第13話 汝は魔物なりや?
教会のホール部分は煌びやかなガラス細工や石像、絵などで装飾されていた一方で、教会の奥はただただ単調な白と黒を基調とした造りになっていた。
「先ほどの場所とは違ってなんとも単調じゃな」
「リズも奥には初めて入ったけど、これはこれでちょっと厳かな感じがして面白いね」
「元々この教会は先ほどのホール部分だけだったのですが、色々あって拡張工事がされることになったのです。その担当者が単調かつ神聖な物を作ろうとしてこのようになったみたいですよ」
「へぇ~、何でも豪華にすりゃいいってものでもないんだね」
「我はピカピカしてるよりかはこっちの方が好みじゃな」
イナリ達は雑談をしながら通路を進み、やがてある一室に入った。途中で通り過ぎた部屋の扉の間隔からすると、イナリ達が入った部屋は他の部屋と比べて数倍広そうだ。
その部屋は先ほどイナリ達が歩いていた通路と同様に白い部屋だったが、床には黒いインクか何かで円と何らかの模様が描かれていた。
円の周りには案内してくれた男性と同じような恰好をした男女が四人囲むように立っており、さらに部屋の隅には六人の盾や剣を持った兵士も控えている。
「おぉ~、これが破邪の魔法陣!これは到底一人じゃ発動できないね」
「このよくわからん模様の事か?」
「そうです。術式を書いておいて、魔力を流すと発動するものの総称ですね。きっとリズさんの方が魔法陣に関しては詳しいでしょうが、破邪の魔法はあまり普段から使うようなものではないです。リズさんにとっては貴重な体験でしょうね」
「破邪魔法は用途が狭い割にやけに大がかりなんだよ!確か五人くらい必要なんだっけな……」
「ふむ、五人とな?にしては妙に部屋にいる人数が多くはないじゃろうか?」
今この部屋にはイナリ達を除いて十一人だ。術式の発動に五人いるとしたら、あとは何のためにいるのだろうか?
「あー、えっと、イナリちゃん、それはね……」
リズが答えかねている様子を見て、エリスが代わりに答える。
「それはですねイナリさん、万が一に備えるためです」
「どういうことじゃ?」
「この魔術の主な用途は魔物かどうかを判別することです。そしてイナリさんは今魔物である可能性が懸念されています。イナリさんがこの街につくまでの道中で見て頂いたように、魔物は基本的に討伐されます。」
「……ふむ、つまりこれは……もし我が魔物だと判定されたとしたら……」
「……」
「無言はやめてくれんかの!?」
「えぇっと、そうだね、もしもの時はできるだけ痛くしないようにするからね!」
「そういうことでもないのじゃが!?」
「では破邪魔法を受ける方は魔法陣の中央にお立ちください」
「この流れでようそんなことが言えるのう!?」
「イナリさん、これは必要な事なのです。大丈夫ですよ。私たちは信じていますから」
「ヒィィ……」
涙目になりつつ震えるイナリの抵抗虚しく、エリスに抱えられていたイナリは魔法陣の中央に配置された。
「それでは発動させていただきますので、術に関わらない方はお下がりください」
イナリ達を案内した男が声をかけると、魔法陣の周りに待機していた男女は中央のイナリに向き直り、呪文を唱えだした。すると床にある模様が白く光を放ち始めた。
「おぉぉ、すごいなあ!」
「何が起こってるのじゃ!?これは大丈夫なやつなのかや!?」
その様子に興奮するリズと恐怖するイナリをよそに、光が次第に強くなっていく。
「神の力を前に汝の真の姿を現せ!」
呪文が最後の句と思われる言葉を継げると、光が一瞬非常に強くなった後、静寂と共に再び部屋の姿が通常時に戻った。
「ど、どうじゃ?え、大丈夫じゃよな?我、魔物じゃないのじゃ。そうじゃろ?」
イナリには結果の判断がつかないので、とにかく周りに尋ねる以外の選択肢が無かった。
イナリ自身としては自身が神である事は疑いようのないことだが、この術によってどのように判定されるのかはわからないのだ。それこそエリスの簡易結界の時のように自分が魔物判定されてしまってはたまったものではない。
しばらく周囲の人々が黙ってイナリを見てくるので、イナリの心境はどんどん不安でいっぱいになっていく。心なしか部屋の隅で立っている兵士の武器か何かが、時折カチャカチャと音を鳴らしているように聞こえるのが不安に拍車をかけている。
「……はい。しばらく待っても異常は見られませんし、問題ないでしょう。イナリさんは魔物ではありません」
「ふ、ふぅ……まあこうなることはわかっておったからの。ぜ、全然平気じゃったし……」
「無事に済んでよかったです。今縄をほどきますので少々お待ちくださいね」
「よかったねイナリちゃん! 」
部屋の端に寄っていたエリスとリズがイナリのもとに近づいてきて、エリスはイナリにぐるぐると巻かれた縄をほどき始めた。その様子を眺めながら、リズが興味本位といった様子で術師に尋ねた。
「ところでこれ、もしイナリちゃんが魔物だったらどんな感じになってたの?」
「魔物の種類にもよりますが……例えば死体に潜り込んで操るタイプのスライムとかの場合、それが口から出てきたりしますね。他に代表的なものでゴーストタイプなら発狂して暴れ出したりします」
「うわ、見てる方もキツいヤツじゃん。イナリちゃんがそんな風にならなくてよかったよ……」
「ご安心を。弱い擬態型ゴースト種なら破邪魔法でそのまま成仏して、抜け殻のようになるケースもありますよ」
「うーん、あんまりフォローにはならないかな……」
この会話を聞いたイナリは密かに震えた。せいぜい魔物と認定される程度であれば覚悟していたが、それ以上に辛そうなケースがあったとは思っていなかったのだ。
「よし、ほどけましたよ。イナリさん、立てますか?」
「うむ、大丈夫じゃ」
エリスはイナリの手を取り、縄をほどくために横になっていたイナリを引っ張り上げた。
「ご協力くださった神官の皆様、ありがとうございました」
「いえいえ、また何かあれば是非とも頼ってください。主神のご加護があらんことを」
エリスが神官らに礼を告げると、イナリ達はそのまま教会から出て行った。
「やっと自分で歩くことが出来るのじゃ。運ばれるのも悪い体験ではなかったが、もし次があれば、縄で拘束せずにもっと丁寧に運んでほしいものじゃな」
教会で晴れて魔物ではないと認められたイナリは、意気揚々として街を歩いていた。ただし、依然として神であるとは思われていないので、その辺を認めさせるのは今後の課題だろう。
「ところでこの後はどうするんじゃったか」
「冒険者ギルドでエリックさん達と合流します。イナリさん、そっちじゃないですよ」
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