逃亡と突然の電話
放課後になりみんなが部活動に行き始めても、俺はどうするべきか迷っていた。
康平が言っていた言葉はわかるが俺の中で唯華のためにならないといっている自分がいるのだ。
どうすればいいのか康平にもう一度聞こうとしたのだが、あいつはもともと帰るのがほうなのだが今日はHRが終わるのと同時に教室を出て行ったのだ。
ぎりぎりまで迷っていた俺だが、迷っていても無駄だと思い康平に言われた通りに唯華を迎えに行こうと小学校へ向かうことにした。
そう言って小学校に向かおうとしたのだが、さっきからずっと視線を感じている。
高校の校門から小学校の校門まで歩いて1分かかるかかからないかの距離だが、その間ずっとじっと見られているような感じがするのだ。
しかし、そういう風にみられるのには慣れているので気にせずに小学校の校門までついた。
そして、校門の前まで来ると昨日はいなかった先生が周りを気にするように立っていた。
「まじか、昨日いなかったのに何でいるんだよ。先生に見つかって誘拐犯と間違われたら厄介だぞ」
先生に見つからないように校門の死角になるところに立って顔を上げるとそこには俺に対して怪しげな視線を向ける主婦たちがいた。
そこで俺はあることを思いだした。それは康平が朝言っていたことだ。
‘‘あぁ、それはなんか、昨日の放課後、うちの学校生が隣の小学校の生徒に付きまとった挙句、逃げたらしい。それで小学校の先生や保護者からクレームが入ったことで見張ってるみたいなことを言ってたのを聞いたぞ‘‘
昨日あんなことがあったら先生が見張っているのは当たり前だ。
しかも、さっきから感じる視線は多分この主婦たちの視線だが、明らかにその犯人が俺だと疑っている様子だ。
もしかしたら、昨日の様子を見た人もいたのかもしれない。
俺はそれに気づくと同時に走り出してしまった。家のほうに向かって全速力で走った。
なんでかはわからない。とりあえず夢中で走った。
気がつくと、俺はもう家の目の前に立っていた。
重くなった足をひきづるように運び、いつも通り誰もいないくらい家に入る。
そしてそのまま、荷物を放り投げ、ベットにダイブした。
なんで逃げてしまったのか、そればかりが頭をよぎる。
その答えはわかっている。怖かったからだ。
何がか怖かったのか?
俺が来たことが原因で唯華が孤立してしまうことがか?
違う、違う
俺は怖かったのだ。誘拐犯と間違えられて唯華と一緒に登校できなくなるのが。
唯華が迷惑だと思うことをやって嫌われるのが
唯華が楽しそうに友達と帰っていて、俺から離れていこうとしているのを見るのが
もし、あのまま通報されていたら、接近禁止命令だとか、これを知った学校が退学処分だとかしてくるかもしれない。
もし、唯華が友達を作ろうと頑張っているのであれば、唯華の頑張りを無駄にして嫌われてしまうかもしれない。
もし、唯華が楽しそうに帰っていたら、いつかは登校の時でも友達と行くようになってしまうかもしれない。
そんな不安をずっと唯華のためになるからと逃げていただけなのだ。
俺は自分が思っている以上に唯華との登校を楽しみにしていたのだ。
そうやって、悩んでいると、俺のスマホが鳴り出した。
「誰からだ?」
俺に電話をかけてくる人はそうそういない。
「まさか、唯華に何かあったのか?」
俺は急いで体を起こして、スマホをバックから取り出して名前を確認する。
そこには灰原あかりと書かれていた。
「あーすっかり忘れてたな」
朝、唯華と別れた直後に電話をかけていた。
もちろん、その内容はあのストーカーを逮捕するためだ。
明日、いつもの場所で待ち伏せして、ストーカーがおかしなことをした瞬間、現行犯逮捕してもらおうと思ったのだ。
「灰原だが、今は大丈夫か」
あの時と変わらない調子の声が聞こえた。
「今は大丈夫です。」
「朝は話の途中でいきなり切られたから、聞けなかったのだが、いつ行けばいいのか聞きたくてな」
朝校門前で電話していていたのだが、そういえば話の途中で取り上げられていたのだった。いろいろな悩み事があったせいですっかり忘れていた。
「すみません、途中で先生に見つかって取り上げられてしまって」
「なるほど、それは災難だったな」
「それで集まる時間なんですけど」
そういって、おれはいつもあの場所へ着く時間より30分早い時間を言った。
「わかった。できるだけ警官とばれないほうがよさそうだからな私服で行くぞ」
「わかりました」
「じゃあ、しっかりと寝ろよ」
そう言って電話は切れた。
朝唯華と約束した通りもう怖い思いをさせないために、明日できればストーカーとの決着とつけるつもりなのだ。
来ない可能性もあるが俺は何となくだがそれはないだろうと思っている。
しかし、まだまだ唯華のことや自分自身のことなどこれからどうするべきなのか俺の中では何も決まっていない。
俺はその不安を振り払うように
「よし、明日のために早く寝るぞ」
と言って、灰原さんが言ったとおりに早く寝るのだった。
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