露出狂の決断
「誰かが僕のことを通報したんですか?」
「そうだ、しかも通報したのは俺があなたを見た日と同時だ。どのタイミングで見られたとか心当たりあるか?」
たかしさんは正座をして真面目な様子でそう聞いて来た。
逮捕されるかもしれないというのに焦っている様子もない。
こんな状況なのに何を考えているのだろうか。
「正直、あの後は混乱して慌ててたから何も覚えてません」
「そうか、しょうがないか」
「でも、ヤンキー君に見られた後、服を置いている場所まで裸のまんま走って行ったのでその時に撮られたのかもしれません」
別にあの後も露出したくて続けていたわけではないのか。
そうでなかったからと言って何か変わるわけではないのだが…
「そうなのか、でもこのままだと捕まってしまうぞ」
「そうですね」
そういっても、たかしさんの反応はイマイチだった。
捕まるって実感がないのだろうか?
最初はあんだけ嫌がっていたのに
「だから、俺から提案なんだがしばらくの間見つからないように俺の家にいないか?」
「え?」
そういうと初めてたかしさんの表情が変わった。
これは俺が考えたことだ。
本当はいけないのはわかっている。
でも、唯華が言っていたこと、そしてたかしさんの夢からこうすることが一番だと思ったのだ。
「多分、今頃何人かの警官がお前を探してこの近くを歩き回っている。すでに顔がバレているお前が見つかったら、すぐに逮捕される。だから、しばらく攻めて警官がいなくなるまで俺の家にいないか。それに家は顔から特定されている可能性もあるしな」
「……」
「俺は出会いがどんな形であれ、お前に頑張って欲しいと思っている。だから、」
眉をひそめて聞いていたたかしさんだったが、俺の言葉を急に遮った。
「唯人君、ありがとうございます。こんな僕のために色々考えてくれて」
「え?」
「でも大丈夫です。僕は自首します」
その言葉に俺は驚いた。
「は?なんでだよ。唯華にも言われただろ!もう反省してるんだろ?やりたいことがあるんだろ?」
最初はあれだけ逮捕されることを嫌がっていたのになんでいきなり変わったんだよ
しかし、たかしさんの表情はいつのまにか落ち着いた顔に戻っていた。
そして、俺の方を真剣な表情で見つめた。
「はい、もちろん反省してますし、やりたいこともできました」
「だろ!じゃあ、なんで頑張ろうとしないんだよ!」
「それはあなたたちを巻き込まないためです。わたしを警察から追われているとわかっていながら逃げるのを手助けするのは立派な犯罪です。わたしだけのためにあなたたちを巻き込むわけには行きません」
「そ、それは」
「それにこれは悪いことをした自分への罰です。いくら反省したとは言え報いはちゃんと受けなければなりません。あなた以外の人にも不快な思いをさせてしまったと言うことですし」
俺はそれを聞いて、言葉をこぼすように言った。
「でも、俺も昔捕まるようなことをたくさんして来た。それでも逮捕されなかった。俺だって報いを売れてこなかったんだ。だから、お前だって」
だんだん声が大きくなっているのが自分でもわかる。
だってこうなることは俺には想像していなかったからだ。
人というのはそんな簡単に変われる物ではない。
しかし、そのたかしさんの様子はたった数日前とまるで天使に心を表れたかのように変わっていた。
「その考え方は前の僕と一緒ですよ。悪いことをしたのであればあなたもちゃんと報いを受けなければなりません。それは逮捕という形ではなくても、迷惑をかけた人にはちゃんと説明をして謝罪をしてください。その様子を見るにまだ謝ることでかできてないんでしょう」
「できてない」
そのたかしさんの言葉に小さくそう言った。
「なら、しっかり唯華ちゃんに謝ってあげてください」
「なんで唯華って!」
なんで知ってるんだ。
間違って言ってしまったかと思ったが、そうではないようだ。
「こんな感じでもわたしは大人です。まだ高校生には負けませんよ」
「その割には小学1年生に泣かされてたけどな」
「それはそうですね」
それ言ってたかしさんは笑っていたが、俺は笑うことができなかった。
「本当に行くのか?」
「はい、短い間でしたが、ありがとうございました」
確認のためもう一度聞いたが、たかしさんの意思は変わることがないとその目が物語っていた。
「俺はお前の夢を応援している。ちゃんと罪を償って出て来たら、頑張ってください」
あのシャッター街を賑やかにするそれは俺にとっても嬉しいことだったし、俺も前にそれをしたいと思って諦めた夢でもあった。
それを目指すと言ってくれたたかしさんに俺はすごいなと感心したのだ。
「はい。唯人君の方もわたしが出てくるまでにちゃんと謝ってくださいね」
「わかった」
たかしさんのその言葉に俺は思わず頷いてしまった。
「それでは本当にありがとうございました。唯華ちゃんにもお礼を言っていたと伝えてくれるとありがたいです。後、直接言えなくてごめんなさいという謝罪も」
「もちろんだ」
「それと唯人君もありがとうございました。あなたのおかげで僕も決心がついたんです」
「俺は何もしていない」
実際に俺はないもしていない。
変わったのは唯華とたかしさん自身の力なのだ。
「そんなことはないです。唯人君がいなければ今でも外で露出して逮捕されていたでしょうから。最後に本当にありがとう」
「こちらこそありがとう」
「ちゃんと約束を守ってくださいね。楽しみに待っていますよ」
そう言って、たかしさんは家から出て行った。
しまったドアを見つめながら、俺は本当にあのことを唯華に伝えられるのだろうかと思った。
俺のせいで唯華が酷い目に遭ったことを…
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