第211話 サオリンのダンジョンライブ②
定刻の十七時を迎え、画面にサオリンが映し出される。
勿論ライブの文字も左上に映し出されている。
いつも通りに視聴者さんのログが一気に流れる。
スパチャも早速のように飛び交う。
しかし、いつも通りでないのは、サオリンは無言だった。
その手に握られているロープをカウボーイのように頭上で回転させている。
そして、サオリンが見つめる先には大きな越前ガニがハサミを振り上げていた。
シゲル:サオリンいきなりナニコレ?
アサミ:コンサオーって言ってる場合じゃない感じ?
ゲンジー:カニデッカ!
みちる:5,000円:これってピンチなの? サオリンがんばれぇええ
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「咲さん、これは演出ですか?」
「時間ジャストで、オンラインにしてるし演出だね」
頭上で回していたロープを勢いよく投げつけるとダンジョン越前ガニの右足のハサミにロープの先のワッカが嵌り縛り上げる。
右足のハサミを開く事が出来なくなった、越前ガニが横走りで一気にサオリンに近づいてくる。
それに合わせて後ろに後退しながら、もう一本のロープを取り出しまた頭上で回転させ始める。
越前ガニが左足のハサミを大きく開いて前に突き出そうとした瞬間に、サオリンが二本目のロープを投げた。
二本目のロープも左足のハサミにワッカを嵌めると、一気に引き絞り、これで越前ガニの最大の武器であるハサミの攻撃を封じ込めた。
サオリンは二本のロープをしっかり握っているままだ。
越前ガニが怒り、閉じられたままのハサミをハンマーのように打ち下ろして来る。
それをギリギリのところで避けると越前ガニの後ろに回り込むように走り抜ける。
それと同時にロープを波打たせるように操作している。
そしてサオリンが越前ガニの後ろに回り込んだ時には、左右五本ずつの越前ガニの足が器用に縄で縛り上げられて、後ろ向きにひっくり返った。
足を広げたら五メートルを超える越前ガニだけどそのすべての足の自由を奪われてひっくり返った状態ではただの大きな的になった。
サオリンがメイン武器のショートソードを取り出すと、足の根元の関節を一本ずつすべての足が本体と離れるまで斬りつけていった。
すべての足が無くなり身動きも取れなくなった越前ガニを腹側から突き刺すと、黒い霧に包まれて消えていく。
『コンサオー、折角のダンジョンからの生配信十層のボス戦からスタートしてみたよ! 私の戦い方どうだったかな?』
サオリンの言葉で戦い中止まっていたログがまた凄い勢いで流れ始めた。
カズヤ:1,000円:サオリンつえええ
keiko:結構グロかも……デモヨキカナ
あやな:縄の使い方が素敵シュギマス私も縛ってホシュイカモ
サンダー:いきなりのだるまプレーは強烈杉
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「完勝ですね。ロープを使って戦うの初めて見ましたけどサオリンって十分強いですよね」
「うーん、これはサオリン流のエンターテイメントだよ。きっとサオリンはこの演出を見せるために、この中ボスを相手に何度も何度も戦って、魅せれる戦いを考えたんだよ」
「そうなんだぁ、サオリンって凄い努力の人なんですね……」
「そうね、チューバーとしての見せ場をどう演出するのかを常に考えているの。だから、動画内では余裕で勝ってるように見せてるけど、そこに辿り着くまでには結構、怪我をしてきたりして私たちを心配させるんだよね」
中ボス部屋では一度敵を倒すと部屋から出るまでは、敵が湧くことは無いのでその間に改めてカメラマンの日向ちゃんの紹介をしたり、スパチャのお礼や、質問への簡単な返答をしていた。
今から一時間の予定で十一層を攻略しながら最後に十一層の守護者を倒す所まで配信をするっていう感じでやるんだって。
サオリンは十一層への階段を下りていきながら、日向ちゃんと喋っている。
『私のロープは普通にホームセンターで売ってるトラックの荷物を縛ったりするロープなんだよね。ドロップアイテムでもっと凄いロープとかでないかなー』
『そうなんですね、結構長いですよね何メートルくらいあるんですか?』
『今使ってるのは、色々試してみて一番投げやすかった長さ十五メートルで太さが9ミリメートルっていうサイズのロープだよ。これより細いのだと魔物を相手にすると切られちゃいそうだからね』
『カニを縛り上げるのも凄い早業でしたよね。サオリン先輩の彼氏とかになったら、練習台とかにされちゃう感じですか?』
『お願いしちゃうかもね!』
その返答でまたチャットログが凄い勢いで流れ始めてた。
みんな業が深いよね……
十一層に突入して、時々現れる敵にロープを投げて手元に引き寄せると、剣を突き刺すっていう感じの倒し方で調子よく進んでいる。
『そう言えば日向ちゃんも縄使ってるよね?』
『私のは縄じゃなくて鞭なんです。宝箱産のアイテムで【メデューサヘア】っていう名前です』
『えー、いいなぁ。どうやって手に入れたの?』
『えーと、今の所借り物なんです。心愛先輩から』
『そうなんだ、買ったらいくらくらいするんだろう?』
『わかんないですけど、きっと、凄い高そうです』
『ちょっと使って見せてよ』
『いいですよ』
そう返事をすると、画面がサオリンの装着しているカメラに切り替わり、日向ちゃんが映し出される。
そこに現れた、ノドグロ型の魔物に日向ちゃんが鞭を一閃……
魔物に巻き付くと、先端の蛇の頭の形をした部分が口を開きノドグロに牙を突き刺した。
そこから毒が注入されてノドグロが『ピクピクッ』と痙攣すると、黒い霧に包まれて消えていった。
『スゴーイ、やっぱりダンジョン産の武器って超優秀だねー。って言うか使いこなしてる日向ちゃんも凄いね』
『今は、メイン武器はこっちよりも、これなんですけどね』
そう言って、左腕に革バンドで固定してあるミスリルトレイを指さした。
『それって盾じゃなかったの?』
『もちろん盾としても優秀なんですけど、鑑定したらメインはフリスビーらしいです』
『固定してあるけどどうやって投げるの?』
『こんな感じです』
そう言って、頭上に現れた蝙蝠型の魔物にフリスビーを飛ばす。
一撃でフリスビーのエッジが蝙蝠の頭を刎ね飛ばして手元に戻ってきた。
『こんな風にワンタッチで外れるんです。そしてオートリターンですから、左腕を伸ばすと、勝手に戻ってきます』
『それは、凄いねー。それも借り物?』
『これは違います。下関ダンジョンをクリアした時に宝箱から出ましたー』
『えっ? 今何気に凄い事言わなかった? 下関ダンジョンをクリアとか民間探索者じゃほとんどいないんじゃないの?』
『運がよかったんです』
『凄いねー、じゃぁパーティ作成スキルも当然持ってるんだよね?』
『はい!』
そんな会話をしていると、更にチャット欄は大盛り上がりだった。
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