天使の羽と懺悔の時間

今、俺の目の前には正座をして座っている露出狂と俺の方をチラチラと困ったように見てくる唯華がいる。


結局、唯華に昨日の人が会いたがっていると言ったところかなり悩んでいたが、最終的に「大丈夫」と言ったおかげでこの状態となったのだ。


正直にいうと唯華は断ると思っていた。


唯華は本当に極度の人見知りだから、一回話したとしてもそれでちゃんと話せるような感じではなかった。


これは成長と感じてもいいのか、変なところで気があってしまったからなのか、わからないがとりあえず不本意ながらも大きな一歩と捉えてもいいだろう。


「ゆいと、これなんのじかんなの?」


「知るか。目の前にいるやつに聞け」


目の前の唯華は露出狂と俺を交互に見て、俺に困ったように話しかけて来た。


ちなみに露出狂は話しかけられなくてもじもじしている。


マジで気持ち悪い。


「あ、あの可愛いですね」


「いきなりセクハラか?そんなことを言ったら、唯華が困る……」


結局、考えて考えて考え抜いた結果の言葉がこれだったらしい。


知らないおっさんにいきなり可愛いと言われるとか唯華だってどうしていいかわからなくなるだろう。


この空気がもっと地獄になるのではと思ってしまった。


しかし、唯華は俺の予想と違う言葉を返した。


「あ、ありがとうございます」


「は?」


「て、天使!」


唯華はまさかのお礼を言ったのだ。


いや、確かに一番いい受け流し方ではあるが、唯華にそれが理解できているとは思えないし、何で


「おい、おれにお礼を言ったことも敬語使ったこともほとんどないだろ!」


そう、唯華は俺に対しては常にタメ口だ。


何でこんなやつに使うのだろうか?


「つかったほうがよかった?」


「いや、そういうわけではねぇけど」


そう言われるとそういうわけではない。


俺は予想外の返事にたじろぐ結果となった。


「ヤンキー君もブレブレですね」


「うるせぇ、さっさと話したいことがあるなら話せ!」


いや、あいつにお礼を言っていると思うと無性にイライラしたのだ。


そして、それ以上にニヤニヤしながら見てくるこの露出狂はマジでうざい。


露出狂は俺にそう言った後、流れに乗ったのか唯華の方に向かい、少しずつ言葉を発していった。


「あ、あの僕はしては逮捕されるような悪いことをしてしまいました。そ、それで」


「ちょっとまってて」


俺がそのことを言うのかと少し驚いたところで唯華が待ったをかけた。


そして、そう言うと唯華は自分の鞄を置いている部屋にトコトコと走っていった。


「おい、唯華に変なことは言うなよ」


「それはわかっています」


俺は大丈夫だとは思うが念のために釘をさすことにした。


そう言っている間にまたトコトコと今度は唯華が戻ってくる音が聞こえた。


「おまたせー」


そして、その声がして俺は振り向いた。


「何してたって、何だよその羽」


そこにいたのは背中に天使の羽をつけた唯華だった。


「おなやみをきくならこっちのかっこうのほうがいい」


「何で持って来てんだよ」


え?こいつがこの話をするってことをわかってたのか?


いや、そんなはずはない。俺だって知らなかったのだ。


「だっていえにつくまえにきのうのひとがくるっていってたから、おかあさんにそうだんしたらこれもっていきなさいって」


「相変わらず、余計なことしかしねぇ」


確かにこのことを相談したのは唯華の洋服をとりに家に戻ったときだが、まさかこんなものを持ってくるとは思ってもいなかった。


ていうか、またあの人かよ。


そんな俺の呆れと疲れを感じている隣で露出狂は目を輝かせていた。


「ほ、本物の天使様」


「お前は、いやお前はもうそんままでいいや」


突っ込もうとしたが、俺はもう疲れて放置することにした。


「かみのいつくしみにしんらいして、あなたのつみをこくはくしてください」


どこの漫画で読んだのかわ知らないが、それっぽいことを言っている唯華。


「私はシャッター街や道の真ん中でやってはいけない他の人を不快にさせるようなことをしてしまいました。これから、私はどうしたらいいでしょうか。警察に自首するべきなのでしょうか?」


それに物怖じもせず、反省しながらそういう露出狂。


絵面はなかなかなものだ。


「けいさつにいくの?」


しかし、唯華は警察という言葉にぴくりと反応した。


そして、心配したようにそう言った。


「はい、それくらい悪いことをしてしまいました」


「わるいことをしたら、まずあやまらないとだめだよ?わるいことをしたらごめんなさいがだいじっておかあさんがよくいってるもん」


「悪い事をしたら謝る…」


悪いことをしたら謝る、か。


確かに小さいときの方ができていた気がする。


俺も中学生の時は悪いことをし謝った記憶はあまりない。


「した?」


「してません」


唯華のその質問に露出狂は力無くそう答えるとすぐに俺の方に向き直った。


「あ、あの本当に不快な思いをさせてさらにはこんなことにまで巻き込んでしまって本当にすみませんでした!」


「お、おぅ」


俺はその勢いに少しびっくりして、そうしか返せなかった。


「わたしは、ちちとことせいれいのみなによって、あなたのつみをゆるします、だよ」


しかし、それを許してくれなかったのは唯華だった。


「いわねぇよ!」


「いわなきゃだめ!」


「わかったよ、じゃあ、調べるからちょっと待ってくれ」


こうなった唯華は俺には止まらない。


俺は素直に従った方が早いと思い、スマホでその言葉について調べた。


「あった。じゃあ、いうぞ。私は、父と子と聖霊の み名によって、あなたの罪をゆるします。これでいいか?」


「うん!」


「ありがとうございます」


唯華は嬉しそうに頷き、露出狂は頭を下げてそう言った。


何なんだよこれ。


「それでこれから私はどうすればいいでしょうか?」


「もうわるいことしない?」


「せったいにしません」


「やくそくできる?」


「できます!絶対にもう二度と悪いことはしません」


「それなら、ゆいかはけいさつにいかなくてもいいとおもう。けいさつはわるいことをしたひとがはんせいするためにいくばしょってきいたもん。えぇっとなまえはなんだっけ?」


「たかしです」


こいつ、たかしって名前だったのかよ。


「たかしさんは警察に行かなくてもいいと思います」


「本当にそれでいいのでしょうか?」


この前は警察に行く気はないと言っていたのに、この心変わりは何なのだろうか?


「うん、わるいことをもうしないことをまもればだいじょうぶ!」


「ありがとうございます」


唯華がそういうと露出狂、たかしは一番深いまで頭を下げた。


「わたしは、ちちとことせいれいのみなによって、あなたのつみをゆるします。これでおわりだよ」


最後に唯華がそう締めた。


これで確か、終わりだったはずだ。


さっさとこの家から出て行ってもらおうと思い、そっちの方を向くと、


「本当にありがとうございました。絶対に約束は守ります」


と言いながら、大号泣をしていた。


俺はその様子を見て、


「うん、じゃあ家まで送っていくぞ」


唯華の手を握ってそう言った。


「このひとこのままでだいじょうぶ?」


唯華は心配しているようだが、こういう時は寄り添った方がいいのかもしれないが、1人で考えるのも大事だと俺は思った。


「いいだろ、今から追い出しても可哀想だしな」


俺の家にはどうせ何もない。


取られるとしても、学校の道具と冷蔵庫の中の食材くらいだ。


俺が唯華の手を引いて、玄関から出た。


家の中には最後に言った

「わかった。じゃあね」

という言葉が響いていた。

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