第16話 パーティハウス訪問
食事を終えたイナリ達はそのままエリック達のパーティが借りている家に移動した。彼らの拠点は冒険者ギルドから五分ほど歩いた場所に位置しており、所謂ログハウスと呼ばれる類の家で、それほど広くはないが庭もある。
「ここは冒険者ギルドが冒険者パーティ向けに管理している場所なんです」
「ほほう。あまり我には人間の建物というものはわからんが、まあ、中々良いのではないか?」
「まあ実際、自分たちが言うのもなんだが、この街ではかなり活躍している方だからな。いい家を借りられているぞ」
この言葉を聞いたイナリはこの街に来るまでに見た、一分もせずに魔物を撃破していく彼らの戦闘を思い出した。
「まあ、誰もかもがあんな芸当してたら、我この世界でやっていける気がせんの」
イナリがこの世界の人間の平均的な身体能力について思いを馳せていると、庭を見たリズが声をあげた。
「うわ、庭の雑草がすごいことになってる……。これが魔王の影響ってやつだよね?今までこんなことなかったし、やっぱり範囲が拡大してるんだね」
「これはあとで手入れしないとダメそうですね」
「そうじゃな。畑の手入れは大事じゃぞ!」
「いや、別にここは畑じゃないけど」
イナリは自身もお茶の木を栽培していたり、昔は農作業をする人間を眺めていたりしたので、そういった方面に対する知識は多少持っているのだ。ただし、イナリの能力をもってすれば、そもそも畑の手入れは一切不要であるのだが。
「まあ今日はもうゆっくり休もう。その、僕らはちょっと食べすぎたしさ……」
「マジで今日は夕飯抜いてもいいかもしれねえ……」
「普段ならちゃんと食べないとダメだと言いたいところですが、お二人に関しては、今日はそうしたほうがいいでしょうね」
「その、悪かったのじゃ。今度からはちゃんと考えて決めるのじゃ……」
「マジでそうしてくれ。頼むわ」
「ひとまず家に入ろうか」
エリックが玄関の扉を開けると、イナリの方に向き直った。
「イナリちゃん、僕たちのパーティハウスへようこそ!」
エリックに促されてイナリは家に入った。そして後に続いたリズの帽子が玄関口に引っかかっていた。
家に入ったエリック達は、各々ソファーにダイブしたり、食卓につくなりしてリビングでくつろいだ。それを見たイナリがどこに行くべきかとうろついていたことに気が付いたエリスは、自身の膝の上に来るように手招いた。イナリはひとまずそれに従い、エリスの上に座った。
「イナリさんの尻尾は温いですねぇ」
「……お主、それが狙いだったのか……?」
エリスから聞こえた感想にイナリは若干引いた。
「そういえば、これからはイナリちゃんもいるわけだから、椅子を増やさないといけないよね。今度買いに行こうよ!」
リビングに入るなり真っ先に横長のソファーにダイブしたリズが提案してきた。
「ふむ、椅子か……。我なら木があれば作ることもできるのじゃ」
「イナリちゃん大工できるの?すごい!」
「んや、大工というのはちと違うかもしれんの。我の力で削って作るのじゃ」
「あぁ、そういえばイナリの力とやらについて話が聞きたい。さっきは周りに人がいたから止めたが、ここなら問題ないしな。」
「その話の前に、改めて軽く自己紹介したほうがいいんじゃないかな。ディルとかエリスは、多分イナリちゃんにちゃんと名乗ってすらいないよね?」
ディルがイナリの能力の話を聞こうとする前に、エリックがそれを遮った。
「ああ、言われてみれば確かにそうだな。まあ普通にこいつのこと魔物だと思ってたし、名乗る必要ないかと思ってたんだわ……」
「わ、私もでしたね……。イナリさん、ごめんなさい!」
「そういうわけで、とりあえず僕からにしようか。僕はエリック。このパーティのリーダーだよ。職業は剣士だけど、結構ギルドとの連絡とか、裏方も良くやっているかな」
「改めまして、リズです!このパーティの魔術師で、この帽子がトレードマークなの!ちゃんと魔術学校も出てるから、立派な大人だよ!」
「では次は私が。私はエリスです。回復術師の神官で、このパーティでは支援担当ですね。後はエリックさんの裏方仕事を手伝ったりもしています」
「最後に俺だな。ディルだ。一応盗賊だ。斥候とかく乱辺りが俺の担当かな。それくらいだ」
「……え、こやつ悪党なのかや?」
「違う。まあなんだ、便宜上の、っていえばいいのか。俺も何でこんなややこしい名前の職業になってるのかは知らん。昔の偉い人にでも聞いてくれ」
「ちなみにディルは訓練大好き人間っていう種族なんだよ!」
「そ、そんな種族がおるのか……。凄まじいのじゃ……」
「嘘を吹き込むな」
一通りエリック達のパーティのメンバーが自己紹介を終えると、四人の視線がイナリに集まる。
「む、ここは我も一つ、名乗りを上げるとするかの」
イナリは気合を入れるようにおもむろに立ち上がる。
「いや、別によくねえか……?何となく何を言うか予想はついてるんだが」
「い、一応聞いてみましょう?」
ディルはこれからイナリが何を言うか想像がついているようだが、それを察したエリスが、もしかしたら違うことを言うかもしれないという一抹の期待をしてイナリに自己紹介を促した。
イナリは一つ息を吸うと、尊大な感じに見える姿勢を取った。
「我は植物を司りし豊穣神、イナリじゃ!崇めるが良いぞ!!!」
「マジで情報量ゼロで予想ど真ん中だったわ……」
「イナリさん、本当にそれ外でやらないでくださいね?」
ディルは項垂れ、エリスはかなり真面目なトーンでイナリに語り掛けた。
「……善処するのじゃ」
イナリはエリスの本気の表情を見て渋々と返事をしたが、自身が神であるという点だけは今後も主張するつもりであった。
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