露出狂の待ち伏せは服を着て

次の日の学校も終わり、俺は小学校の校門の前で待っていた。


俺がストーカーと勘違いされたことは女子集団と一緒に謝って誤解を解いてもらったから、俺を怪しむ人はほぼいなくなっている。


なんか俺より優秀な気がするのだが、気のせいだよな?


まぁ、そんなこんなで俺は別に校門の前で待っていても騒ぎになることがなくなった。


逆に話かけられたり、することも増えた気がする。


「ちょっといいですか?」


そうこんな感じに、感じ?


なんかいつも話しかけてくる人よりも声が低いような気がした。


いつも話しかけてくる人は、買い物の帰りの主婦だけなのだ。


誰だろと疑問に思い、そっちを向くと帽子をかぶって、黒マスクをつけ、いかにも怪しいですと言うような見た目の男だった。


「俺になんかようですか?」


俺は恐る恐る尋ねた。


いや、怪しいにも程があるだろ。


「僕のこと覚えていますか?」


いきなりそんなことを言う男。


「すみません。思い出せないですね」


俺はしばらく考えてみたが、本当に見覚えがない。


帽子に黒マスクこんなに怪しさ満点の人にあったら、忘れるはずがないだろう。


「そうですか、昨日あったんですけど…」


「昨日はこんな怪しさ満点の人にあった記憶はないんすけど?」


昨日、裸の男にはあったが、それ以外の人とは会っていない。


「これでわかりますか?」


その人は帽子とマスクをとって顔があらわになる。


顔はちょっぴりふくよかな感じだった。


しかし、やっぱり見覚えはない。


「すみません、わからないんすけど、人違いじゃないですかね?」


「君のような人を見間違えるわけないですよ」


ま、確かにそりゃそうだ。


「昨日か、昨日はシャッター街にいた裸の人しか覚えてないんすよ、その印象が強すぎて忘れたのかもしれないっす」


「あの、それが僕なんですけど…」


「は?服着てるじゃないすか」


「こんな人の前で服を脱ぐわけないじゃないですか!」


「昨日は俺の前で脱いでたじゃないっすか」


道のど真ん中で裸になるのはよくて、人の前ではダメとか自己中なやつだな。


「それは君がいきなりくるから…」


「いや人がいなくても、裸で道の真ん中を歩いた上に見られたら、裸で追いかけてくるのはどうかと思うんですけど…」


だいたい、道の真ん中で裸になるのは犯罪だ。まず、している時点でアウトだ。


「それは…その通りなんですが」


「で、話ってそれだけですか?」


裸だった人が大声で話すせいで人目が集まっている。


ヤンキーと黒一色が裸がどうの項の話しているとか地獄の光景でしかない。


誤解が解けたと言っても一部の人だから、あまり悪目立ちはしたくないのだ。


「ち、ちがいます。」


慌てて否定だけして、少し落ち着くためか深呼吸をした。


「あの警察にだけは通報しないでくれませんか?」


そして、言ったのはそんな言葉だった。


「なんでっすか?」


「そんなことをしていたのがバレたら、会社をクビになってしまうんですよ。そんなことになったらいよいよ終わりで。だからお願いします!」


「いや、終わりも何も犯罪犯している時点で人として終わりだろ」


どこまでも自己中だな、こいつ。


犯罪犯して、バレて逮捕されそうになったから、許してくれとは。


「それはそうなんですけど!」


「それにそれは自業自得だろ」


「だって、あんなところに人が来るなんて思うわけがないじゃないですか」


「いや、逆になんであんな場所でバレないと思ったんだよ。シャッター街でも人1人くらい通るだろ」


いくら、シャッター街とはいえど、学校の通学路の途中に通る人はいるだろう。


「一ヶ月間こなかったから、油断していたんですよ」


そんなに人通り少ないのかよ、あのシャッター街。


「油断してたって悪いことしてる自覚あるじゃねぇか。しかも、一ヶ月って常習犯かよ」


「だから、お願いします」


手を合わせてそんなことを頼む露出狂。


カツアゲしてるみたいに見えるからほんとにやめてほしい。


「じゃあ、もう遅いっすよ。もう知り合いの警察に通報してるんで」


「え?警察の知り合いがいるんですか?」


「引っかかるのそこじゃねぇだろ。別に悪いことしてお世話になったわけじゃねえよ。お前と一緒にするな」


少し俺のことを怯えた表情で見てくる露出狂に思わず突っ込んでしまった。


いや、警察に通報している方を言われると思った。


「そうなんですか」


「……意外と動揺しないんだな」


露出狂の表情は落ち着いていた。


こんな人前で頼みにくるくらいだから、相当言って欲しくないのかと思ったがそういうわけでもないのか?


「いや、通報しているんだろなってわかってはいたんです。普通、裸の人を道で見かけたら通報しますからね。見たのが君みたいな見た目だったから、ワンチャンされてないかなって期待してしまったわけです」


「おい、それはどう言う意味だ」


俺がヤンキーだからって警察に通報しないと思っただと?


心外である。


「じゃあ、そのまま警察に行くことをお勧めしますよ。今なら、そこまで罪も重くならないんじゃないっすか?」


「いや、警察に行くつもりはないですね」


「そうっすか」


その言葉に俺は呆れを感じていた。


「君は僕を今から通報しますか?」


その表情を見たのがそんなことを言ってくる露出狂。


「どうでもいいな。もう俺は警察に行ったから後は警察の仕事だ。俺がどうこうするようなことじゃない」


「そうですか、ありがとうございます」


俺はこの件に関してはあかりさんに任せたつもりだ。


目の前に露出狂がいたからって、首を突っ込むつもりはない。


「別にお礼言われるようなことじゃない。ただ、これ以上露出するようなことがあれば警察に捕まるのは確実だからな」


「でも、僕は辞めるつもりはないです」


「……」


「辞めるつもりはないっていうか、やめられないんです。一度あのバレるかもしれないっていうドキドキを経験しちゃうとね」


俺は呆れと同時に可哀想だなと思った。


多分、こいつはそう言うことでしか生きてることを実感できないのだ。


昔の自分に似ている。


「僕を軽蔑しますか?」


「もちろんだ」


「そうですよね」


だからと言って犯罪をしていい理由にはならない。


「じゃあ、せめてこの近くでやらないでくれ。もし、お前の裸姿を唯華が見たりしたら、教育に悪いからな」


「唯華ってだれですか?」


「お前には関係ねぇよ」


唯華にこいつは合わせたくがない。


何されるかもわからない、ストーカーのことをいい人と言っていた件も解決してないのに。


「ゆいと、よんだ?」


そんなことを考えてたら、俺の後ろからと唯華の声が聞こえた。


おいおい、タイミング悪すぎだろ。


振り向くと、やっぱりそこには唯華がいた。


「この子が唯華ちゃん?」


さっきまで話していた露出狂がそう言って、いきなり固まっていた。


「そうだが?どうかしたか?」


俺がそう聞くと、露出狂は肩を振るわせ


「めちゃくちゃ可愛い!!」


と叫びだした。



これはまためんどくさいことになりそうだ。


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