第40話
すぐにでも雫の元に遼は行きたがった。
だがそれを両親が止めた。まだ早まるなと止められた。
確かに雫は死んだ。そのことは部下である妖から確認していると。
しかし、翌日には蘇っていたのだという知らせが舞い込んできたのだ。
それは雫がただの八尾比丘尼の娘というだけではなく、八尾比丘尼の先祖返りということで。
人間の一族にも繁栄をもたらす少女だということが判明した。百済の一族が異様に雫に執着しているのは恐らくこの為だ。
牢屋に押し込んでいたのにいきなり普通の子供の部屋を用意するようになったのもこのことが判明したからだと考えている。
全ては一族に置いておけば繁栄をもたらす娘だと分かっていたからである。
百済一族は必死にそのことを隠そうとしていたが、時すでに遅し。
烏丸一族の方が情報戦では一枚上手だった。そのことを百済の一族は知らない。
つまり、百済雫という少女は。
人間にも妖にも狙われてしまう存在だということが判明してしまったのだ。
あまりにも危険過ぎる存在。どちらの種族にも繁栄をもたらす特殊な娘。
両親は当主の座を遼が20歳になり次第、直ぐ様明け渡すことを決定した。
あの少女を人間、百済の一族から守らなくては。人間から守らなくては。
その思いに駆られていた。
遼の両親にとって、雫は見たことがなくとも本当の娘のように思っていたのだ。
ボロボロの服に新しい服をこっそり遼を通して何度あげたことか、覚えていない。
誰にも守られないあまりにも哀れな存在。
雫はそんな風に思って欲しいなど思ってもいないことも分かっている。
それでも。
大切な人を守りたいと思うのが情というものだ。
先祖返りの八尾比丘尼の娘を娶るということはどういうことか。
それを遼は両親から聞いて知っていた。
共に呪いを受けて永劫の時を過ごす運命になるのだと。
遼は覚悟の上だった。
両親は結婚には賛同していたものの、その一点だけ承諾しかねていた。
契りを結めば呪いは移る。
最悪、契りだけはしないで他の一族と結ぶべきではとも遼の両親は考えていた。
だけど、遼は断固拒否を続けた。
ついには雫の耳にも入るくらいになってしまったが、両親が思っているよりも雫に対する愛情の深さは重過ぎるくらいだったのだ。
6歳の時に見たその強い瞳は、そこまで遼を魅了し続けていた。
そしてそれは、現在も変わることはない。
毎日、雫を見るたびに遼は彼女に恋をしている。
鼓動が速まるのがいつも止まらない。余裕なフリをしていないとおかしくなってしまいそうだ。
「僕はね、雫に出逢った時に一目惚れしちゃったんだよ。毎日、大好きになるのが止められないんだ」
遼の愛が変わることは決して、ない。
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