天才?女子小学生との口論
帰りのHRが終わった。
俺が通っている高校は学業にも部活にも両方力を入れている自称進学校のため、部活の時間をとるためにかえりが早い。
加えて俺は部活に入っていないので、家に帰ることができる時間が隣の小学校とほぼ同じなのだ。俺は昼休みに康平と話した通り唯華と一緒に帰るために唯華が校門を出る前に着けるように急いで隣の小学校へ向かった。
校門に着き、端の方で校門の中を眺めてみると、もうすでに何人かの小学生低学年と思われる子供が校門から出てきていた。
その子供たちは全員俺のほうを向くが必死に目を合わせないように帰っている。
まあ、普段いない見た目の悪い高校生が校門前に立っているのだ。そりゃあ怖がるのもしょうがないかと自分で結論を出し、気にしないようにし立って待っていた。
基本的に唯華は人見知りのため、帰るときは一人で急いで帰っているらしい。
10分待っても唯華は出てこなかった
「もう帰ってんのか」
そう呟き、帰ろうとしたときにある女子集団が目に入った。
そして、俺は驚いた。なぜならその女子集団の中に唯華がいたからだ。
聞いた話は嘘だったのか、そのあとに友達ができたのかはわからないが、唯華が独りぼっちではないと知ったため、ストーカーの心配と同時に学校で独りぼっちだったことを心配していた俺は安心して見つからないうちに帰ろうとすると、その女子集団のうちのリーダーっぽい見た目の女子と目が合った。
そして、その瞬間俺のほうに向かって走ってきた。
そして、俺の目の前に立つと、
「あなたが先生が言っていた不審者ね!」
いきなり指差してそんなことを言ってきた。
「は?何のことだ?」
いきなりのことで驚き声がうわずってしまった。
「とぼけたって無駄よ。先生が言っていたんだもの。隣の高校の人がこの子を学校に行く途中に襲われたって。」
「本当に何のことかわからないんだが?俺はこいつの」
そこで俺は言葉に詰まってしまった。なんて言えばいいんだ?友達か?知り合いか?親の友達とでもいえばいいのだろうか。
そう考えているうちにその女子は
「ほら何も言えないじゃない。うちの先生に言いつけてやる!」
「おい!ちょっと待て」
と言ってる間にその女子はいつの間にか到着していた女子集団の一人指示を出して、先生に報告に行かせてしまった。
「俺は別に怪しい奴じゃねえよ」
「不審者はみんなそういうって知ってるんだから。それにその見た目で怪しくないわけがないじゃない!」
こいつ本当に小学一年生か?もしかしたら、上級生かもしれないがそれでもしっかりしてるな。
もしかしたら、こいつは天才なのかもしれないな。よく本とかである真面目生徒会長みたいな。
と感心してたが、やべぇ、そんなこと考えてる暇じゃねぇ。どうするべきだ?天才小学生に言い負かされそうになってるぞ。
焦って、頭をフル回転させるが、状況は変わらない。
見た目という痛いところをつかれ、何も言い返せないでいると、その女子は勝ち誇ったかのように唯華に確認をした。
「ねえ、この子があなたが襲われた不審者なんでしょ?」
俺は、安心した。これで唯華は否定するはずだから、俺の不審者の疑いは晴れるなと思っていた。しかし、唯華は震えながら下を向いていた。
「あ、あ、あの、ち、ち……」
蚊の鳴くような声で違うといおうとしている唯華の声が聞こえなかったのか、震えている唯華の姿を見て
「ほら、あなたがいるから唯華が震えているじゃない!早くどっかに行かないと警察呼ぶわよ!」
といった。
そこで俺は合点がいった。
唯華はあのことがあってから、仲良い人と家族以外には極度の人見知りになっているのだ。
その唯華が話せていないと言うことは、多分この子たちは普段から話す友達ではなく唯華のことを心配して一緒に帰ろうと思ってくれたクラスメイトだったのだろう。
唯華とクラスメイトに心配してくれる人がいるのはとてもうれしいことなのだが、話す声が大きかったためか、辺りを見回すと、知らない大人や小学生が集まって俺に疑いの目を向けていることに気が付いた。
しかも、その中にはスマホで誰かに電話している人もいた。
側から見れば、ガラの悪い高校生と女子小学生が言い合っているから、俺に疑いの目を向けるのは当然だろう。
しかし、電話している相手が警察だった場合、大問題だ。
ここまで疑われてしまっては疑いを晴らすのが難しいし、今朝はあかりさんだったからよかったものの今朝と比べ今の状況は圧倒的に不利だ。もし、あかりさんじゃない警官が来たら、今度こそ警察官に連れていかれてしまうだろう。
そう思った俺はその場からダッシュで逃げてしまった。
「待ちなさい!不審者!」
と言う女子小学生の声が聞こえたが、無視して走り続けた。
唯華に失望されるかもしれない。
そんな考えさえも浮かばないほどに全力で走った。
俺は家の正面までつき、やっと今まで全力で動かしていた足を止めた。
ここまで来たら、警察に通報されていてもすぐに見つかるということはないだろう。しかし、今の俺はその安心感以上にただただ、震えている唯華の前で否定できずに逃げてしまった己のふがいなさをひしひしを感じ、悔しかった。
「くそっ!」
もしあそこで俺はこいつの彼氏だとかお兄ちゃんだとかそういうことをうそでもはっきりと言ったら、納得してもらえたかもしれない。
そして、あの子たちを無視して唯華と手をつないで帰れたら、一時は大事になるかもしれないが、あかりさんに説得してもらえたかもしれない。
しかし、お兄ちゃんや彼氏とうそを言ってしまえば、唯華が嫌だと感じてしまうかもしれない。
実際、あかりさんにお兄ちゃんと言われて、唯華は嫌がっていた。
自分がかかわることで唯華に友達ができるチャンスをつぶしてしまっているのかもしれない。
前、唯華が一人で帰っていることを話している時、とても寂しそうだった。
そんなさまざまな考えが浮かんで行動に移すことができなかったのだ。
それでも、あの中で浮いていた唯華を残すことが心配だったのだ。
だから、俺は一緒に唯華と帰ろうと思っていたのだが、あの女子小学生を前に逃げてしまった。
もっとこうすればよかった、ああすればあんなことにはならなかったんじゃないかという後悔だけが募ったが、今から俺ができることなんて一つもなかった。
俺はゆっくりと重たい足を動かし、家の中に入った。
家の中にはもちろん誰もいない。母は親父と離婚して出ていき、親父は家を長期間出てはたまに帰ってを繰り返している。まぁ、多分パチンコかキャバクラかどこに行ってるのだろう。
それが本当にそうなのかはわからないが、もう慣れてしまったし、学費とかはちゃんと払ってくれているのだからいいほうだろう。
そんな誰もいないくらい部屋で何もする気は起きず、そのままベットに寝っ転がた。
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