第26話 

私が考えていた通り兄ちゃんは外で待っていた。

 強めの妖術を使ってカモフラージュをしているのが分かる。

そこまでしてまで私のこと迎えに来てくれなくても良いのに。

 毎度のことながら思う。

どうして私のことをそこまでしてまで迎えに来てくれるのか理由は分かる。

 私が未成年だから心配というのもおそらく含まれているだろう。

私のことが好きだからとかそんな単純な理由で迎えに来てくることをわざわざしてくれるはずがない。

 心配してくれるのはありがたい。それは本当のことだけれど。

苦手なことを克服することも出来ていないのにしてくれなくて良いと思うのだ。


 そう考えながら近づいていく。


「雫。お疲れ様」

『兄ちゃん、いつも言ってるけど迎えに来なくても良いんだよ?外で待ってるの苦手なくせに』

「嫌だ。雫を抱き抱える理由がなくなっちゃう。いや、理由がなくともしちゃうかもしれないけど」

『どっちにしろ私を抱き抱えたいのね…』


 否応なしに抱き抱えられる私。

ひと月以上も同じような扱いをされれば嫌でも伝わってきた。

 恋愛関係のことが鈍いということは自覚がある。

だが、毎日のように仕事の帰りを待つという行為をしてくれているということはそれなりに自分を意識してくれているのだということは伝わっていた。

 それが、八尾比丘尼の娘だからなのか。

いや、八尾比丘尼だから大切にしてくれているのかは分からない。

 妖と人間もどき。

本来なら交わることのない存在が一方的に愛情を注いでいるという事実。

 他の妖たちが見れば愕然とすることだろう。

下品な言い方をすれば身体さえ手に入ればいいというのに。

 当代、鬼天狗は心も手に入れようとしている。

どうしてそこまでして手に入れたいのか、それが私には分からないのだ。

それだけは真の心だった。


(今日は曇りか…星が見えない。)


まるでその天気は自分の知らない八尾比丘尼の話のようで。

 自分の気持ちを映し出しているように思えた。


「雫、何かあった?」

『まぁ。あるといえばあった』

「雫がそうハッキリ言うだなんて珍しいね」

『ちょっと色々とね。まぁ、様子見かな』

「えー。教えてよ」

『近いうちに。嫌でも知るんじゃないかな』

「そうなら無理に詮索しないけどさ」


無論、問題は娶る側という話である。

 当主である兄ちゃんが知らないはずがない。

兄ちゃんの性格上、自分に隠し事をするということは考えにくい。

 ならば、彼さえ知らないことがあるということなのだろうか。

私は何も言うべき事が思いつかず、目を伏せながら烏丸の屋敷まで待った。

 あまり会話が弾むことはなかった。

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