露出狂と唯華との邂逅
「あ、お、おじさんだれ?」
唯華は露出狂が大きい声を出したことでその存在に気づき俺の後ろに隠れた。
「おじさんじゃなくてお兄さんですよ〜」
露出狂は俺の体から後ろにいる唯華に対し、ひょっこり顔を出してアピールするが、唯華は顔が見えないように俺の周りをくるくる回っている。
「可愛いですね〜。怖くないですよ〜」
「お前誰だよ」
変顔したり、子供をあやすような声を出したり、その格好と今までの言動からのあまりの不一致さに俺は思わず突っ込んだ。
「え?」
「さっきまでそんなんじゃなかっただろ」
さっきまで呆れと可哀想という気持ちがあったのが、一瞬でなくなった。
ここまで一瞬で人に対する印象は変わるんだと驚いた。
「ヤンキー君わかってないですね」
「誰がヤンキー君だ!」
手をちっちっと振りながらそう言った。
本当にさっきとおんなじ人か?
「可愛いは正義なのですよ。この子は間違いなく私が今まで見た中で一番可愛いと言えるでしょう」
「はー」
「白くて細いか弱そうな腕!癖っ毛の一つもないサラサラな髪!つぶらな瞳に可愛らしい口!そして、怖がりでヤンキー君の後ろに隠れることシチュ!これが素晴らしいと言わずなんと表現すればいいのでしょう!」
うわぁ。
正直、めちゃくちゃ引いている。
俺の感情は気持ち悪い一色だった。
「お前、正直裸の時より気持ち悪いぞ」
「は、裸の時より!?」
「ゆいとのはだか?」
「おい!変なとこで反応すんな。ていうか、勝手に俺の名前を付け足すなよ。そんな変ことするわけないだろ」
今まで黙って俺の後ろに隠れていた唯華が裸という言葉を聞いてか、顔を出してきた。
「いっしょにおふろ、いつでもおっけい」
手でマルを作ってアピールする唯華。
「誰が入るか!そんぐらいお父さんと入れ!」
「ヤンキー君…こんな小さい子とお風呂一緒に入ってるんですか?」
今度は露出狂がそんなことを口出してきた。
ちょっと引いた感じで言うな。
お前だけには引かれたくない!
「入ってるわけねぇだろ」
「ゆいと、うそはだめ。わたし、ゆいとといっしょにおふろはいったことがある」
「いつの話をしてんだ!それは一年以上も前だろ」
入っていたのは俺が高校に上がるまでだ。
その時は唯華も年中だった。
「一年前ってヤンキー君は中三か高一ですよね。結構アウトな年齢では?」
「幼稚園生と一緒に入ってアウトもクソをあるか」
五歳の子供と入って何が悪いんだ?
「ゆいと、わたしのからだにきょうみがある」
唯華は小さい両手で体を隠してそんなことを言い出した。
「唯華、そんな言葉は今すぐ忘れろ。どうせまたあの人のせいだろ!」
どうせまたあの人がゆいは何変な本を読ませたんだろう。
本当に良い迷惑である。
「小学生の体に興味があるって、ヤンキー君はロリコンなのですか?」
「ロリコン、ロリコンってどんだけ言われればいいんだよ。ちげえよ!」
康平にも露出狂にもロリコンと言われているが、お前らだけには言われたくない。
「ゆいと、わたしのこときらいなの?」
少し涙目になって唯華は俺を上目遣いで見てきた。
「あー!お前らめんどくせぇ!なんで謎にコンビネーションがいいんだよ」
唯華の方に対処したら今度は露出狂から、露出狂の方に返したら今度は唯華から俺の休む暇もない。
これ以上こんな奴といたら唯華に悪影響しかないな。
「唯華、さっさと帰るぞ!」
俺は唯華と手を繋いで、引っ張るように歩くと唯華はトテトテとついてきた。
ついでに露出狂もトコトコとついてきていた。
「で、お前はなんでついてきてんだ?」
俺が後ろを向くと、そいつも後ろを向いた。
「お前に言ってるに決まってるだろ!」
露出狂はビクッとして自分に対して指を刺した。
「ぼ、僕ですか?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
「いや、後ろをつけられてるって言うから」
「だから、それがお前だって言って言うことだよ」
「い、いや」
「で、なんでまだついてきてんだ?」
「それはまだ話していたいなと思いまして」
手をモジモジさせて言う露出狂。
おじさんの恥じらいとかマジでいらない。
「俺は話すこともないし、話したいと思わない。だから、じゃあな」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なんだ?」
「私、今服着ているじゃないですか?別に今は怪しくないですよ」
露出狂は服を引っ張ってアピールしてくる。
服は着ているが、黒一色だ。
これで怪しくないわけがないだろう。
それに…
「さっきまで唯華で興奮してたやつが何を言っている?」
「ヤンキー君だってしてたじゃないですか!」
「それはお前らがおかしなことを言うからだろ」
「ゆいと、こうふんしてたの?」
「ほら、めんどくさくなったー!」
唯華が俺に目を合わせてそう言ってくる。
こうなったらさっきの二の舞になってします。
「唯華!行くぞ!」
そう思った俺は唯華を抱えて走り出した。
みるみるうちに露出狂を引き離していき、ついに露出狂が見えなくなったところで唯華をおろした。
「もうすこしだっこして」
手を広げてアピールをしてきた。
「無理だ、どうせもう少しで別れるだろ」
「むー!」
そうして、不貞腐れた唯華を慰めるのと、今日のことについて少し叱ったりとし、別れる頃には学校を出てから大分時間が経っていた。
そうして、俺はやっとのんびりできるとゆっくり家に帰っていた。
すると、ちょうど家の近くにポツンと人影があった。
俺は不審に思いながらも近づいて行った。
それがどんどん大きくなるにつれ、顔と服装がはっきりとわかっていく。
それはさっき突き放したはずの露出狂だった。
「遅いですよ。待ちくたびれたじゃないですか」
「いや、なんでいるんだよ!」
さっき、頑張って相当距離話したはずだ。
そこでさっきまでの行動を思い出した。
あ、唯華に叱ったりしている間に先回りされたのか。
余計なことをしてしまった。
「シャッター街からヤンキー君がきた道を逆算してきたのです。ここを通るかは賭けでしたが僕が勝ったようですね」
「無駄に高度なことをしやがって」
「って、あ!唯華ちゃんがいないじゃないですか!」
「さっき別れてきたぞ、残念だったな」
「く、クソォ」
漫画のように膝から崩れ落ちて地面を叩いていた。
こいつプライドないのか?
「じゃあ、さっさと家に帰るんだな」
「いえ!唯華ちゃんの家を教えてくれるまで帰しません!」
手を広げて、通せんぼをしてくる。
こいつ、頭の中中学生だろ。
「なら、どんまいだな。生憎、俺の家はここなんだよ」
俺はアパートを指差して言った。
「え、ここですか?ちょっと古くさいですね」
「しょうがないだろ、高校生に綺麗なアパートに住む余裕はないんだよ」
「なんか色々複雑そうですね」
「じゃあな、もう二度と俺たちの前に現れるなよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださーい!」
俺がそう言って家に入ろうとすると、慌てて腕を掴んできた。
「あ?まだ何かあるのか?」
「さ、最後でいいのでもう一度唯華ちゃんと話をさせてもらいたいのです」
「なんでだよ、嫌だよ」
「僕は今まで何をしても生きてるって実感がなかったんです。でも、普段やってみないことをやってみようと色々やってきた結果、僕が一番実感を感じれたのが、露出だったんです」
て言うか、どうやったらそこに辿り着くんだよ。
「でも今日、唯華ちゃんをみて初めて一目惚れしました。だから、もう一度話したいんです!お願いします」
「悪いが、俺たちにするメリットがない」
「ここで断れば、明日唯華ちゃんの前に裸で出ていきます。ヤンキー君は唯華ちゃんのことを大切に思っています。どうか僕の願いを聞いてください!」
なかなかなクソ野郎だなこいつ
それにこの前のストーカーと言い、若干頭がいいのははなんなんだ?
それとも俺の頭が悪いのか?
「でも、お前みたいなやつは唯華に対して悪影響にしかならない」
こうなるかもしれなかったから、はなから唯華に会わせたくなかったのだ。
しかし、そうなってしまったもんは仕方がない。
でも、これ以上は本当に唯華にとってどうなるかわからないのだ。
「俺はもう露出したりしません。露出以上の実感を感じた以上、僕が絶対にすることはありません。だから、お願いします」
「……」
俺は露出狂の頭を見て、どうするべきか悩んでいた。
しかし、俺はやっぱり会わせたくない。
でも、俺がここで勝手に断るのもいけないと思った。
「明日のこの時間にここで待っていろ。会うかどうかは唯華が決める。唯華が会うと言ったら一緒に帰ってくるから。わかったか?」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、俺は家に戻るぞ」
そう言って俺は俺の家の中に入って行ったが、露出狂は俺が家に入るまで頭を下げていて周りから変な目で見られていた。
ほんとにやめてほしいものだ。
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