寝不足なアドバイザー

「あれ、もう昼休み?4時間目は?」


俺はいつも通り昼休みに康平のところへ行ったのだが、康平はかなり眠たそうに目を擦りながら、俺にそう尋ねた。


康平は最近、ずっとこの調子だ。


ちょうどストーカーの件が解決した後くらいからだろうか。

ずっと眠たそうにしていて、いつもは真面目に授業を受けている康平が、今日初めて授業中に寝ていることを目撃した。


「もう終わったぞ。珍しいな、お前が授業中に寝るなんて」


「少し寝不足だからね」


あくびをしながら、康平は答えた。


「本当に大丈夫か。目の下のクマが今日は特にひどいぞ。」


「気にしないで大丈夫だよ」


大きいクマに充血した目をしていて、いつもより今日はひどいのだが、康平は笑みを浮かべている。


「最近寝不足なんだろ。なんか困ってることがあるなら、なんでも言ってくれていいぞ。お前にはなんやかんやでお世話になっているからな。」


「••••••いや、大丈夫だよ。気にしてくれてありがとう」


そうはいうもののやっぱり、唯一学校で話せる人がこうも体調が悪そうだと心配になるのは当たり前だろう。


康平は自分の顔を叩き、笑顔で起きていますアピールをしてくる。


「そうか、まぁ本当に困ったらちゃんと言えよ」


「ありがとう」


そうお礼を言うと、康平は体を乗り出してきた。


「それで今日は何があったのかい?」


「今日は気にしなくていいぞ。せっかくなんだから、昼休みの間に少しねろよ」


昼休みは残り40分もある。

この学校は昼休みに持参した弁当は食べるシステムなのだがそれでも30分くらい寝れる余裕はあるだろう。


その30分は授業中も寝てしまった康平とってはでかいはずだ。


「いや、4時間目に十分寝たから、もう眠気から覚めたよ」


「いや、めちゃくちゃ眠そうなんだが?」


明らかにあくびしながらそんなことを言われても説得力がない。


「それより、今日は何があったか気になるからね。特に今日は面白そうなネタがありそうだし」


こいつはエスパーなのだろうか。


確かに面白いのは面白いと思うのだが、そんなに態度に出ていたのだろうか?


「そうか。ま、面白いかわからないが今日あったことって言っても、いうて裸の人が歩いてたのとそう!唯華がストーカーのことをいい人だって言い出してたんだよ。どういうことだかわかるか?」


裸の人がいたと言った瞬間、康平の肩がぴくりと反応した。


「ごめん、そっちよりも裸の人の方が気になるんだけど…」


「それは今日はあのシャッター街あるだろ?そこから学校に行こうと思ったんだけど、そこに裸の人がいたんだよ」


「そっちもかなりやばそうじゃない?」


康平は若干ドン引きしている様子だ。


「この街だったら、それくらいありそうじゃないか?」


「それが大問題なんだけどね」


普通だったらヤバいんだろうが、この街では結構日常茶飯事だったので慣れてしまっているのだろう。


「もう会うこともないだろうし、関係ないだろ」


もうシャッター街から登校しようという気持ちは全くないので、朝に会うことないだろう。

もし、偶然出会したとしてもお互い気づかないだろう。

俺も服を着たあの人を見て気づけるわけがない。


「それは完全なフラグだけどね。ま、情報が手に入ったら一応教えるね」


いつも康平は学校やクラスで起こったことを俺に教えてくれるのだ。


それは別に康平が情報通なわけではない。


このクラスのLINEグループに入っているのだ。


俺は誘われもしなかった。


まぁ、誘うのも怖いだろうし、俺がいるとLINEと内容とかも気にするだろうからしょうがない。


ま、どっちみち康平が教えてくれるので、情報的なものでは俺が困ることは全くない。


そういう意味でも本当に康平には世話になっている。


「それで本題なんだが、唯華がストーカーのことをいい人だって言い出したんだよ」


「今日はなかなか内容が濃いね。それで理由はわからないの?心当たりとかは?」


唯華もストーカーのおっさんがあった可能性があるのは誘拐しそうになった日の放課後はあり得るだろう。


しかし、そこで唯華からいい人と思われているなら、わざわざあんな隠れ方をしなくてもよかっただろう。


そして、警察の事情聴取を受けた後だが、それからは俺が一緒に登下校してたし、出かけるにしても父かあの人と一緒だろうからないだろう。


ストーカーと唯華が最後に会ってからを思い出してみるが、全くの心当たりがない


「全くないな。おまえはどう思う?」


「どう思うって言われてもなんとも言えないな。まぁ、どっかでそのストーカーと唯華ちゃんがあったっけ考えるのが普通じゃないか?」


「やっぱそうだよな」


そう言って悩む俺を見て、康平はいつものようにニヤニヤし始める、


「嫉妬かい?」


「な訳あるか!唯華が変なことにまきこれれてないか心配なだけだ。あのストーカーには前科があるからな」 


「そういう君も前科ありそうな見た目してるけど?」


バカにしたような笑みを浮かべて俺にそうなことを言う康平から俺はそっと目を逸らした。


「••••••前科はねぇよ」


「明らかにある時の反応だけど?もしかして、本当にある?」


「ねぇよ」


前科はない。これは本当だ。


「じゃあ、犯罪を犯したことは?」


「誰だって一度はあるだろ。」


そうだ。ちょっとした、暴行や泥棒を犯罪と言うなら、誰でも一回は起こしたことはあるはずだ。


「それはそうだね」


「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりストーカーの話だ。」


「でもさやっぱりストーカーについてはまた接触してくるまで待つしかないんじゃない?」


「やっぱそうだよな」


今から、行動しようにもストーカーに直接会いに行くくらいしかない。


ストーカーはどこに住んでいるのかもわからないから、この手は使えないとなると、どうしようもない。


唯華もあの感じだと教えてくれないとだろう


「でも、唯人が心配する気持ちもわかるけど、僕はそこまで気にする必要はないと思うよ」


「そうなのか?」


「逮捕されてるからってそんないきなり行動を起こしてくることはないと思うし、唯華がストーカーのことが好きになることはないだろうし」


ま、あんなことがあった後だから、ストーカーをいい人だと思っているとはいえ、ホイホイとついていくなんてことはないはずだ。


「そうだな、わかった。しばらくはストーカーについては放置だ。あと、裸の男がどこら辺によくいるとかわかったら教えてくれたら助かる。唯華と教育に悪いからあまり合わせたくないしな」


「了解!任せとけ!」


「あ、でも、寝る時間を優先しろよ」


「わかってるよ」


「ならいい、ありがとうな」


そう言って席に戻って、康平の方を向くともう席に突っ伏して寝ていた。

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