第11話
お披露目前。
私は着物に着せ替えられていた。
黒い絹地に白い鬼の面が刺繍されている珍しい柄の着物だ。
陰陽師なので自分で着付けもできるのだが、それをお手伝いの久美子さんが許してはくれなかった。
「これは私のお役目なのです!誰にも任せられません!」
気迫がとても凄かったので仕方なく私が折れた形である。
命がかかっているかのような言い方をするので本当に仕方なくであった。
長い髪の毛はお団子にに綺麗に纏められている。
黒い羽が付いた簪を久美子さんに最後の仕上げに刺された。
こんな簪見たことがないな、と思いながら鏡に写る自分を見た。
普段は三つ編みにしているから雰囲気としては地味だと思う。
まだ未成年、化粧は必要ないと私は思っていたが化粧も施された。
そこまで厚塗りはされていない。
「お綺麗ですよ」
『久美子さんのおかげですよ。化粧はしたことがないので自分ではできませんでした』
「美少女ですものね。羨ましいです」
『私のどこがです?冗談はよしてくださいな』
「あらまぁ!本気でそうおっしゃってるんですか?」
久美子さんが驚いた表情で言う。
私はその通りだという意味を込めて頷く。
お世辞にも自分は美人だとは言えないということくらい自覚していると。
地味なのも自覚しているし、何の取り柄もない小娘だというくらい分かっていた。
「お美しいですよ、雫様は」
『お世辞でもありがとうございます』
「私はお世辞言える妖ではないのですがね…さぁ、ご当主様の所へ参りましょう」
『はい』
本当は行きたくないという気持ちの方が私の中では大きかった。
志穂の気持ちを知ってしまったからだ。
まだ兄ちゃんという感覚から抜けきっていない自分と1人の男として烏丸遼を好いている志穂。
隣にいる資格があるのはどう考えても志穂の方ではないかと考えていた。
そう考えているうちに兄ちゃんがいる部屋にたどり着く。
私は自身の中にあるちっぽけなプライドで持ち直し、兄ちゃんがいる部屋へ入って行った。
「ご当主様。雫様の準備が整いました」
「………」
『兄ちゃんどうしたの?』
自身の姿を見て全く反応しない兄ちゃんに対し、私は式神に語りかけさせる。
それで我に返ったようだった。
「美しいを体現すると、こういうものなんだって思って…」
『いや、何を言ってるか全く意味がわからない』
「あんまりにも雫が綺麗で言葉が出なかったってこと」
『もっと意味がわかんなくなった』
「君は自分の魅力が分かってないよねぇ。さぁ、行こうか。みんな待ってる」
『うん』
差し伸べられた手を遠慮がちに重ねる。
そうすると大きな手でしっかりと握り締められた。
──あたたかい。
冷たさしか知らなかった私は長年の幼馴染と共に烏丸一族が揃っている大広間へと向かった。
大広間に向かうと、黒い着物を着た年齢層が大幅にある天狗たちが勢揃いしていた。
烏丸一族は天狗の中でも頂点である。
数えきれないほどの人数が大広間には集まっていた。
私たちが上座に座ると、皆が頭を下げる。
「面を上げろ」
凛とした兄ちゃんの声が響き渡る。
烏丸遼という若い当主は、当主としての顔の時に口調が変わるようだ。
つい最近、私が知ったことだった。
「隣に居るのが八尾比丘尼の娘、百済雫だ。俺の将来妻となる人間。この家の女主人となる人物だ。敬意を持って接するように」
「我ら一同、精神誠意尽くす所存でございます」
再び頭を下げる一族の皆。
将来妻になると言われた私は、普通なら慄く状況だというのに随分と落ち着いていることが出来た。
百済の屋敷で見ていたからだろうか。
人前に立つことさえなかったというのに心持ちは凛とした佇まいで私は兄ちゃんの隣に座っていることが出来た。
それは私の強気に出ることのできる性格故なのかは分からない。
意外そうな顔を兄ちゃんは私にだけ見せていた。
私がこのような態度を取れることを意外に思ったのかもしれない。そう考えた。
お披露目はあっという間に終わった。
一族の皆が兄ちゃんと私の2人に挨拶を済ませると、散会と兄ちゃん言って私たち2人はその場を後にした。
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