あかりさんへの通報

それから学校が終わり、家で俺は今日のことについて考えていた。


それはシャッター街で出会った裸の人についてだ。


あかりさんに相談した方がいいのか、しないでいいのかだ。


別に俺は正義のヒーローになりたいわけではないし、いちいちそうな通報するようなことではないと思う。


でも、今回顔を見られた以上、前回のストーカーみたいに接触される可能性があるということが心配なのだ。


なんかのためにかはわからないが犯罪に走るようなやつだ。


何をしでかすかもわからない。


特に唯華の前で裸になるとかもってのほかだ。


「と、なるとやっぱり通報しとくか」


俺はバックからスマホを取り出して、あかりさんに電話をかけた。


今は仕事中とか、ラインでした方がいいかなとは思ったが、ある意味通報のようなことだし仕事中でもいいだろうと思ったのと、目撃情報とかも話すことになるなら、ラインだとめんどくさいだろうと思ったのだ。


「灰原だ。どうかしたのか?」


電話をかけて、しばらくしてあかりさんは電話に出た。


「仕事中にすみません。」


「いや、気にしないでいい。それでなんかあったのか?」


「あ、それが今日はシャッター街の方から登校しようと思ったんですけど、そしたら裸の人がいまして」


「シャッター街にか?」


「はい、そうです」


そういうと、あかりさんは「ちょっと待ってもらえるか?」と言い、走っている音が聞こえた。


電話越しで他の同僚の人?に挨拶しているのが聞こえ、また走る音が聞こえた。


「待たせて悪かった」


音が止んだと思うと、あかりさんがそういった。


「どうかしたんですか?」


「いや、犯罪の時は記録しないといけないからなメモ用紙とボールペンを取りに行っていた」


「そうなんですね、すみません」


なるほど、さすが警察だな。


ペラペラと紙をみくる音が聞こえた。


「気にするな。それでいくつかそのことについて質問させてもらうが大丈夫か?」


「もう家なので大丈夫ですよ」


「助かる」


そして、俺は30代の男性ということや若干ぽっちゃり気味なこと、身長や声の高さなど、その男について知っていることを話した。


「なるほど、これくらいわかれば十分だ」


あかりさんのペンを走らす音が止み、あかりさんはふぅ〜と息を吐いた


「ありがとうございます」


「いや、お礼を言うのはこっちの方だ。ありがとう」


「あかりさんにはストーカーの時にお世話になったので」


あかりさんにはストーカーの件といい本当にお世話になった。


ストーカーの件の後も逐一あのおっさんについて連絡をくれていた。


本当に感謝している。


「それにしても意外だったな」


「何がですか?」


ふっと笑ってそういうあかりさんに俺は首を傾げた。


「まさか、お前がそう言うのを見て通報するとは思わなかったってことだ。見てもスルーしそうだなと思ったからな」


あーなるほど。確かに俺はそういうのを通報する質ではないな。


それを気にするようになったのはあいつのおかげだな。


「実はスルーしようかなと思ったんですけど、今日唯華もその現場にいてもう少しで見てしまいそうだったんですよ」


あの時、唯華がいうことを聞いてくれなかったら、裸の人が俺のことをもう少し早く気づいていれば、唯華に見られていたかもしれない。


「あーなるほど」


「しかも俺、顔を見られてしまっているから接触してくる可能性があるので」


「お前の見た目は簡単に忘れられるようなものではないからな」


「それは褒めてるんですか?貶してるんですか?」


これはどっちの意味だ?


「いや、そういうものではなくて、いろいろ巻き込まれそうな見た目だと思ってな」


「確かにそうですね」


それはそうだ。俺の見た目は側から見れば不良だ。


不良が俺の姿を見れば喧嘩をふっかけてくるだろう。


いや、実際にぶっかけられたことがある。


「だから、お前がその見た目の限りは周りに寄ってくる奴らもそう言う奴らになる可能性が上がると言うことだ」


「……」


「だから、唯華が巻き込まれないようにしたいのなら、まず髪の色を戻すのがいいんじゃないのか?」


あかりさんのいうことはわかる。


実際に正しい。だけど、俺には髪の色も戻す勇気がない。


あの日から…


「すまない。いきなりこんなことを言って」


「いや、あかりさんの言う通りですよ。俺のこの見た目のせいで唯華と唯華のお父さんにはたくさん迷惑を今までかけてしまいました」


「でも、戻そうとは思わないのか…」


少し心配したような声であかりさんはそう呟いた。


それに俺はあかりさんの優しさを感じた。


「詳しくはまだ言えないですけど、臆病な人ほど大きな声を出して自分をアピールすると言うことを聞いたことがありますか?」


「ああ、確かにそういうな」


「結局は俺もそれと一緒なんですよ。怖いから髪を戻すことができないんです」


俺は臆病だ。怖がりだ。


だから、虚勢を張る。


他の人の前でも、唯華の前でも。


俺の髪色も口調もそのためのものだ。


「そうか、お前の意思はわかった。前にも言ったが、お前に何があったかは聞くつもりはない」


「それに関しては本当に感謝しています」


「だが、いつか話してくれることを待ってるぞ」


「わかりません。唯華の父にも確認しないといけないので」


あの出来事はそんないろいろな人にポンポンとしゃべっていいものではない。


それじゃ、唯華のお母さんにもお父さんにも顔が立たない。


「そうか、ま、また何かあったら気軽に相談してくれ」


「わかりました」


「それと裸の男に関しては前回みたいにシャッター街に張り込みしてみようと思う」


「俺も行った方がいいですか?」


実際、相手が逃げたり反撃したりしてきた時に俺がいた方が挟み撃ちにもできるし、役に立つだろう。


しかし、あかりさんは


「いや、今回は1人でやる。あまりお前を巻き込みすぎるのも良くないからな。しかも、ストーカーのことがあったばかりだ。唯華のそばにいてやれ」


と言った。


「わかりました。ありがとうございます」


俺はその言葉に甘えることにした。


今、唯華に何があるかわからない。


唯華が心配だからこそ、こういう時にそばにいたい。


「いや、こちらこそ情報感謝する」


そう言って、あかりさんは電話を切った。


あかりさんは本当に優しいと思う。


いつか、あの話をあかりさんに甘えてしてしまう時が来るかもしれないな


そんなことを思って、俺は勉強を始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る