第30話 面会 ※別視点あり
<ディル視点>
「ディルさん!イナリさんを一人で行かせて何かあったらどうするんですか!?」
「いや、昨日そういう感じの話の流れだったし、問題ないだろ?」
「そういう問題じゃないんです!」
「じゃあなんだよ……?」
イナリを湖まで送って、そのまま昼頃まで適当に街の周辺を巡回してパーティハウスに戻ってきたら、何か知らんがエリスがものすごい勢いで歩いてきて、何か説教が始まった。
「イナリさんはあんなに可愛らしい見た目をしてるんですよ?ああ、一人にしたらどうなってしまうか……!」
イナリがリズにベッドから蹴り落されたという話を聞いて、エリスの方を勧めたときにイナリが微妙なリアクションをしていた理由が、今になって何となくわかった気がする。変に庇護欲が刺激されているのだろうか、エリスの様子が少し変になっている。
これではイナリも近づくのを躊躇するだろう。
「それにですね、ディルさんは仕事関係では意識高いですけど、それ以外はものすごいスカスカですから、私は心配しているのです」
「ひでえ言われようだな……」
「ディルさん、イナリさんにお金とか持たせましたか?恐らくですけど、銅貨の一枚も持っていないと思うのですが」
「いや、特に持たせてないが。使うところもないだろ?」
「いやありますよ。イナリさんは身分証を持っていないですから、この街に入れない可能性がありますよね?」
「……あー……。確かに、マズいかもな……」
メルモートの街はかなりセキュリティ周りの整備が進んでいる街で、基本的に出るのは簡単だが、入るのはそれなりに難しい街であることを完全に失念していた。
セキュリティ事情は街によって色々だが、中には門を素通りできたり、門すらないような街もあるにはあるので、世界的に見てもこの街はかなり厳しい方だ。
フレッド曰く、この街では有事の際にすぐに対応するために、街に入ってきた者がどういった者で、何を持ち込んだのか等を記録しているらしい。
基本的にはギルドのライセンスカードなどの身分証を提示すれば問題ないが、馬車に乗っていた場合は積み荷のリストを提出したりする必要もあるそうだ。
そしてもし身分証が無かったときは、できる限り住所や名前といった個人情報を記録した上で銀貨一枚で仮通行証が発行できるのだが……。
「そうか、あいつ身分証とかそういうのが何も無いのか……。あ、でも不可視術を使えば戻ってこれるよな」
「最悪です、不法侵入じゃないですか!ああ、門の前にイナリさんを迎えに行かないと……!ディルさん、イナリさんがどれくらいで戻ってくるかとか、わかりますか?」
「いや、わからんな。まあ多分すぐ戻ってくるんじゃないか?」
「もう、本当に適当すぎますよ!もっと仕事とか訓練の事以外もちゃんと考えてください!」
「いやまあ、それは悪いと思ってる……」
エリスが色々言ってくるのを話半分で聞いていると、パーティハウスの戸を叩く音が聞こえた。
「ん、誰か来たな。エリス、何か心当たりあるか?」
今ここには俺とエリスの二人しかいない。エリックはギルドで忙しくやっているらしいし、リズは魔術学校の方に行っているらしい。卒業したのになぜ今もちょくちょく行っているのかは謎だが。
「いえ、私は特にありませんね。誰でしょうか、ちょっと出てきますね」
「おう」
エリスが玄関の方へと歩いていくのを見送る。
エリックかリズ辺りが何か宅配でも頼んだのだろうか。特にリズなんかは魔道具やら魔石やらを頼んでいても不思議ではなさそうだが……。
あるいはギルド辺りが持ち込みで依頼を持ってきたとかだろうか。
適当に何かありそうな事を思案していると、玄関の方から慌てた様子のエリスが戻ってきた。
「どうしたんだ、何かあったのか?」
「い、イナリさんが危険物持ち込み並びにテロ等準備の容疑で拘束されたそうです……」
「は??」
<イナリ視点>
「何故我はここに連れてこられたのじゃ……?」
何の説明もなしに、小さな鉄格子の二つの窓と冷たいレンガ造りの壁に囲まれた個室に放り込まれたイナリは不安に駆られていた。心なしか、ここに連れてこられてからの時間が妙に長く感じる。
鉄格子の窓の一つは外と繋がっていて、もう一つは隣にある部屋と繋がっているようだ。部屋にある家具は質素な椅子が一つだけである。
椅子に座って適当に手に巻かれた縄を弄っていると、イナリの耳が廊下から複数の足音を聞き取った。そしてすぐにガチャリという音が隣の部屋から聞こえ、何人かが入ってきた。
「誰じゃ?我をここから出してほしいのじゃが?」
鉄格子越しに隣の部屋を覗くと、そこには先ほどイナリをここに連れてきた門番と、ディルとエリスの二人がいた。
「おお、ディルとエリスではないか!お主らからも何か言ってほしいのじゃ。我は暇で仕方なかったのじゃ……何故目をそらすのじゃ?」
イナリが鉄格子越しにディルとエリスに助けを求めるも、彼らは何だか深刻そうな表情をしている。
「お前が持ってきたものについて聞かせてくれ、青い実の方についてだ。流石にアレが何かがわからないってことはないよな?」
ディルが何かを探るように尋ねてくる。
「何と言ってもの……あれは我が群青の実と呼んでいる物じゃ。お主らが何と呼んでおるかは知らぬがの」
「あれは『ブラストブルーベリー』って言われる、一粒でも驚異的な威力になる、爆薬として使われるような実だ。あんなもの街に持ち込んでどうする気だったんだ?」
「えっ、どうするも何も……食べるつもりだったんじゃが……」
「いや、流石に言い訳として無理があるだろ」
「い、いや、本当じゃよ?」
「イナリさん、正直に話してください。誰かに運べと言われたのですか?それとも誰かに脅されているのでしょうか?」
「我の意志で持ち込んだ物じゃよ。え、アレそんな危険な物じゃったのか?」
イナリが自分の意志で持ち込んだと言った瞬間、エリスがショックを受けた顔になった。
「危険も何も、持ち込んだら即拘束レベルの代物だ。冒険者でも迂闊に触れないようにと初等レベルで教わるほどだ」
「アレ、我普通に食べてたのじゃが……。意外といけるのじゃよ?騙されたと思って食べてみるのじゃ」
「人間が食べたら頭が吹き飛ぶらしいぞ。物理的にな」
「そ、そうなのじゃな、それは良くないのう……。あ、そうじゃ」
「どうしたんだ?」
「あの実を我が食べられることを証明すれば良いのじゃろ?」
「え、いきなり何を言い出したんだ?」
「だから、お主らは我がこの街や人間を害そうとして群青の実……ブラストブルーベリーじゃったか?を持ち込んだと思っているのじゃろ?じゃが我はアレを食用で持ち込んだのじゃ。つまり、我がアレを食べられれば問題ない。そうじゃろ?」
「……」
イナリが名案とばかりに考えを告げると、場が静まり返った。
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