第27話 神様会議

「――というわけで、今に至るわけじゃ」


 たまに石で足を滑らせそうになったりもしたが、歩く足は止めずに、イナリはエリック達と会ってから現在までの事について、おおまかに説明した。


「なるほど。ひとまず狐神様を人間らに保護させることには成功したということですね」


「そうじゃな。それでじゃ、人間の街を見て色々と聞きたいことが出来たのじゃ。それについて尋ねてもよいかの?」


「ええ、どうぞ!」


「まず一つ目なんじゃが、お主を祀る神殿だか、教会だかにあったお主の像が、お主の姿と一致しておらなんだが、その辺はどういうことじゃろうか」


「ああ、それですか。お恥ずかしい話なのですがね、昔、初めて神託を出す時にちょっと威厳を出してみようかと思って、姿をちょっと弄って人間の前に降臨してみたのですよ。結局、完全に無駄というか、そんなことに割くリソースは完全に無駄だと後で思って、それが最初で最後になったわけですが。恐らくその像はその時の私の姿を模したものでしょうね」


「つまり、お主の本来の姿は最初に見た少年の姿ということで良いのじゃろうか」


「そうですね。大体そんな認識で大丈夫です」


 アルトの返答は微妙に含みを持たせているような気もしたが、ひとまずイナリはそれを流した。


「二つ目の質問に行くとするかの。ここからはちょっと真面目な話じゃ。アルトよ、確認なのじゃが、お主、確かこの世界の文明を発展させるために我を連れてきたのじゃよな?」


「はい、そうですね。あ、何も短期間でそうしてくれという話ではないので、時間をかけて発展させていただければ問題ないのです」


「うむ、それはありがたいことなのじゃが、そうではなくてじゃな……。我が人間の街を見て思ったことなのじゃが、ぶっちゃけ、文明、十分発達してないじゃろうか?」


 イナリの意見は、メルモートの街だけを見ただけなので少々早計かもしれない。


 元々イナリが想定していたこの世界の文明は、流石にこの世界のゴブリンほどお粗末ではないが、草の屋根や土の壁で構成された家があって、火を火打石で起こして、水は川から運んで、といったようなレベル帯のものであった。


 だが、実際に街に行ったら、普通に社会システムが構築されており、オムライスやシチューといった料理があり、魔力という謎の概念を用いた井戸や照明等の装置があったりと、色々な点において十分文明的であるように思えた。


 少なくとも、自然を操作することが主な力であるイナリが役に立てる段階はとうに突破しているように思えた。


「確かにこの世界は魔術関連の技術は比較的発展してますから、そう思われるかもしれませんね。しかし、その技術に依存されるとちょっと困るんですよ」


「ふむ、どういうことかの?」


「今はまだ問題ないのですが、このまま発展していくと、世界の歪みの発生に繋がるような技術が生まれる可能性があるんですよね」


「えぇ……。歪みって結構簡単に発生するのじゃな……」


「私も同僚の噂を聞いただけなので実際どうなるのかは知らないんですけど、何か魔術研究が進むと地形を変貌させるような魔術とかが簡単に撃てるようになって、神殺しとか狙いだすことがあるらしいんですよ……。人間、私たちの事情なぞ知りもしないので、平気で無理やり次元を捻じ曲げようとしたりして、それが世界の歪みの発生に繋がったりですね……」


「なんじゃそれ、恐ろしすぎるじゃろ……」


 次第に語気が弱くなるアルトの話を聞きイナリは震えた。


「ま、まあ。そういうわけでですね、魔術関連の技術の発展に偏りすぎるのは私たちにとって非常に良くないのです。狐神様は豊穣神であられますから、農業を発展させると、その地が豊かになって、結果的に文明の発展に繋がる事と思います」


「なるほどの。まあ我は地球にいた時と同じ感じでおっけーなんじゃろ?問題ないのじゃ」


「確かに、言うまでもないことでしたね。失礼しました」


「……あれ、でも今の説明じゃと、おむらいすとかがある事の説明にはならぬのではないかの?あれって、それなりに進んだ文明の料理じゃなかろうか」


 イナリはそれほど人間の事について知らないが、見た目からしてもオムライスは少々浮いているように感じていた。少なくとも、昔の人間があのようなものを作って食べている様子は見たことが無い。


「あ、それは私が料理人の夢に干渉して、地球で見たのをつくらせてみたやつなんです。料理方向でいい感じに文明が進まないかなと。まあ結果はお察しです」


「なんかお主、結構思いつきで動くこと多いじゃろ」


「まあ試してうまく行けば儲けものってやつです」


「そういうものじゃろか。まあよいか。とりあえず聞きたいことはこれくらいじゃ」


「わかりました。ではこちらからも軽く報告をしましょうか。先ほど一つ歪みを潰したのですが、次の歪みの実体化はもう止められなさそうです。それ以降の実体化は割と何とかなりそうなんですが」


「ふむ?それはいつ頃起こるのじゃろうか」


「そうですね、あと二ヶ月くらいですかね。私の力が至らず、もう今から手を付けるには遅すぎる段階になってしまいました……」


「それは今我が下りた森の辺りにいる魔王とやらと関連はありそうかの?」


「え、そんなのいないと思うのですが?」


「え?」


「え?」


 イナリは思わず立ち止まってしまい、二人の間に沈黙が流れる。


「……えぇっと、人間の言う魔王って、実体化した歪みのことじゃよな?」


「そう、ですね」


「何か我が下りたとこに今魔王がいるって人間が騒いでたんじゃが。神託も降りたとか言っておったし、お主、何か知らぬか?」


「いや、そんな神託は出してないですし、今地上に人間が言うところの魔王はいないはずですが。どうせ人間の事ですし、何かのプロパガンダじゃないですか?」


「ぷろ……なんじゃ??」


「つまり、恐らく愚かな人間が適当言ってるだけなのではないでしょうか」


「ふむ、そうじゃろか」


「狐神様はもしかしたら存じ上げないかもしれませんが、人間は想像以上に愚かですよ。で、それはさておきですね、ひとまず歪みの実体化については近いうちに神託も出す予定です。私の報告は以上です」


「わかったのじゃ。我も特に他には無いかの」


「あ、私から一つよろしいですか?」


「む、何じゃ?」


「狐神様はもう承知の事かもしれませんが、今後も私とのやり取りは人間に見られないようにお願いします。人間にその指輪のことが知られたら大変なことになりそうです。主に狐神様が、ですが……」


「うむ、承知しておるのじゃ。また一月後か、何かあった時にでも連絡するのじゃ」


「ありがとうございます。作業に取り掛かって以降、地上の事はまるで把握していないので、間接的にでもわかって非常にありがたく思います。それではまた!」


「うむ、またの。」


 イナリは指輪の赤くなっていた宝石の部分を押して、通信を終了した。

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