兄なのか親なのか彼氏なのか

「ばっかじゃねえの。校門の前でスマホを触って、校則違反で没収とか。」


 おなかを抱えてゲラゲラと笑っている康平をみて、俺はさらに頭を抱えていた。


「はぁ、いや、分かるわけねえじゃん。今日に限って生徒指導の先生が早めに校門で見張ってるとか」


「それはマジでドンマイだな」


「なんで今日に限って、早いんだよ」


「あぁ、それはなんか、昨日の放課後、うちの学生が隣の小学校の生徒に付きまとった挙句、逃げたらしい。それで小学校の先生や保護者からクレームが入ったことで見張ってるみたいなことを言ってたのを聞いたぞ」


 いくらロイコンとはいえ、同じロリコンとして許せないよなとかどうでもいいことを言っていたが、そんなことは俺の耳に入ってきていなかった。その心当たりがありすぎる内容にただただフリーズすることしかできなかった。


「あ……」


「どうかしたのか」


 康平は俺が急にフリーズしたことに対し怪訝な顔をして、聞いてきたが少し考えて何か納得がいったかのような顔をした。


「あぁ……もしかして、それってお前か」


「し、知らないなぁ」


「いやぁ、やっぱりお前はロリコンだったのか」


「だから、お前と一緒にすんな」


 俺は知らないふりをしようとしたが、ただの図星だしそこまで演技がうまいわけでもないため、察しのいい康平には通用しなかった。


「そんな大事になってるとか知るわけねえじゃん」


「それにしても相変わらずの不幸体質だな」


「いや、マジで最近ついてないことばっかなんだよ。唯華が変なおっさんにストーカーされるし、ただ、心配して唯華を向かいに行っただけなのにストーカー扱いされ、挙句の果てにそれのせいでスマホまで没収されるとか踏んだり蹴ったりすぎないか?」


 自分で言っていて、あまりにもひどすぎるがゆえにどんどんうなだれていていった。そんな俺をみて、康平は少し不思議そうな顔をした。


「しかも、その感じだとあれだろ。昨日、唯華ちゃんを向かいに行ったときにそうなったんだろ。じゃあ、唯華ちゃんが否定しなかったのか」


「ああ、それは……。っていうよりは先に昨日のことを言った方がよさそうだな」


 簡潔に言ってもよかったのだが、アドバイスも欲しかったため、きっちり機能の放課後に起きたことを話すことにした

 。


「なるほど、唯華ちゃんは人見知りだからその女の子たちに否定できず、それで余計に疑われて逃げてしまったと」


「そういうことだ」


「そんな見た目と髪の色してるくせに意気地なしだな」


「うるせえ」


 康平はあきれたような目を俺に向けているが、反論できるはずもなく俺は顔をそむけた。


「男なら、こいつは俺の彼女だくらい言って一緒に帰ってあげろよ」


「高校生が小学一年生の彼女なんていたらアウトだろ。それこそ大問題になるぞ」


「そんな世間体なんか気にするな、あったとしても補導されるだけだ」


「十分それはまずいだろ」


「それに唯華ちゃんだって、あまり話したことがない人よりお前と帰りたかったんじゃないのか」


「そうかもしれねえな」


 それはそうかもしれない。唯華なら一緒に帰ろうといえば喜んで一緒に帰ってくれそうだ。しかし、それでより補導されて大事になったり、学校なんかでうわさされたらそれ言唯華にとってためにならない。


「なら、一緒に帰ってあげたらよかっただろ。兄だとか嘘つくことだってできただろ。」


「それはそうかもしれねえけど…。これがきっかけで友達になるかもしれねえのに俺がそれを妨げるのはどうかと思ったんだよ」


「でも、お前も心配だし一緒に帰ってあげたかったんじゃないのか」


「それはそうだが……」


 康平の言っていることはすべて正しい。何一つ間違ったことは言っていない。


 もちろん嘘つくことぐらいできたし考えた。心配で一緒に帰りたい気持ちもあった。

 でも、それ以上にそれじゃ唯華がこれからも俺に頼ってばっかになってしまって成長しないのではないかという不安があったのだ。それを言おうとしたがそれを遮られた。


「それなら、そうしてあげればよかったじゃねえか。しかも、実際にストーカーと朝にあったばっかなんだろ。いくら、集団とはいえ小学校低学年だ。お前が一緒に帰って方が安全だろ」


 その通りだ。あの後もしあのストーカーに襲われていたら、対抗できていなかったかもしれない。


 昨日は何も起こらなかったのだが、それは結果論でしかない。

 でも、いつもは知らないが話していた内容や唯華の反応的に多分人と一緒に帰るのは初めてなのだろう。


 その機会を俺が邪魔しないほうが唯華のためになるという意見は変わらない。


「だけど……」


「はいはい、君が唯華ちゃんのことを思って言ってるのはわかってる。一緒に帰らないほうが唯華のためになるかもしれない。そう思うのもわかる」


「だったら」


「でも、唯華のことを思ってるのなら、余計に唯華ちゃんのためになるかどうかじゃなくて、唯華ちゃんが何をしてほしいかを考えてあげるべきじゃないのか。お前だって一緒に帰ってあげたかったんだろ。じゃあ、やることは一つじゃねえのか。お前は唯華ちゃんの親じゃねえんだ。」


「……。」


「まぁ、ゆっくり考えたらいいんじゃないか。ほら、もう昼休み終わるぞ。さっさと席に戻れ」


「……ありがとうな。少し考えてみる」


 俺は結局何言うことはできなかった。そうだ、康平が正しいのだ。しかし、俺のプライドか何かわからないもやもやが邪魔して、行動に移せなかったのだ。


 唯華のことを思っているなら唯華が何をしてほしいか考えろ、お前は唯華の親じゃないだろ。その言葉が席に戻っても俺の頭の中で何度も繰りかえされた。


 結局、考え込んでしまいそのあとの授業には集中できなかった。

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