第34話 僕が魔界に居るために……
ーーレイルは必要ない。
魔王様の声がぐるぐる頭の中で回る。
そんな事、知ってる。
だって魔王様は強い。
そして魔王様は聡い。
そんな彼が僕を必要とする事なんて、一つもないもの。
全部一人で解決できてしまう、最強の魔王様だもの。
ーーでも、僕は人間界に戻されたくないんです。
今は何も考えられなくて、一旦部屋に戻ろうとのろりと頭を上げた。
視線の先に延びる廊下は、最小限の灯りしかなく薄暗い。
思考を振り切るように
『……俺にオマエが必要と思って欲しいと言ったな?』
口付けの後、魔王様が金赤の瞳に肉食獣みたいな獰猛な光を宿しながら言った言葉。
『主導権はオマエにある。レイルが俺を必要とする限り、俺は側に居続けよう。俺を得るも捨てるも、レイル、オマエ次第だ』
そうだ。
魔王様にとって僕は必要ない。でも僕が必要だと言うなら側に居てくれるって確かに言った。
ーーこれ、上手く使えば人間界に戻らなくても済みます!
一つの案が浮かぶ。一筋の光明が差した気がして、僕はぱっと顔を綻ばせた。
ちょうどその時、カチッと微かな音が静かな廊下に響く。
ーーはっ!しまった!
すっかり考え込んでしまってた!
これじゃ立ち聞きしてたのがバレちゃう。
ぱっと振り返った僕と、開けた扉から身体を半分出して驚いたように目を見開いた魔王様の視線がかち合った。
「……レイル?」
窺うような魔王様の声に、僕は条件反射のようににこっと微笑んで見せた。
「こんばんは、魔王様!まだ執務室にいらしたんですね」
伊達に十二年間も魑魅魍魎が跋扈する王宮に居たわけじゃないんだぞ。感情を押さえて
にこにこ笑っていると、魔王様は長いお御足を動かして僕に近付いてきた。
「どうした?顔色が良くない。気分でも悪いのか?」
心配そうに眉を寄せて身を屈めた魔王様は、指の背で僕の前髪を払いそっと触れてきた。
ついさっき、懐柔の必要はないって言ってなかった?
あまりの変わり身の早さに、ポカンと間抜けな顔で魔王様を見上げる。
すると魔王様の後から姿を現したアスモデウスが、僕らを見てマスカラもバッチリな目をぱちくりと瞬かせ、口元を指で押えて叫んだ。
「あらヤダ!あらヤダ!!あらあらあらあら………」
『アス、煩いよ』
癒そうな顔でベレトかアスモデウスを睨む。でもアスモデウスは全く意に介す様子もなく、マジマジと僕と魔王様を交互に眺めていた。
「懐柔の必要がないって
きゃあきゃあと黄色い声を上げる。
僕は訳がわからなくて、アスモデウスを見て、魔王様を見上げた。
魔王様は僕の困惑を理解したのか、ゆるっと首を振りさっさと僕を抱き上げた。
「気にするな。アスモデウスの得意分野は
「
その一言に、ぱっと顔が朱に染まる。
き……聞いたことあるし、殿下の婚約者として座学を受けた事もあるけど、魔王様との口付けを思い出すと妙に生々しくて恥ずかしい。
「んまっ♡初々しいわぁ……。ああん、可愛い〜っ♡もう、ラニットったらっ!ちゃんと避妊するのよ♡」
「…………殺すぞ」
魔王様はアスモデウスを冷たく睥睨すると、僕を抱えたままスタスタと歩き始めた。
「ーーで、こんな夜中にわざわざ此処まで何の用だ?」
「僕の役割りの事で、聞きたいことがあったんです」
そう。元々は審判を下す日がいつか、どうやって審判を下すのかが知りたかったんだ。だから間違いじゃない。
「………そうか」
魔王様は抱き上げている僕をチラリと見て、そのまま脚をすすめた。
無言で廊下を歩く魔王様の顔をこっそり見ながら、さっき思い付いた方法を明日さっそく試してみようと心に決めた。
ーー何としても、魔界に……魔王様の側に居たいんです、僕。
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