第37話 耐久力テスト(後) ※別視点あり
「では、中級下位魔法での調査を始めるぞ。火グループからだ」
再び最初にイナリに向けて魔法を撃った生徒がイナリの前に立ち、杖を構える。
「では撃ちますよ。『ファイアボール』!」
今度は少なくともイナリにある程度の耐性がある事がわかっているためか、躊躇が無くなっている。
「うぐっ!?……あっついのじゃ!!」
イナリは火球がぶつかった衝撃で一メートル程度のけ反り、着弾点をバタバタと叩いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「む、一旦確認に入ろう」
「イナリちゃん、大丈夫!?」
そのイナリの様子を見て、魔法を撃った生徒やウィルディア、リズが駆け寄る。
「た、多分大丈夫じゃ?」
「見た感じやっぱり火傷とかはしていないっぽいけど……」
「イナリ君は体自体の耐性は高いが、熱や衝撃に対する耐性はさほど無いのだろうか?どれだけ体が頑丈でも痛覚ばかりはどうにもならないということか……。先ほどの低級魔法の結果からすると、何度撃っても結果は変わらないだろうから、何度も魔法を撃つ必要性はないだろうな。もしイナリ君が問題なければ、一通りの属性の魔法を一回ずつ受けてほしいのだが、どうだろうか?」
「え、あ、それくらいなら大丈夫じゃ……?」
ウィルディアが一気に喋り倒すので、イナリはそれを半分も理解できず、頭に疑問符を浮かべたままイナリは返事をした。
「よし、では早速始めよう。そろそろこの時限も終わりだからな、巻きでいこう」
「一通り終わったな。区切りもいいので今日の授業はここまでとする。今回は特に課題等は無し。解散!」
全属性の魔法が一通りイナリに当てられたところで、ウィルディアは生徒を解散させた。
「やはり私の見立ては概ね合っていたと言っていいだろう。中級上位以降の魔法で耐久力の限界を見たい気もするが、イナリ君にも限界はあるだろうからな。致し方ない」
ウィルディアは満足げに腕を組んで頷く。
「散々な目にあったのじゃ……」
「お疲れ様、イナリちゃん」
イナリは既にぐったりとしていた。というのも、それなりの水圧で水をぶつけられたり、氷や岩を当てられたり、眩しかったり暗かったりと、全属性の攻撃魔法のフルコースを食らったのだから当然である。
怪我はないものの、衝撃はしっかりと入るので苦痛であった。
数少ない癒しは草魔法くらいだろうか。軽く縛られるだけだったので、さほど痛みも伴わなかったのだ。分類上草魔法として扱われる、岩を飛ばす魔法などが来たらどうなっていただろうか。
「こんなことなら適当に頷くんじゃなかったのじゃ……。というか、これで中級下位とやらなのかや?もっと上だとどうなるのじゃ……」
「ええっと……中級上位だと例えば『ヘルファイア』とか『アイシクルエクスプロージョン』とかかな……あとはそういうのをアレンジしたり、下位の魔法を組み合わせて作ったオリジナルの魔法とかも結構あったかな。私も何個かあるけど」
「なんかもう、名前の雰囲気からして違うのじゃ……」
「実際この辺は地形に干渉できる領域に入るからね。少なくとも人一人に向けるような物じゃないのもいくつかあるし」
「本当に検証が終わってよかったのじゃ。できれば二度と食らわぬことを祈るばかりじゃ」
「それは間違いないな。ひとまずこれで、物理、魔法共に尋常でない耐久力をイナリ君が持っているということはわかったな。それじゃあ次に君の魔力について色々と調べていこうか」
「魔力というのもイマイチわからんのじゃがな」
「魔力が一体何なのかという話は魔法学の領域で度々議論されているが、学者間でも色々な説があるから何とも言えん。ともあれ人間は誰もが必ず持っているもの、というのは共通認識だがね」
「でもイナリちゃん、冒険者ギルドで魔力検出装置が反応しなかったってことは、魔力をもってないっていう可能性もある、のかな?」
リズが首を傾げながら自身の考えを述べる。
「そうだな。しかし見たところ、前にリズ君も言っていたが、イナリ君の体には確かに何らかの力が流れている様子はどことなく感じられる。最初は特殊な魔力を持っていると考えていたが、もっと根本的な話になるかもしれないな」
「そういえばイナリちゃん、前ちょっと魔法使ってみたいみたいなこと言ってたよね?魔法が使えたら、イナリちゃんの体に流れているそれも魔力だと言えると思うんだ。ちょうどよくグラウンドにいることだし、ちょっと試しにやってみない?」
「む、それは我もちょっとやってみたいのじゃ」
「確かに、魔力が無いと魔法が使えないということはその逆も然りだからな。試してみるべきだろう」
「そうと決まれば早速やってみようか!じゃあまずイナリちゃん、自分の体の魔力を感じてみて!」
「……??」
「……あれ、もしかして、さっき言ってた『魔力がよくわからない』って、哲学的な話じゃなくて、もっと根本的な話だった……?」
「基本的に、魔法を行使するための操作技術などには技量や才能が必要になるが、魔力の認識自体は誰でもできるはずだ。イナリ君、これが見えるか?」
ウィルディアが腕を上げ、手のひらを上にあげている。イナリは「これ」があると思われる部分を見るが、そこには何も見えない。
「……なるほど。魔力が感知できないということか。これは魔法を使うのは難しいだろうな……」
「のう、あやつは今何をしていたのじゃ?」
ウィルディアの不可解な行動について、イナリがリズに問いかける。
「さっき先生は、魔力を手の上に集めてたんだよ。魔法を使うための初期練習とかでよくやる方法の一つなんだけど……。イナリちゃんには何も見えなかったの?」
「本当に何も見えなかったのじゃ……」
「でもイナリちゃん、何か魔法みたいなのも使えたよね?あれは何なの?」
「む、イナリ君は何かできるのか。それを見せてもらってもいいかな」
「ひどい負担がかかる故、一度だけでよければかまわぬのじゃ」
イナリは風刃をつくり、適当に誰もいない方向に放った。刃は一定の距離を進むと霧散した。
「なんだこれは……確かに魔法ではないな……一体どういう……」
ウィルディアが頭を抱えだしたところで、イナリはリズに小声で話しかける。
「おぬしよ、不可視術については伏せることになっておる故、言及は避けてほしいのじゃ」
「そっか、わかった。……先生、そろそろ戻ってきてほしいです。先生がそんなに悩むなんて珍しい……」
リズがウィルディアの前で手をぶんぶんと振ってアピールする。
「……ん?ああ、すまない。私としたことが考えに没頭していた。申し訳ないが、考えを少しまとめたいので、一日置いてまた来てもらっても構わないだろうか」
「む、わかったのじゃ。早いところギルドに入って、我が無職ではないことを示さねばなるまい。なんといっても我は神なのじゃからな!」
「またイナリちゃんはそんなこと言って……。じゃあ先生、また明日来ます!」
「……ああ、また明日な」
<ウィルディア視点>
「イナリちゃん、この学校の庭でお弁当食べて帰ろ!」
「む、それは良い考えじゃな。賛成じゃ!」
私は尻尾を振りながら駆けていく自身の元教え子と、それを追う狐の少女を見送る。
「……神、か。ふむ……」
私の脳内には、イナリと名乗った彼女が自身を神と名乗っていたのが酷く引っかかっている。
イナリ君を見たとき、不思議な魔力だと感じたと同時に、どこか既視感を感じていて、しかしそれが何なのかがはっきりしなかった。
しかし、先ほどの言葉から一つ、心当たりが出来た。これが正しいかどうかを急いで調べる必要があるだろう。
私は自身の考えを整理しながら、外出の準備をするべく自室へと歩き始めた。
グラウンドに残った、草魔法によって生成されたツタやグラウンドの芝生が、普段見るそれよりも大きく見えた。
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