第11話 魔王様の(愉快な?)仲間たち
どんな顔をして魔王様と話をすればいいんだろうと、恥ずかしくて俯いて悩んでいると、賑やかな声が聞こえてきた。
「うわぁ……、魔王サマ、容赦なくゲロ甘ねぇ……」
「今なら、勝負に勝てるやもしれぬ」
「
『距離詰めんの早すぎて、秒でフラれるに一票』
ぱっと顔を上げると、そこには四人の人物が立っていた。
ーー誰でしょう?
魔王様のトンデモ行動で扉の開く音を聞き逃したのかなと思っていると、背後から嫌そうな声が響いた。
「覗き見とは趣味が悪い」
……………。ご趣味がちょっとアレな魔王様に趣味が悪いって言われるなんて、どんな残念な人達なんだろうと、よく見てみた。
髪の色は黒、瞳の色は黄金色なのは、全員一緒かな?
この色味が魔族の特徴なのかも。
一人はヒョロリした細身の美しい男性。微笑みを浮かべる唇ははっとするくらい赤く艶かしい。整えられて美しい柳眉の下、切れ長の瞳は面白そうに細められている。緩やかにウェーブを描く長い髪を艷っぽく纏め、しんなりとポーズを付けて立っていた。
一人はガッチリとした筋肉隆々の見たまま武人といった雰囲気の男性。頬にザックリと傷があり、太い眉、眼力強めの一重の目は油断なく光っている。たぶん『精悍な』って表現の似合うイイお顔なんだけど、何せ厳つい。その逞しい背中には、刃の幅が広めのバスタードソードを担いでいる。
一人はしなやかな筋肉を纏う、少し細身の男性。細く見えるけど絶対鍛えてると思わせる雰囲気がある。優しげなカーブを描く眉の下の目は……。目は分からなかった。真っ黒な細めの布が巻き付けられていて、その瞳を覆い隠している。特徴的なのは耳で、遥か昔に存在していた『エルフ』みたいに上方が尖っていた。
一人は………。えっと、猫?猫だ、猫。うん……。
鼻筋から口周りが白い、いわゆる白黒のタキシードキャット。
ちゃんと後ろ脚で立っていて、燕尾服を着ている。可愛い。
袖から出ている手は猫の手で、ちゃんとピンクの肉球もある。凄く可愛い。
長いおヒゲがピクピクしてる。めちゃくちゃ可愛い。
『何か僕を見る目がちょっと……』
見過ぎて後退りされた……。ごめんなさい。
猫の身体のせいか、出ている声が人の声とは少し違うみたい。ヤバい、可愛すぎ……。にゃーって鳴かないのかな。
駄目だと分かっていても目が離せずにいると、すっと視界が陰り大きな手で両目を覆われてしまっていた。
「見ても何の益にもならんぞ」
耳元で密やかに囁かれる。よく分からないゾワッとした感覚が走り抜けたけど、もしかして悪寒かな?
「でも初めてお会いしたし、ご挨拶を……」
魔王様の手をずらして仰ぎ見る。
「………………」
片眉を跳ね上げて無言で僕を見下ろした魔王様は、嫌そうに一人ずつ指さした。
「アスモデウス。性格が悪い。性に奔放。イタズラされるから絶対に近付くな」
「やだぁ……もう〜、ラニットの意地悪ぅ。宜しくねレイルちゃん、アタシがアスモデウスよぉ〜。アスって呼んでね♡」
バチンと音がしそうな勢いのウィンクがきた。
魔王様の指はその隣に移動する。
「ヴィネ。戦バカ。血気盛んで危ない。殺されるから近付くな」
「俺は小さな子供を相手にするほど落ちぶれてはおらん」
筋肉隆々な人は「フン!」と荒く鼻息を出して横を向く。
全く気にする様子もなく、魔王様はその隣の男性を指さした。
「プルソン。まともな奴の皮を被った変態。実験台にされるぞ近付くな」
「青天白日、言い掛かりです。初めましてレイル。私を選んで下さっても良いのですよ」
目が覆い隠されていても、その美貌は隠しきれない。にっこりと微笑まれて、ちょっと恥ずかしくてモジモジしてしまった。
でも「選ぶ」って何だろう?
「………………………最後、ベレト。臆病そうに見えて狡猾。親切の裏には罠がある。喰われてしまうから近付くな」
『しっつれーだな!僕は見たまんまの性格なの!レイル、宜しくね』
一気に紹介されて、名前覚えるので精一杯だ。
でも、全員に「近付くな」って付いたよね?
じゃ魔王様は?
「ん?」と首を傾げ、もう一度魔王様を仰ぎ見た。
「何だ?」
僕の視線を受けて魔王様が口を開いた時、被せるように四人の声が響いた。
「魔王様の名前はラニット・バエル、真面目な顔してヤる時はヤっちゃうムッツリ♡」
「知性派を気取っているが、面倒になると力技で解決しようとする脳筋」
「溢れ出る覇気のせいで誰も近付きたがらないけれど、実は可愛いモノが大好きですよね、あの顔で」
『命が惜しいからノーコメント』
す……凄い、魔王様に対して容赦ない。
そして四人口を揃えて言い切った。
「「「「真面目な振りしてるけど、魔界一のヤバいヤツ」」」」
そっか……。魔王って性格が破綻してないとなれないのかぁ。
僕、なれるかな……。
ちょっと自信をなくしていると、背後から何かがヒュッと空気を斬って四人へと向かい飛んでいった。
あまりに速くて目で追いきれず、気付いたらドゴォォンンッッッ!!と激しい爆音をたてて前方の壁と扉が粉々に吹き飛んでしまっていた。
「………あれ?もしかして、死……?」
「あれくらいでは死なん。伊達に四将軍を張ってない」
チッと舌打ちをしながら大きく穴が空いた場所を睨み、吐き捨てるように言った。チラッと視線を流すと、魔王様の掌にバチバチと小さな白い稲妻が走っている。
一触即発な状態に、魔族ってエキセントリックな人達ばかりなのかなって思った。
ーー魔界って、イロイロ濃ゆい場所ですね…………。
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