第24話
放課後。
私は志穂の到着を屋上で待っていた。
今朝、わざわざ札を飛ばしたのは霊障があまりにも身体に影響していたのが見えたので、炎で一時的に浄化をしたのだ。
あれで志穂も身体が一時的に楽になったはず。
対処療法でしかないが、陰陽師の義務として私は果たしていた。
それを優しさと取れるかはされた本人だけだ。
「雫、お待たせ…」
『そこまで待っていませんよ。坂田さん』
「…もう名前で呼んでくれないんだね」
『私は今、陰陽師として話をしています。私情は挟みません』
ここに居るのは陰陽師としての私。親友だった頃の私ではない。
志穂と同じ制服を着ていたとしても立ち振る舞いがまるで違うだろう。当たり前の話だ。
「それで、何の用かな…体調が悪いんだ。本当に。」
『そうでしょうね。貴女は悪霊に取り憑かれている』
「え?」
『気がつかなくて当然です。貴女は一般人なのですから。私は今朝、それを発見したからお願いをしてここまで来て貰ったのです』
「あ、悪霊?」
『その身体では辛いでしょう。まず、陰陽寮にて専門家に意見を伺います』
そう言うと、パチンと私は指を鳴らした。
巨大な鳥の式神が現れる。
何故か志穂はその式神を見るや否や顔色を更に悪くした。
『どうしました。何もしませんよ。陰陽寮に移動するだけです』
「何でもないの。うん、行こう…」
陰陽寮に着くと、私はパチンと再び指を鳴らした。
仕事着である巫女服に着替えたのだ。
大きな鳥の式神も同時に消した。
『肩を貸しましょう。その身体で移動は辛いでしょうから』
「ありがとう…」
志穂は私の肩を借りながらゆっくりと歩いていく。
周りにると同僚と思われる人物たちが私たち2人の方を振り返って見ていた。
志穂が自分の背中辺りに本当に悪霊が取り憑いているということが陰陽師たちの視線で嫌というほど分かった。
霊障課という部署にやがて辿り着いた。
名の通り、霊障を専門に扱う部署のところだ。
そこに居る部署の陰陽師たちは志穂を見るなり、慌て出す。
「百済くん、その子は…。」
『同級生です。私が退治すべきなのは分かっているのですが、寿命形は初めてでして。最初に専門家の意見を伺いたかったのです』
「まずはその子を寝かせよう。お香を持って来い!」
「はい!」
男性が部下に人物にテキパキと指示を出していた。
私は彼の名前を知らない。
責任者という立場しか認識をしていなかった。
志穂は霊障課の人たちに身体を預けられ、ベッドに運ばれた。
ベッドの近くには悪霊に効くお香が置かれている。
その様子を私はただ眺めていた。
これから先、自分の力でも出来るようにならなければならないとそのことを考えていた。
かつての親友の体調のことはあまり心配していなかった。
何故なら、もう親友ではないからだ。
私から縁を切ったのだからそれは当然といえば当然のことだった。
「…百済くん、彼女の名前は?」
『坂田志穂さんです』
「そうか。ありがとう。坂田さん、これから言うことをよく聞いてください」
課長と思われる男性は落ち着いた声で話を続けた。
「貴女はとても厄介な悪霊に取り憑かれています。何でも良いです。きっかけはありましたか?」
「電話が…電話がかかってきたんです」
志穂は弱々しくきっかけと思われる出来事をポツリポツリと話し始めた。
男性は話を聞いていくうちにどんどん顔が険しくなる。
取り憑かれている彼女の話が終わると、男性は私の方を向いた。
「我々だけの手では負えないほどになっている。坂田さん、とにかくその願いを絶対に叶えてはいけません。叶えれば対価として命を奪われる」
「そ、そんな…私、死にたくないです。」
「我々が全力を尽くします。もちろん、ここに居る百済も」
『はい。そのために連れてきましたから』
私ははっきりとした態度で答える。
坂田志穂という同級生を助ける。これに嘘はなかった。
「神楽を舞えるかい?」
『はい。舞えます』
「その巫女服だけでは不十分だな。衣装を貸そう。」
『ありがとうございます』
霊障課の人も舞えるだろうが、経験を新人に積ませようとしているのだろう。
だからこそあえて霊障課の者ではなく私に任せることにしたのだと思う。
教育熱心なことだ。
ベッドを浄化されている広い畳の部屋にへと移動させていた。
私はその間に千早を上に着せられ、長い三つ編みを解かれて後ろで1つにまとめられていた。
そして神楽鈴を渡された。
準備が完了すると、志穂が運ばれた部屋へ向かう。
そこにはお香が四隅に置かれており、独特な匂いが漂っていた。
「祝詞は私たちが唱えます。貴女は舞ってください」
『わかりました。よろしくお願いします』
「それでは始めましょう」
私は舞を舞い始めた。
シャン…シャン…シャン…
ベッドに寝かされた志穂は雫のことを見続けていた。
知り合いは彼女しか居ないので、視線は雫にしか向けることができなかったのだ。
鈴を持った雫は舞を舞っていた。
──なんて美しい舞なのだろうか。
天女が舞い降りたかのような、そんな動き。
一切の無駄など無く雫は舞い続けていた。
私の周りに居る人も雫の美しさに思わず見惚れてしまっているのが分かった。
その美しい動きに合わせて祝詞が紡がれていく。
志穂はただベッドの上でその舞を目を離すことが出来ずに見続けていた。
舞と祝詞はやがて終わり、志穂に取り憑いていた悪霊はただの霊にへと変化しているらしかった。ちらほらとそんな声が聞こえたから間違いない。
無事に浄化完了。
あとは成仏させるのみだろう。
疲れた素振りを見せず雫は霊の元へ向かった。
『随分と面倒なことをさせてくれたね』
「それは願いが貴女に向けての物だったから。それに私も──」
雫が目を見開く。
「貴女と同じ、八尾比丘尼の娘だったのよ」
長い髪を靡かせた女の幽霊は確かにそう言った。
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