ジャージ姿のあかりさんはかっこよくて優しい

朝、俺は予定通りの時間に家を出ていた。


それはきのうはあまりにも早く寝てしまったからか4時に起きてしまったからだ。


しかし、もう一度寝付く気にもなれず、昨日、一昨日にさぼっていた勉強をしながら待っていた。


こうして考えると最近結構早寝早起きしている気がする。


「もしかしたら、このまま健康優良児になるかもな。それはないか」


そんな感じで軽く独り言を言いながらいつもの場所に向かっている。


警察もよんでストーカーと決着をつけるつもりだが特に緊張とかも感じなかった。


灰原さんもいるし、唯華に変なことをしようとしているところを見て捕まえるだけなのだ。


変なことにならない限り大丈夫だろう。


一つ懸念があるとすれば唯華のことだ。


大方の計画はこうだ。

①唯華を待つ

②ストーカーが接触する

③なにか怪しい動きをしようとしたところで逮捕というわけだ。


なので唯華が怖い思いを一回してしまう可能性があることだ。


本当は唯華に事前に伝えたほうが唯華を怖がらせずに済むからそっちの方がよかったのではないかと朝思ったが、伝える手段がなかった。


いや、昨日帰る時に伝えればよかったけど、逃げてしまった。それが一番の原因だ。


逃げたせいで唯華が怖い思いをすると言うことを考えることができなかった俺の責任だ。


だからこそ、俺にできることは怖がらせないようにできるだけ早く逮捕することだ。


「それに、自分のことも何も解決してねえな」


俺が唯華にどうすればいいのか、唯華は何をしてほしいのか、そして俺が不審者扱いされているのはどうしたらいいのか、考えれば考えるほど問題はたくさん出てくる。


「どうしたらいいのかな」


どうすればいいか考え始めたが結局何一つ思いつかずにいつもの待ち合わせのところについてしまった。


そして、そこにはジャージ姿の女性がいた。


「おはようございます。ジャージを着てきたんですね」


それは灰原さんだった。


「おはよう、そっちの方がなんかあったときに動きやすいと思ってな。それに朝からランニングをしている人もいるから、違和感がないだろうからな。」


確かに灰原さんのスタイリッシュな体にジャージは似合っており、普段からランニングしてそうな感じのため違和感は全くない。


「この街でこの時間にランニングしている人はいないですけどね」


「そうなのか?」


灰原さんはきょとんとした様子で聞き返してくる。


「そうですね、この時間はいつも人通りが少ないんですよ」


「どうしてだ?」


「この街に最近まで大きい暴力団組織があって夜は結構、事件に巻き込まれることが多いかったんですよ。だから、基本夕方から朝早くは危ないということで一人で出かけたりしないように気を付けていたんです。

今はトップがいなくなって、ほぼ壊滅状態なんですけど、まだいまだに組員を名乗って暴れる人がいるからか、その名残かはわからないんですけど、朝早くはいまだに人が少ないんですよね。」


「なるほど」


「もしかして、この街に来たのは最近なんですか?」


「そうだ。半年ほど前に警察になって、田舎から引っ越ししてきたのだが、どうしてそう思ったんだ?」


「その暴力団がなくなったのが一年くらい前なんですよ」


そうちょうど、春休みの間にあれは起きた。

あの人が亡くなって、トップが辞めることになったあの事件。

多分一生忘れることができない。


「それは今初めて知ったな。教えてくれて感謝する」


「こちらこそ、朝早くから付き合ってもらってすみません。」


「いや、気にするな。それが警官の仕事だからな」


「それでも本当に感謝しています。」


「まぁ、それは終わってから言ってくれ。それより昨日はちゃんと寝られたか?」


あかりさんはちょっと照れた顔をして、話を逸らした。


「昨日言われた通りに早く寝ましたから」


「そうか、意外と君の場合は緊張して寝れないかなと思ったが杞憂だったな。」


「まぁ、こういうことには慣れてるんで」


うっかり口を滑らしてしまったかと思い灰原さんの顔をうかがうと、灰原さんは少し俺の顔をじーっと見つめると、


「どうしてか気になるところだが、聞かないほうがいいのだろう」


といって、視線を俺から外した。


「そうしてくれると助かります。」


「わかった。それで唯華ちゃんはいつごろにここに来るんだ?」


俺がほっとしていると灰原さんはまた俺の方を向いて、そんな質問をした。


「いつもは今から大体20分後くらいに来ますね」


「もう少し時間はあるが、それまでも気を張っていないとな。いつおっさんが現れるかもわからないからな」


「わかりました」


「あー、あと、昨日あのおっさんはどっち側から来たとか覚えているか?」


「あ、たしか、あっち側から来たと思います。唯華もそっちからくるので」


「じゃあ、こっち側が死角になるな。こっち側に隠れていよう」


「わかりました」


灰原さんはうなずくと、足早にそこに移動していた。はたから見たらこちらが不審者と勘違いされそうな気もしたが人もいないようだし大丈夫だろう。俺も灰原さんの後についていくと、灰原さんはポケットからスマホを取り出し俺に差し出してきた。


「証拠は君が動画でとってくれなんかあったときは私が動くから」


「ありがとうございます」


「それで最後に聞きたいことがあるのだが……」


いつもより真剣な顔を俺に向行けて、そんな前置きをすると


「なんか悩んでることあるだろ」


と言った。俺はドキッとしたが別に灰原さんに聞くことではないと思い、すっとぼけた。


「え?いや、そんなことはないですけど」


「いう気がないならいいが、力になれるかはわからないがいつでも言えよ」


「……わかりました。ありがとうございます」


すっとぼける俺を見て、灰原さんはため息をつきながらそう言った。その姿を見て申し訳なさを感じながらお礼を言うことしかできなかった。


「わかったなら、良しだ。頑張れよ」


「何をですか?」


「いろいろとだ。これから先今回のような自分では解決できないことがたくさんある。その時は必ず私でなくてもいいから、周りの大人を頼れよ。必ず力になってくれる人はいるからな」


「……はい」


俺は少し迷った。ここで灰原さんに相談した方がいいのかしないほうがいいのか。しかし、ここまで言ってくれた灰原さんの意見も聞いてみたいと思って声をかけた。


「あ、あの」


「ん?あれは?」


のと同時に灰原さんが声を出した。


「どうかしたか?」


「あとで大丈夫です。灰原さんこそどうかしたんですか」


「あそこの女子小学生の中のいるのは唯華ちゃんじゃないかと思ってな?」


「え?」


指をさした先にはいつも唯華が来る方にある十字路を渡っている5人くらいの女子小学生の集団がいた。


よく見てみると、その5人集団の一番後ろにうつむきながら登校している女の子が唯華だった。


「確かにそうですね」


「やっぱりか」


「ていうか、よく気が付きましたね」


「警察だからな。それにしてもいつも一緒に行っているのではないのか」


「いや、いつもここで待ってるんですけど……」


「まあ、君が嘘をついている可能性は低そうだな」


俺が嘘をついていると疑われなかったことに安堵した。


そしてよくみると、その女子達はおとといの四人だったため、俺は思ったことを口に出した。


「多分、不審者が最近出てるんで心配して迎えに来たんだと思います。」


「あぁ、そういえば、小学校の前を隣の高校の生徒がうろちょろして、誘拐しようとしたと通報が来てたな。小学生相手に言い負かされて泣けたそうだが」


「・・・・・・」


「もしかして君か?その不審者って」


「多分そうっすね。身に覚えがありすぎるんで」


「それなら、言い返せば…。あぁ、なるほど」


あかりさんは何かを察したのか、急に話すのを止め、違う話題を出した。


「それでどうする?まだストーカーは来ていないみたいだが、ここで待っているか?それとも近づいてみるか?」


「それで大丈夫ですか」


「大丈夫だ」


俺は考えたが、ストーカーを捕まえるより、唯華の安全が第一だと考えた俺は唯華に近づくことにした。


唯華は友達と仲良くなって俺のことはどうでもよくなってしまったのか。


「ああー、なるほどな。唯人、多分お前の心配しているようなことはないと思うぞ」


「え?」


「よくあの女子たちの会話に耳を澄ましてみろ」



「やっぱりいつもより早く出たのは正解だったでしょ?この時間だったら不審者に会うこともないわ」


「さすが、天才!」


「で、でもゆいと、とまちあわせしてるもん」


「その子男の子なんでしょ。だったら大丈夫だわ」


「そうよ、あなたは不審者に狙われているのよ。男子一人に任せるより、私たちのほうが安全だわ。」


「そんなことはないもん……」


頑張って振り絞るような声で唯華が言うが、かすれたように言う唯華の声は大きい声のほかの女の子たちによって反論されてしまう。そしてその話を聞いているうちに唯華たちは見えなくなってしまった。


俺は進めようとした足を止めてしまった。


唯華と一緒に登校したいという気持ちはある、そして多分唯華も一緒に登校したいと思ってくれている。


でも、おれは今ストーカーを追いかけている身であり、女の子たちからは不審者だと思われている。


さらにこれをきっかけに唯華は友達ができるかもしれない。それを妨害してもいいのだろうか。そんな疑問が頭にまた浮かんできた。


「灰原さっっっっ!!」


どうするべきか灰原さんに聞こうと声出した瞬間、俺の口は灰原さんの手によってふさがれた。

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