第210話 サオリンのダンジョンライブ①
今日の実技はダンジョン探索で先週の続きの十一層からのスタートだったよ。
流石にこの階層になると、トラップも強烈なのが出てくるから教官たちも真剣な表情で引率してた。
私の班はこっそり鑑定もかけて、危なそうな時は
でも、それを教えちゃうと緊張感が無くなるから伝えないようにって樹里さんに釘を刺されちゃった。
今日の授業では十三層までたどり着いたよ。
次の木曜日で十五層まで進めて、来週は二層ずつ攻略。
再来週にはJOB取得が出来る二十層に到達する予定だよ。
三年生は来週中に、二十層に到達するんだって。
まぁダンジョン実習が週三回だしね。
カラーズの生徒だけでも二十人はいるらしいから、教官よりも上のランカーがほとんどなんだよね。
でもカラーズと言えども一般探索者では、装備やポーションの問題もあるから二十層を超える階層で活動する事はほとんどないらしいけどね。
今は学校でSAIAを使わせてもらえるから、恐らく三十層くらいまでならマップさえ用意してあれば行けるはずだけど、各階層の守護者戦とかエスケープのスキルオーブが無いと怖いよね……
私も頑張って納品はしてるけど、エスケープを一回だけ使えるスキルオーブでも定価は十万円らしいから、気軽に使うわけにはいかないみたい。
流石にカラーズレベルの生徒ならドロップの販売で一月に百万円を下回る事は無いと思うから、そこはケチらないで欲しいけどな。
授業が終わり私と希は博多へ戻った。
日向ちゃんはサオリンのライブ配信の準備でサオリンと一緒に金沢ダンジョンに潜っていったよ。
◆◇◆◇
「サオリン先輩、ライブ配信の機材は持ってきてるんですか?」
そう尋ねると、ダンジョンの入り口に伊藤マネージャーが待っていて、マジックバッグらしい袋を私に渡してくれた。
「日向ちゃん、今日はサオリンの事よろしくお願いしますね。私が付いて行くと足手まといになっちゃうから、部屋で大人しくライブ配信を眺めてるね」
「了解です。危険が無いようにしっかりと撮影頑張ります」
機材を受け取ると二人でダンジョンに入った。
ダンジョンリフトで十層まで下りると、十一層の階段を目指して二人で進む。
まだ、配信は始めてないから敵は私が倒しながら進んだ。
「サオリン先輩くらいのチャンネル登録者があると、ぶっちゃけどれくらいの収入があるんですか?」
「フフーン気になる?」
「そりゃぁもう」
「最近だとダンジョン動画の配信と雑談ライブ配信を週一本ずつアップするんだよね。ダンジョン動画が一本当たり二百万再生で雑談ライブが平均で十五万視聴くらいなの。それで、広告収入と、案件と、スパチャを合わせたら月に一千万円弱ってとこかな」
「凄いですねー、高校生で年収億越えとか」
「今の事務所にいるから回ってくる仕事が圧倒的に多いし、咲さんたちには感謝してるよ」
「でも誰でもサオリン先輩みたいになれるわけじゃないから、やっぱりサオリン先輩の実力があるって事ですよ」
「そう言ってもらえたら嬉しいけど、将来性とか考えたら結構不安もあるんだよね。日向ちゃんとかはお給料制なの?」
「そうです。心愛先輩におんぶに抱っこの状態だから、少しでも恩返しをしたくて頑張ってます」
「そっかぁ、心愛ちゃんってやっぱりそんなに凄いの?」
「凄いとかいう次元を完全に超越してますね。ランキングこそまだゴールドには届かないけど、ゴールドランカーの人たちでも心愛先輩に頼りっきりって感じですから」
「そこまでなの?」
「はい」
「私も心愛ちゃんに負けないように頑張らなきゃね」
「応援してます」
◆◇◆◇
食堂に戻ると、冴羽社長と杏さん、麻宮社長と麗奈さんが一緒にコーヒーを飲んでいた。
「お帰りなさい心愛ちゃん」
「ただいま杏さん。みなさんもこんにちは」
「心愛ちゃん。先程、麻宮社長から正式にDライバー社を、D-CANに売却するというお話を伺ったよ。これからは同じD-CANグループの仲間として一緒に成長していけるよう頑張ろう」
「よろしくね、心愛ちゃん、希ちゃん」
「麻宮社長と田中副社長もよろしくお願いします」
「えっと、私を社長って呼ぶと間違いそうだから、咲と麗奈でいいわよ。私たちの社内でもこれからは、社長の呼称は冴羽社長を指す事で統一するから」
「わかりました、咲さん麗奈さんよろしくお願いします」
今日はこの後で熊谷先生が合流して、細かい条件の擦り合わせをするそうだけど、その前にサオリンのライブ配信をみんなでここで見てから行くんだって。
食堂に設置した大型モニターにサオリンチャンネルを映し出す。
今の時刻が四時四十五分でライブ開始の十五分前だ。
既に待機人数が千五百人もいたよ。
「咲さん、今日はどんな内容にするかは聞いてるんですか?」
「いえ、聞いてないわね。十層からスタートするとだけ聞いてるわ」
「そうなんですね、咲さん達はどのくらいの階層まで行けるんですか?」
「行った事があるのは、名古屋の十五層までよ。エスケープなんて今まで手に入らなかったから、完全に攻略法が見つかってる所じゃないと怖くて行けなかったからね」
「伊藤マネージャーは今回付いて行かなかったのは、やっぱり戦闘面での不安ですか?」
「うーん、そこはちょっと微妙なんだけど、私たちって高校、大学とずっと一緒で剣道部に所属してたんだよね。私は全日本で優勝経験もあるし、麗奈と百合だって団体戦ではレギュラーだったから決して弱くは無いんだよ」
「それって、かなり凄くないですか?」
「あくまでも普通の人と比べたら、ちょっとは強いつもりだけど……百合はね優しすぎるの」
「優しすぎる? ですか」
「そう、魔物が相手でも殺す事を躊躇っちゃうのよね」
「それは……ダンジョンでは致命的かも……」
「サオリンに戦い方を教え込んだりするのは、彼女以上の適任者はいないと思うんだけど一緒に行動するとなると話は別なんだよね。もしかしたら、なにかのトラウマだったりを抱えてるのかとも思うんだけど、そこは百合も話してくれないんだよね」
「そうなんだ、でもサオリンがこれから下層階に向かって行くにつれて、その問題は大きくなるから解決しなきゃいけませんよね」
「そうね、サオリンのマネージャー業と会社の経理部門に専念してもらって、カメラマンは別の人を雇う事も検討してるわ」
そんな話をしていると定刻の一分前になっていた。
待機人数は既に一万人に到達してたよ。
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