第14話 現状確認

 拘束から解放されてご機嫌になっていたイナリが、この街について全く知らないにもかかわらずどんどん先を歩いていたので、最終的にエリスと手を繋いで歩くことになった一幕がありつつ、イナリ達は冒険者ギルドに到着した。


 玄関をくぐると、特に入って左手にある食堂のような場所は多くの人々で賑わっていた。


「ほほう、これが人間の……なんとかぎるど?とやらか。中々面白そうな場所ではないか」


「冒険者ギルドです。正面にある三つの窓口が受付で、左手にあるのが酒場ですね。エリックさんたちがいるとしたらそっちでしょうか」


「昼なのに人が多いね~」


 酒場の方を玄関から眺めていると、テーブルを一つ確保しているエリックとディルがこちらに手を振っているのが見えたので、イナリ達はそちらに歩いていく。


「みんなおかえり、イナリちゃんが無事に帰ってきてくれたようでよかったよ。今回は突然拘束してしまってごめんね。パーティを代表して謝罪するよ」


「まあ我は何度か言っておるが、お主らには必要な事なのじゃろうから、特別何か害されたわけでもなし、我は気にせぬよ……それほどはの。ともあれ、我が魔物などと言う者でないことが証明できたのじゃからよいのじゃ」


「マジか、イナリ、お前魔物じゃなかったのか……」


「なんじゃ?文句があるのなら受けて立とうではないか」


「あぁいや、別に問題はないんだけどよ……。お前みたいな普通の子供が、どうやってあの森で暮らしてたのかと不思議に思ってたんだ。魔物ならある程度は辻褄があうからな」


「我はただの子供ではなく神であると何度も言っておろうに。まあ、その辺については一つ、我の力について説明してもいいかもしれんのう」


「あぁ、そういう話は後でいいぞ。ここじゃ人も多いしな」


「……ふむ、そういうものか。わかったのじゃ」


 イナリは道中彼らが戦っている様子を見て、地球とは違って魔法だのなんだのと中々に超常な力が平然と行使されているのだから、自身の力の内、少なくとも自身の姿を消す力くらいなら教えてもいいだろうと思っていた。しかしここでは話さなくて良いというのであれば、それに従っておくことにする。


 イナリとディルの会話が一段落したところで、エリックが別の話を始める。


「こっちはギルドの方に帰還した旨と、ヒイデリの丘、今は魔の森に改名されたみたいだけど、そこの状況について軽く報告しておいたよ。ついでに色々と情報をまとめていたんだけれど……エリスとリズは教会で何か話は聞いてる?」


「いえ、本当に軽く聞いただけですね。魔の森への改名と、魔王出現の発表がされたということぐらいです。詳しくはギルドで聞いた方が良いと言われましたので、それ以外に特に特別なことは聞いていませんね」


「なるほど。じゃあ確認も兼ねて詳細について説明しようか」


 全員が席に着いたのを確認すると、エリックは机の上に置いてある紙を机の中央に寄せ、全員に見えるようにした。


「これが掲示板に張られてた告知の写しなんだけど、まず知っての通り、ヒイデリの丘が改名されたよ。これは魔境化以前の平和な印象を変えて戦闘能力のない人が近寄るのを防ぐためらしい」


「……それ意味あるの?まともな人ならアレをみて近寄るとは思えないんだけど」


「もしかしたら駆け出しの冒険者辺りも『戦闘能力のない人』の対象に入ってるのかもな。それにしても意味があるかっつーと微妙だが」


「ようわからんが、ちょっとかっこよくなっているし我は良いと思うのじゃ」


「うーん、そういう話ではないと思うのですがね……」


「まあこれは別にそんなに重要な事でもなくて、問題はこの後だね。今回魔の森の魔境化を鑑みて、魔王出現の発表が正式に出されたよ」


「一つ聞いても良いじゃろうか。その、魔境化とはなんじゃ?」


「文字通り、ある特定の地域が魔境になることなんだけど、その原因が大抵魔王であることが多いから、魔王出現と結びつけられることが多い現象なんだ。一応他にも魔術実験の失敗とかの例もあるけど、二、三個くらいしかそういったケースはないかな」


「ふむ。魔境の定義とはなんじゃろうか」


「うーん、簡単に言えば人がまともに住んでられないような状況になる事かな。もうちょっとちゃんとした定義はあるかもしれないけど、大体これくらいの認識でいいと思うよ」


「なるほどの」


「それで話を戻すと……今回現れた魔王は樹侵食の厄災と命名されてて、僕たちが巻き込まれたみたいに植物を使ってくるタイプの魔王らしい。少し前まで草木の成長が若干早まっていたのもこの魔王が原因だろうね」


「魔王出現の周期が若干早いですし、被害の出し方も今までとは違って何だか地味ですね……」


「今のところは現魔の森の地域にあった村がいくつか巻き込まれただけみたいだな。曰く、トレントやらが多すぎてとても住める状態ではないが、冬に採れる作物と夏に採れる作物が同時に収穫できる状態になったりしているみたいで、うまくやれば利益も出せるとか言っている商人もいるらしい。俺には無理だと思うがな」


「なんじゃ、我はその魔王と気が合いそうじゃな!なんてったって、我は豊穣神じゃからな!」


「お前、ずっとその設定背負って生きてくつもりか……?早いとこそういう時期は抜け出した方が良いぞ」


「ぐう、お主いつかぎゃふんと言わせてやるのじゃ、覚えとれ……」


「ま、まあ二人ともその辺にして、次の話に行くね。どうやら今日の朝方辺りから、この街が植物の成長速度が速くなるようになっているらしいんだ。恐らく魔境化に合わせて範囲が拡大したと考えて、それで魔王が出現したと結論づけられたんだろうね」


「あぁ、さっき錬金術師達のラボがあわただしくなってたのはそれのせいだったのですね……」


「え、結構ヤバくない?マンドラゴラとか脱走したら大変だよね?」


「一応その辺は、魔王の影響を受けていることに気づいた段階で、総出で応急処置はしたらしいよ。エリスの話を聞くとまだ完全には終わってないようだけれど。街にも魔王の影響が及んでいるから、今のところ実害はないけれど、後々建物を雑草とかが覆わないか警戒するようにってことらしい」


「あとは俺たちのほかにも巻き込まれた冒険者がいたらしいが、多少怪我とかはあったものの全員帰ってきてるらしい。ただ、さっきの戦闘でも大きいフォレストウルフが居たように、既に変異種も増えてきてる。今まではまだマシだったってだけで、いよいよ生態系にも本格的に影響が出てくるだろうな」


「へぇ、じゃあまた依頼とかいっぱい受けることになりそうだねぇ」


「ひとまずギルドで得た情報はそれぐらいかな。何か質問とかはある?特になければ今日はこのまま解散しようかなと思うんだけど」


 エリックは一同を見回した。


「あー、一つ、この話とは関係ないが質問があるんだが」


 ディルが手を挙げたあと、席についている狐の少女に指をさした。


「……こいつはどうするんだ?」


「……む?」


 指をさされたイナリはただ首をかしげるだけであった。

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