願いの使者

第21話 

志穂は落胆していた。

 雫の姉に、『2人には恋愛感情はない。好きにすればいい』とその言葉に惑わされしまった。

 それくらい、モデルの烏丸遼という男に惚れ込んでいた。

雫の姉とは連絡先も交換しており、どうなったのか報告をしてほしいと言われていた。

 そう言われた時に気がつくべきだったのだ。

自分が駒として使われてしまっているということに。

 気がついていれば、こんな呆気なく縁が切れることもなかった。

志穂は後悔していた。雫のことは大好きだ。

烏丸遼の婚約者だと聞いた時は嫉妬でどうにかなってしまいそうだったが、大切な親友だった。

 それなのに、志穂はその大切な親友をいじめて、傷つけた。

そして行動さえ示さずに更に雫を傷つけてしまう結果になってしまった。


(媚薬なんて入れるんじゃなかった…)


スマホを取り出し、メッセージアプリを開く。

 雫からはブロックをされていた。


もう、親友ではなくなってしまった──


自身の軽はずみな行動が、決裂の結果をもたらした。


あんな冷えた瞳を見たのは初めてだった。

 陰陽師としての彼女ではなく、きっと今まで一般人である志穂に見せなかった一面。

 あれもきっと雫なのだ。そう思うと私は辛くなった。

 何がきっかけで同い歳であんな瞳をすることができるのかということ思うと、辛かった。


雫のことを何も知らなかったんだ。


中学の時に親友となった人物のことを、志穂は何も知らなかった。

 何でも知った気でいたのだ。

それがこんな事態を招いてしまった。


(もう本当に私は雫と親友に戻れないのかな…)


ベットにゴロンと横になり、スマホを眺める。

 待ち受けは烏丸遼だったが変えようと志穂は決めた。

媚薬を入れたのがバレた瞬間のあの殺気が忘れられない。

 雫がいなければ本当に殺されていたんじゃないかという殺気の鋭さ。

あれが鬼天狗と呼ばれる妖の頂点。

 あれも、モデル烏丸遼の一部。

その一部を知ってしまった今は好きでいられるかと問われれば、志穂には難しかった。

 ぼんやりとスマホを眺め続けていると、電話がかかってきた。

非通知だったが、誰だろうかと私は電話に出る。


「もしもし。どちら様ですか」

『ねぇ、貴女の願いは何?』

「え?」

『貴女の願いは何?』


女性とも男性とも分からない中性的な独特な声だった。

 私は聞きなれない声と言葉に思わず首を傾げる。

それからが恐怖の始まりだった。


『貴女の願いは何?』

『貴女の願いは何?』


壊れた機械のようにその声は志穂に問いかけてくる。

 電話を切ろうとも思ったが、怖くて出来ない。

一体こんなことをしてくるのは何者なのか。

『貴女の願い』とは何を指しているのか。志穂には理解が追いつかなかった。

それよりも恐怖が勝っている。感情のない機械のような声。

 まだ感情が籠もっていた方が恐怖心は少なかった。


何回聞いたのかわからなくなってから志穂はスマホの通話ボタンを消した。

 電源も落とした。

これでもう電話は来ないはずだ。

 いや、来れないはず。

そう思い、充電するために起き上がって机に向かう。


だけどその考えは甘かった。


 『貴女の願い、叶えてあげる。』


確かにそう、スマホから聞こえてきた。

 ヒッと思わず声が出る。

恐る恐るスマホに目をやるが、電源はしっかりと切れていた。

 確かに志穂は切ったのだ。

それなのにあの声はここから聞こえた。

 志穂は心霊現象だろうかと再び恐怖心に飲まれる。

だが、持ち前の明るさできっと気のせいだと言い聞かせた。


(こんなことで怯えてちゃダメ…雫を傷つけた私にそんな資格なんてないんだから)


雫とはまた違う強さを志穂は持っていた。

 だからこんなことくらいで弱音を吐くつもりはない。

 明日も休日だけど、勉強を今日はしていない。

志穂は明日の準備をするために早めに就寝することにした。









 

 




 



 




















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