第179話 島大臣と冴羽社長の会談

 ボーナスの支給も終わり、昨日は色々な事がありすぎてちょっと疲れてたのもあったから、部屋でウトウトしていた。

 希と日向ちゃんはボーナスを貰って大喜びで「お洋服を買いに行ってきまーす」と言って出かけて行ったよ。


 冴羽社長は、スリランカと北京の件で島長官と会議があるそうで、新幹線で東京へ出かけて行った。


「送りましょうか?」と声をかけたけど、冴羽社長もほとんど睡眠を取れてないから、新幹線のグリーン席で一眠りしながら行くそうだ。


 お昼の三時ごろになって杏さんが起こしに来た。


「心愛ちゃん。ダンジョンマガジンの東郷さんが来てるよ」

「はーい、今行きまーす」


 そう言って食堂に顔を出すと、杏さんが淹れてくれたコーヒーを満面の笑顔で飲んでる東郷さんが居た。


「どうされたんですか? 東郷さん」

「心愛ちゃん、こんにちは。先日の記事のラフが出来上がったので確認してほしいのと、スリランカのジャフナダンジョンはD-CANの攻略部門『クリスマスホーリー』がスタンピードをおさめたっていう言う情報は本当なのかい?」


「あー、それは事実ですけど、私からはなんとも言いようがないですね」

「まぁ、そうだろうけどね『クリスマスホーリー』が今後世界中のダンジョン攻略において中心的な役割を果たして行く事になると思ったんだ」


「おそらくそうでしょうね」

「それでなんだけど、俺を『クリスマスホーリー』専属の従軍記者の様な立場にしてもらえないかな?」


「それは、あくまでもダンジョンマガジンの記者としてですか?」

「いや、ダンジョンマガジン社からは離れて、フリーライターの立場で一緒に行動させてほしいと思ってる。勿論、自分の身は自分で守るし、クリスマスホーリーの邪魔をしたりすることは無い。世界中の人々にダンジョン攻略の最先端の情報を届けたいという気持ちだけだ」


「うーん……私が判断出来るような内容じゃないから、お返事は出来ませんがD-CANの活動の透明性を保てるなら、悪い話だとも思わないのでクリスマスホーリーのアンリ豊臣さんとうちの社長には、そういう話があったって事を伝えておきますね」

「よろしく頼むね。それで、今度の号に掲載する希ちゃんと桃ちゃんの記事だけど見てもらえるかい? 編集部でも凄い話題になって、巻頭カラーの六ページで掲載させてもらうよ」


「そうなんですね。それなら丁度いいホットな話題もありますよ。先日、第二次スタンピードを起こしたスリランカのジャフナダンジョンで獲得できるスキルは【テイム】なんです。魔物をテイムしたい人はジャフナへ行けばテイム出来るようになりますよ」

「そいつは凄い情報だ。今回の記事と一緒に掲載すれば大反響間違いなしだね」


「記事の内容は私が見た範囲なら問題ないと思いますけど、今、希は出かけてるから帰ってきたら確認をしてもらって返事を差し上げますね」

「わかったよ。従軍記者の件もよろしく頼むね」


 東郷さんが帰っていって、杏さんと二人で少し話した。


「杏さんはどう思われましたか?」

「そうね、東郷さんならそこそこの実力もあるようだし、悪い話でもなさそうだよね。秘密が多いと今回の様な横槍が入って、活動の妨げになる事もあるから積極的に情報を開示する姿勢は大事だと思うよ」


「そうですよね。でも、今回はロジャーやイージャの様な実力者が協力してくれたから、比較的楽に攻略出来ましたけど、今のクリスマスホーリーのメンバーだけだとスタンピードの対応では、まだまだ戦力不足になる可能性もありますよね」

「その辺りは冴羽社長も当然考えてるでしょうから、戦力の拡充をどうしていくのかは、これからの問題でしょうね」


◆◇◆◇


 新幹線で東京に到着した冴羽は早速、ダンジョン省に向かい島に面会を求めた。


「冴羽さん、今回は警察幹部や司法にまで反体制派が潜り込んでいたことでご迷惑をおかけしました」

「いえ、早い段階で問題点を洗い出せたので逆に良かったのではないかと思います」


「しかし、スリランカですか。日本との関係性は悪くもありませんが、中国の支配を受けすぎている事が懸念されますね」

「島大臣、その件ですが今回、D-CANが北京の結界構築を請け負ったことにより、ほぼスリランカへの中国の支配はなくなりました。今後スリランカの開発に関しては、日本が力になってあげることが出来るのではないかと思っています」


 冴羽が島に対して今回のスリランカスタンピードにまつわる一連の流れの中で二兆円に上る中国からの債務を帳消しにしてD-CANが肩代わりし、ジャフナ半島を含むセイロン島北部地域の土地の租借権を手にしたことを伝えた。


「冴羽社長、その地域の開発には日本からも援助を行えるように手はずを整えましょう。手始めにダンジョン外交はどうでしょうか? 日本の金沢とジャフナのダンジョンシティ同士を転移ゲートで繋ぎ、お互いに自由に行き来できるようにすれば、経済効果は計り知れないものになると思います」

「島大臣ありがとうございます。まさに私が島大臣に協力してほしかったのは、その内容です。最終的にはスリランカを中心に世界中のダンジョンを繋ぎ、ダンジョンテクノロジーによる新しい世界を目指そうと思います。そのためには金沢とジャフナの提携は最優先課題でした」


 冴羽と島の会談は冴羽の思い描く形での内容となり、スリランカにおけるクリスマスホーリーの活動に障害は無くなった。


 その後、スリランカと金沢のダンジョンシティを転移ゲートで繋ぐことで、探索者の資格さえあれば気軽に南アジアの楽園への旅行が楽しめるようになることも話題になり、スリランカブームが巻き起こるのはもう少し先の話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る