第2話


「貴方はこの世を去っていたんだよ」


 騒がしさは夜に溶けて行く。


「貴方の体は生きたものが落とす影のようだ。声は聞こえているよ」


私は泣いた。鈍い痛みが胸に広がった。

唇を切ったときのようにじんわりと。

傷口に唾液が滲みて火照ってゆくあの感じで。


「大丈夫、大丈夫」


彼が宥める。


ーーーー私は大丈夫じゃありません。


「あなた自身まだまだくたばるには早い。貴方の歩む先には光があるんだ。予期せぬ出来事は明日を照らす光となるだろう。間違いばかりの人生でも、最期、幸せであれば良いじゃないか。何を恐れる。何を拒む。ただ歩みを止めない。それが貴方だろう。今すぐに貴方は貴方の逝くべきところへ最高の状態で行こう。行くんだ」


行くんだ。そこの言葉を貰った瞬間、このような変化が起きた。


 後ろ向きな感情が前に向かってゆく。

感情が前に向かうほど、大きく膨らんでゆく。


後ろ向きな感情が前進する気力へとシフトチェンジしてゆく。


このような変化が起きたのである。

彼の顔は青色に照らされている。


彼は笑いながら泣いていた。


「な。もう、この世の人ではないんだよ」


 顔を両手で覆って泣いた。私は歯を食いしばった。


 「山の自然の一部」へと私は死んだから還ったのだった。

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