第212話 サオリンのダンジョンライブ③

 サオリンと日向が雑談をしながら、金沢ダンジョン十一層を進んでいる。

 時々現れる敵をサオリンの縄術と日向のミスリルトレイとメデューサヘアで危なげなく撃退していく様子が、ライブ配信で映し出されていてチャット欄も大盛り上がりだ。


kazu:2,500円:パイセンちゃんのチャンネルだとほとんどヒナちゃんって戦闘シーンが無かったけど本当は超強いんですね。

amemiya:メイドつえぇ戦闘メイドを名乗るだけある……

ぽんにい:実はヒナちゃんって希ちゃんや心愛ちゃんより強い?


『kazuさんスパチャありがとうねー、いっぱい質問来てるけど実際はどうなのかな?日向ちゃん』

『心愛先輩や希と比べてって事ですか?』


『そそ』

『心愛先輩や希が対象だと私なんて、まったく比べ物にならない雑魚ナメクジですよ』


『マジで? 日向ちゃんって、どう考えても私より超強い感じなんですけど……』

『あの二人は別次元ですね……基本、空飛んでるし』


『そう言えば、希ちゃんと飛竜の『桃ちゃん』今月号のダンマガで特集組まれてたよねー。写真超カッコいいから配信見てるみんなもダンマガまだ見てない人がいたら見てねー』

『そうそう、先週末に心愛先輩たちと一緒に狩りに行って、凄いアイテムが手に入ったから今度心愛先輩の方のライブ配信の時にお披露目しますね』


『えー、どんなのかな?』

『それは配信を見てのお楽しみですー』


『気になるなー、私もかぶりつきで見るね』


 そんな感じで、チャットも盛り上がりながら十二層への階段がある部屋が見えてきた時だった。

 いきなりダンジョンが震えるような感じがして、前方に今まで見た事もないような大きな黒い霧が広がった。


『日向ちゃん。これって敵が現れるのかな?』

『サオリン先輩、このサイズの霧は……ダンジョンボスクラスの敵かも……』


 食堂でライブ中継を見ていた心愛たちも尋常ならざる気配に焦った。

 黒い霧が晴れていくと、そこにはダンジョンボスのはずのオーガキングの姿が現れていた。


「心愛ちゃん、これはどんな現象なの?」

「咲さん、これは危険です。ちょっと行ってきます。希、急ぐよ」


「はいぃ」

「待って、私と麗奈も連れて行って」


「危険ですよ、咲さん」

「沙織のピンチに駆けつけられないような事はしたくないの、そんな事をしてしまったら絶対に後悔をするわ、お願い心愛ちゃん。連れて行って」


「私からもお願いするわ、心愛ちゃん私たちをサオリンの所へ連れて行って」

「咲さん、麗奈さん……」


 冴羽社長がその光景を見ながら言った。


「心愛ちゃん。二人を一緒に連れて行ってあげてくれ、麻宮さん、田中さん。敵の対処は心愛ちゃんに任せて沙織ちゃんを救う事だけに専念してください」


 四人ですぐに金沢へ転移ゲートで向かうとダンジョンに走る。

 ダンジョンの入り口に着くと百合さんがダンジョンへ入ろうとしていた。


◆◇◆◇


『あれは……オーガキング……このダンジョンのラスボスです』

『どういうことなの? なんで十一層にラスボスが現れるの?』


『わかりません、でも危険です。脱出しましょう』


 そんなやり取りをしている瞬間に、オーガキングが凄いスピードで近寄って来てサオリンに拳を振り上げた。

 あまりの速度に反応が遅れて、サオリンが吹き飛ばされる。


 サオリン先輩のチャンネルだから「撤退の判断はサオリン先輩に任せます」とエスケープのスキルオーブをサオリンに渡していたのが痛恨のミスになってしまった。

 金沢ダンジョン攻略の際にも撮影係として参加していたからわかるが、自分一人でどうにかなるような敵では決して無い。

 しかも吹き飛ばされてぐったりしているサオリンを見捨てて自分が逃げ出す判断など出来るはずもない。


 今の私に出来る事は……

 心愛先輩たちもライブを見てくれてたはずだ。

 必ず来てくれる。

 それまで、なんとしてでもサオリン先輩を守らなきゃ……


 ミスリルトレイをオーガキングに投げつけてヘイトを自分に向けるとサオリン先輩から距離を取れるように離れる。

 しかし、一定距離以上に離れようとするとオーガキングがサオリン先輩の方に戻るしぐさを取った。


keito:ヤバイヤバイヤバイ配信事故確定なのか

あきお:ぎゃーこれは酷い見てられない

サナ:誰か助けてー

シシド:10,000円:ダンジョンボスだと、誰か倒せるのか?

にゃー:エスケープ持ってないの?

kan:調子に乗りすぎちゃった?

aaaa:30,000円:これを見てる強い人行ってあげてくれええええ


 配信のチャット欄も阿鼻叫喚の嵐になった。


 この時点で二十万人を超えていたこの配信の同接人数が一気に膨れ上がっていく。


 日向がミスリルトレイを使いながら、なんとかサオリンに追撃を与えられないようにヘイト管理を行いながら、聖魔法での回復を行う隙を伺うが、オーガキングの動きが速すぎて回復を発動させてもらえない。


(先輩……助けて)


 心の中でつぶやく。


 その時だった。

 エネルギーの塊の様なブレス攻撃がオーガキングを直撃する。


(これは……桃ちゃんのブレス)


「日向ちゃん下がって」


 この声は、先輩だ……

 助かった……

 そう思うと、足の力が抜けて座り込んでしまった。


 その隙を見逃す事無くオーガキングが日向に走り寄ってくる。

 オーガキングが日向に向かって拳を振り上げた瞬間にマジカルブルームに跨った心愛が突っ込んできた。

 箒の先に乗っていたTBが一気に巨大化して日向との間に立ちはだかる。

 最大化したTBのサイズは、オーガキングよりも二回りほど大きかった。

 

 更に希を背中に乗せた桃ちゃんも追いついてきて希がワイバーンランスをオーガキングに投げつけた。

 串刺しにするように突き刺さりオーガキングを地面に縫い付ける。


 心愛が空中に静止して、マジカルブルームをバッティングフォームで構えると、地面に縫い付けられたオーガキングを滅多打ちにし始めた。


 その間に咲、麗奈、百合の三人が走り寄って来て、サオリンの元へ向かう。


「沙織、しっかりして。もう大丈夫だから」


 気を失っていたサオリンが目を開ける。


「咲さん、麗奈さん、マネージャーも来てくれたんだ……ゴメン、ドジっちゃった……」

「何言ってるの、もう大丈夫だから、サオリンをいじめる悪い奴は絶対許さないんだからね! 麗奈、行くよ」


「待って、麗奈、サオリンをお願い。私が行く」

「百合、あんた大丈夫なの?」


「サオリンを怪我させられて、黙ってたんじゃ私の価値なんて無いからね。咲、行こう」


 心愛に滅多打ちにされて、瀕死状態になっていたオーガキングに咲と百合の二人が突入してくる。

 二人とも手に持つのは、ミスリルを練りこんである奇麗な日本刀だ。


「咲さん、百合さん、危険だから下がってた方が……」

「心愛ちゃん、ここは譲れないわ。参加させて」


「しょうがないなー……希、二人に危険が無いようにしっかり守ってね」

「はぁい」


「咲さん、百合さん、オーガキングの身体のどこかにコアがあるんです、それを破壊しないと延々と再生しちゃうから体中を刺しまくって、コアの破壊を狙ってください。私は顔面殴打を続けて咆哮を防ぎます」


 そこからは、とってもスプラッターなオーガキングの討伐配信になってしまった。

 これって……配信停止とかならないかなぁ……心配だよ。


 そこから五分程の時間をかけて百合さんの放った股間辺りへの攻撃がオーガキングのコアを壊し、漸くオーガキングは再び黒い霧へ包まれて消えていった。


 そこには金色に輝く宝箱も現れていた。

 日向ちゃんが、サオリンに駆け寄り聖魔法のパーフェクトヒールを唱える。


 サオリンの傷が癒えて、立ち上がる。


「ちょっ……日向ちゃん、そんな魔法まで使えるの?」

「内緒ですよ?」


「ライブ配信中だし……」

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