露出狂編

裸の人とのエンカウント

ストーカーの事件から少し時間がたった。


結局、あのストーカーには重い処罰は下すことはできず、軽い罰金だけで済んだらしい。


相変わらずのしぶとさだ。


しかし、あれからあのストーカーおっさんには一度も出会ってない。


それが反省しているだけなのか、また唯華を誘拐するする方法を考えているのかはわからないが、あのおっさんが行動するまでは俺がどうこうすることはできない。


ま、何が起こるにしろ、警戒し続けるしかないだろう。


そんなことを考えている俺はいつもと1人で違う道から登校している。


唯華がいなかったからとか、そういうわけではない。


あれから毎日唯華と登下校するようになったのだが、ずっと奇行を繰り返しているのだ。


上から落ちてきたり、男装みたいなことをしたり。


流石に毎日それは疲れるので、今日は久しぶりに1人で行くために唯華のいない、別の道から行くことにしたのだ。


ストーカーのことが少し心配だが、最近見かけていないし、今日くらいは大丈夫だろう。


唯華には風邪の時、連絡手段がないから、いつも俺がくる時間からある程度時間が経ったら、学校に行くよう指示しているので、学校に遅刻することもない。


「ん?あれは?」


そんな感じで考え事をして、久しぶりの1人を堪能しながら、誰もいないシャッター街を歩いていると、人影が見えた。


「珍しいな、この時間に1人なんて」


普通の一般人の可能性もあるが、元暴力団の可能性もあったので俺は気づかれないように近づく。


だんだん近づくにつれて、あることがわかってきた。


「マジかよ」


それはその1人でいたのは男で、裸だということだ。


「春だなぁ、いや春でもないしそういう問題でもないか」


その男はシャッター街を、周りをキョロキョロと見ながら、こっちに向かって歩いてくる。


「これは逃げた方がいいか」


俺はとっさに隠れているからバレていないが、このままいけばバレるのは時間の問題だろう。


俺はバレないように後ずさり、後ろを振り向くとそこには唯華がいた。


「うわっ」


「もぉ!なんで今日はいつもと違う道から行っちゃうの?」


唯華は両手を腰につけ、怒っていた。


「なんでここにいるんだよ」


俺は唯華にバレないように家から全く違う道で登校していた。

だからこそ、唯華に絶対に見つかるわけがないと思っていたし、油断もしていた。


しかし、ここに唯華がいたという事実に裸の人のことなんか忘れて焦っていた。


「ゆいとがこっちにきたからだよ?」


「そういうことじゃなくて、なんでここにいることが分かったんだよ」


首を横に倒しながらいう唯華に俺は聞き返す。


「だって、ゆいとのうしろにずっとかくれてたもん」


「ちなみにいつからだ?」


「?ゆいとのいえから?」


なんでそんなことを聞くの?と言った顔で俺のことを見つめてくる唯華。


「なんで当たり前だみたい顔をしてるんだよ!」


「うわっ」


「って、やべっ」


それにつっこんでいた時、後ろからそんな声が聞こえ、俺は裸の人がいたことを思い出た。


恐る恐る、後ろを見てみると、その裸の人は俺がいることに気がついて焦っているのか右往左往していた。


「どうかしたの?」


俺から顔を覗き込み、見ようとする唯華を体でガードし、目を抑える。


こんな知らない人のフルチンを唯華に絶対見せるわけにはいかないと全力で止める。


「いや、なんでもない」


「ん?だれかいるの?」


誰がいるのか気になるのか、頑張って手をどかそうとしてくる唯華をなんとか抑え、裸の男が見えないように抱え上げる。


「目を瞑っておけ」


「どうして?」


「後で教えるから、今は言うことを聞いてくれ」


俺の顔を見上げて、きょとんとする唯花を俺は優しく制した。


「うん、わかった」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。誤解だ」


「誤解もクソもあるか!」


後ろから、裸のまんま少し太った体を揺らしながら走ってくるのが見えて、俺は唯華を抱きかかえたまま、そう言って走り出した。


「行くぞ!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ〜!」


後ろから、そんな声が聞こえるが俺は全力で無視をする。


唯華の教育にも悪いし、何よりああいう厄介ごとに関わるのはもうごめんだ。


俺はここのまま来た道を戻り、いつも唯華が待っているところまで走った。





「ここまで来たら流石に大丈夫だろ」


唯華をゆっくりと下すと、


「どうして、めをつぶったの?」


そんな唯華からの質問に俺は少し頭を悩ませた。


全裸だった人が道のど真ん中を歩いていたとか小1にいっていいものなのだろうか?


俺は10数秒悩んだ末に少し誤魔化すことにした。


「あ〜、それはだな、そう!見ちゃいけない人がいたんだよ、危ない人だ」


直接的ではなく、関わってはいけない問いアピールをする一番良い回答のはずだ。


しかし、唯華からしたらいまいちピンと来なかったのだろう。


「怖い人?」


「怖い人ではないな。悪いことをしている人だよ」


「悪いことって?」


「あの前に唯華のことを連れて行った人みたいなことだ」


そういう感じにちょっと唯華からの質問に答えていると唯華から耳を疑うような発言が飛び出した。


「あ!あのおっさんいい人!」


「うん、そうだな。••••••ん?あれ?」


唯華は今まで散々怖がっていて、唯華を誘拐しようとした人をいい人と言ったのだ。


俺はこれまでで一番混乱しているかもしれない。


「ど、ど、ど、どういうことだ?」


「いい人だよ?」


嫌がる様子もなければ、思い出して怖がる様子もない。


さらに言えば、悪い人と言ったことに少し納得がいっていない様子だ。


「もしかして、なんかされたりしたか?」


登下校は一緒にいたはずだから、それ以外に何かされたり、変なことを吹き込まれたりしたのだろうか。


と、心配したが、唯華は何もない顔で「されてないよ?」と答える。


「じゃ、じゃあ、なんであのおっさんをいい人だって思ったんだ?」


全くもって意味がわからない。


確かに誘拐されかけた時までは怖がっていたはず。


そして、今いい人だと言っているなら、その間に接触したとしか思えない。


しかも、捕まった後おっさんも「すぐに舞い戻って唯華ちゃんを手に入れてみせるさ。今度は正攻法でな。同じ失敗なしないさ。」と言っていた。


しかし、唯華はなぜか勝ち誇ったような顔をしている。


「ふふん、ひみつ!」


そう言って、足早に学校へと向かう「ちょ、ちょっと待て!」唯華を追いかけるといういつもと逆のパターン、そして今日の裸の人と同じような感じになっていることには気づかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る