し、装着した。
「素晴らしい案かなあ……」
「完璧で美しくて素敵な作戦だ! ヒュウ! 決行日は明日! そうと決まれば、俺様は電球を買ってくる! いいか、ニエ。物語の最後を書き直しておくんだな! 冬斗と運命の相手は末永く幸せに暮らしましたゴドンってな! ワーハッハッハッ!」
* * *
翌日。彼女が通う高校にやって来た。電球を体に装着し、準備はばっちりだ。終業の鈴が鳴り、生徒が続々と校門を通る。俺様と照とニエで校門の近くに待機し、彼女を探す。しかし、なかなか彼女が現れない。緊張と不安が高まる。電球が素早く点滅を繰り返す。
「冬斗。電球はいったん切っておきなよ」
「いつ彼女が現れてもいいように、常につけておきたいんだ」
「いや、眩しいんだよ! 捜索の邪魔だよ!」
度付きサングラスを照に渡す。生徒をひとりひとり確認するが、彼女の姿はない。
「暮井さん、お休みなのかなあ。それか、こないだはすごく急いでたみたいだから、今日も約束があって、裏門から出て行っちゃったとか?」
「そんな! 俺様としたことが、その可能性を忘れていた! 照! 俺様をふたつに裂いてくれ!」
足を開いて立ち、胸を張り両腕を広げる。照は首を振った。
「いやそこまで罰を受けるほどのやらかしでもないよ」
「分裂増殖して、裏門でも彼女を探す!」
「怖いよ!」
「あ、でも電球が足りなくなる……」
「気にするのはそこなの!?」
フツーの体勢に戻り、校門の脇から引き続き彼女を探す。多くの生徒が校門を過ぎたが、やはり彼女はいない。指を顎に当て、ニエがなにやら考え込む。
「テルの言う通り、暮井サン、とっても急いでたよネ。ホントに別のお相手がすでにいたりして。約束ってデートだったりしテ!」
「な、なにっ!?」
「まあニエの言うことも一理あるよね」
「無い! マイナス百理!」
「だって、暮井さんについて僕たちほとんど何も知らないんだし、コイビトがいてもおかしくはないよ」
俺様は激しく動揺した。心の乱高下に合わせ、電球が付いたり消えたりする。
「どういう技術だヨ」
「でもさ、冬斗。本当にコイビトがいたらどうするの?」
「……俺様、俺様は、勉強する。すっごく勉強する、いっぱい勉強する」
いきなりの勉強宣言に、ふたりは目を見開く。
「えっ、恋は諦めて、学問に生きるとか、そういう感じかい」
「違う! 勉強してタイムマシンを開発して、暮井さんがダレカと付き合う前にかっさらう!」
「うーん。初志貫徹なのは素晴らしいと思うけど、なんか方向性がポンコツなんだよなあ」
「ウーン。後半だけ聞くト、ちょっとロマンティックな気もしないようナ、そうでもないようナ」
「おいニエ。それじゃあ、ロマンティック成分が完全に無いだろ。ちょっとは添加しろ」
やり取りをする間も、生徒がひっきりなしに校門を通る。しかし、彼女が見当たらない。俺様はズボンのポケットから、サングラスと菓子の箱を出す。サングラスを装着し、棒状の白い菓子を咥えた。ひと差し指と中指で菓子を挟む。ひとくちかじる。ふぅーと息を吐きながら、菓子を顔の前に動かした。
「これから聞き込み調査を行う。刑事になった気持ちで各自取り組め。彼女の居場所を探るんだ」
「全身がうるさく光ってる探偵がどこにいるんだい。ハンニンにすぐに見つかるよ」
「了解しましタ! ポンコツ刑事! ニエちゃん、サッソクいろいろ聞いてくル!」
俺様たちは、手分けして生徒に聞き込みを行った。彼女がいそうな場所を知らないか、尋ねて回った。
「まぶしっ! 美しいけど眩しい! 冬斗様、眩しいですよ!」
「すまない。俺様の美しさは抑えることができないんだ。はい、サングラス」
「それならしょうがないですね。暮井さんですか。多分バイトだと思います。部活には行ってないだろうし、こんな早くから寮には戻ってないだろうし……」
「ありがとう。助かったよ」
お礼としてサングラスを配りつつ、聞き込みを続けた。結果、暮井さんがよくバイトしている商店の情報を得た。日が沈み、空が少しずつ暗くなる。俺様たちは商店に向かった。市の中心駅から近い場所で、高校からも遠くない。徐々に目的地に近づく。
「フユト、また電球が点滅してるよ」
「ほっとけ。俺様は単に心臓が口から飛び散りそうなほど緊張してるだけだ。オエッ。あっ、ちょっと出た。やっぱ俺様の臓器だ。造詣が美しい。なんかキラキラしてる」
「そんなこと言う前に戻して! 体内に戻して!」
隣で照が大慌てする。ニエはのんきに俺様の心臓(一部)をデッサンした。例の商店まで数メートルに迫った。商店の前にひと影が見える。
「お疲れ様でした! いつもいろいろと頂いちゃってすみません。助かります。じゃあ、失礼します!」
暮井さんだ。俺様の美しい瞳が、焦点を商店前の暮井さんに合わせた。彼女は、前髪を多数のピンで留め、髪の毛を後ろでひとつにまとめる。赤いジャージの上下を着て、片手に白いビニール袋を持つ。俺様は暮井さんに向かって走った。照とニエは離れた場所で見守る。俺様は暮井さんの前で止まり、彼女に呼びかけた。
「く、くくく暮井さん!」
「あ、あなたは……この間の……うわっ、まぶしっ!」
暮井さんがこちらを向く。目がわずかに合う。俺様の体内に幸せが走る。ひとつひとつの細胞がにこりと笑う図が浮かび上がる。細胞さんたちが手を取り合い、暮井さんに会えた喜びダンスを踊り――、はっ、また脱線した。ガンバレ俺様! 今こそ、美しい勇気を振り絞って、気持ちを伝える時だ!
「暮井さん、き、ききき、今日は見てほしいものがあって来ましたぁっ!」
「……押し売りなら結構です。変なヒトにあげるお金なら一円もありません」
背後でニエが大爆笑する声が聞こえた。アイツは『ギャヒヒ! 押し売りに勘違いされてル!』と笑う。照は『ある意味、押し売りかも』と続けた。ええい、お前らあとで覚えておけ。美しく成敗してやる。
「お、おおお押し売りじゃないです! 俺様、生涯ゼロ円です! あ、あの、これを見てください!」
俺様は意識を集中させ、今現在体内に蓄積された美しさをすべて皮膚に集めた。あとは体全体で、好き という文字を描くように舞うだけだ。……ナニッ。か、体が動かない。くそう。ポンコツの呪いが俺様を阻む。いや、俺様は恐れているのか、また振られることを。視界が真っ暗になり、脳内からコトバが消える。孤独感が襲う。--声が聞こえる。電球だ。電球が語り掛けてくる。
『頑張って! 冬斗様!』
『君ならできるよ! 冬斗様!』
『あなた宇宙で一番美しく輝いているよ! ベリーナイスルーメン!』
ありがとう! 電球さん! 俺様、やるよ! それから、照とニエの応援が聞こえる。
『冬斗! 宇宙で一番美しくて、ポンコツ成分がゼロで、僕の最高の親友の冬斗ならできるって、信じてる!』
『ニエもそう思うよ! お祝いに、ニエが冬斗たちの物語を全百巻セットで書き上げてやるからな!』
『照! ニエ! お前らと知り合えて、俺様と暮井さんは幸せだ!』
ほかにも、多分、シュカさんとかジョージさんとか、プロポーズの監督とか、ウチュウ・ジンさんとかいろいろな生命体が応援してくれているはずだ。グツグツと美しい力がみなぎる。
「うがああああああっ! ここここ、これが! 俺様の! 気持ちです!」
すばやく美しく優雅に美しく動いた。暗闇に文字を描いた。好きです、と、なんの飾りもない、素直なコトバを体で伝えた。汗が宙を飛び、俺様が放つ美しさを受けて煌めく。仕上げとばかりに、両手を頭上に突き出し、天を仰いだ。すべての美しさを使い切った。……決まった。ここからはじまる俺様の恋物語。掴むぜ勝利。一生入るぜ愛の檻。イエア!
「……泉美沢さん、でしたっけ」
「ひひひひひ、ひゃいっ。そうです。泉美沢です。ちょっと画数が多いです!」
「ごめんなさい。私、そういうのよくわからないんで。次のバイトの時間なので失礼しますね」
ごめんなさい。ごめんなさい。よくわからない。ごめんなさい。ごめんなさい。よくわからない。バイトの時間。オー、シツレイ。ゴメンナサイ……。
暮井さんは足早にその場を去った。彼女の返答を理解するのを全身が拒んでいる。俺様はその場で回転した。さっきの光景を脳細胞から振り払うように回った。記憶だけ取り出して、美しさで浄化したいぐらいだ。
衝撃が止まない。物理的かつ精神的要因で目が回り、その場に背中から倒れ込んだ。電球さんも元気を無くし、光を失った。電池が切れた。さきほど、美しさを全放出したせいでどっと疲れがきた。空に、星が薄く輝く。
照とニエの方へ頭を向ける。ふたりは机に座る。機材がごちゃごちゃおかれた、茶色い細長い机。スーツを身にまとったふたりは、イヤホンマイクを頭に装着した。照は四角い厚紙を机にたてる。1.5と数字を書いた。
「ここで試合終了! ニエ監督、大波乱の展開ですね。宇宙の予想では、泉美沢冬斗氏が告白を成功させるとの意見が十割でしたが」
「ええ。まったく番狂わせですヨ。宇宙一美しい青年が振られるなんて、ニエちゃんも、誰も、ミジンコも考えてませんでしたからネ」
「ですね、冬斗氏の振られ数は現在、1.5ですが。1足しますか?」
「ウーン。おまけして2足してあげマス」
「わかりました。では、冬斗選手の振られ数は3.5となりました。以上です」
ニエはペンを取り出し、1.5を3.5に書き換えた。ああ、3.5度も振られてしまった。
これは、宇宙一美しい青年の、宇宙一ポンコツな恋物語である。未来のあらすじはどうなるのか、果たして誰もわからない。
私と君と陽炎荘 第3話 「ポンコツの呪いを解いて!」 【 第4話へ続く 】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます