第146話 夢の国ダンジョン二日目

 人数が多いので最初は美咲さん、樹里さん、美穂さんの三人を千葉の拠点に送り届けた。

 午前中は、ちょっとだけ夢の国の中を見学してくるって言ってたので、年間パスを三人分預けたよ。


 一度食堂へ戻り、野中先生と橋本先生、希と日向ちゃんをパーティに加えて再び千葉の拠点ホテルに転移した。


「おい……柊、この能力って柊の能力なのか?」

「はい、こういうことが出来ちゃうのは秘密にしておいてくださいね」


「あ、ああ……」

「柊さん、凄いですね。このホテルの部屋もとっても素敵です。ここって柊さんが借りてるの?」


「私がって言うより、私たちの所属している会社が、が正しいのかな?」

「え? 会社って柊さんたちって会社員なの?」


「そうですよ。D-CANっていう会社に所属しています」

「D-CANって最近話題になってる会社だよな? 日本のダンジョン攻略の最先端って噂の」


「話題になってるんですか? それは知らなかったけど、私と希は攻略がメインで、日向ちゃんはダンチューブでダンジョン食材を使ったお料理チャンネルとその素材収集の狩りを撮影したり編集したりするのが主な仕事ですねー」

「先生たちが思ってた以上に凄いんですね柊さんは……でも木下さんはなんでメイドさんの恰好なんですか? お盆まで持って」


「これは……キャラ作り? かな。でも、お盆は武器にも盾にもなるから便利なんですよ。勿論お盆としても使えるし」

「そうなんですね」


 橋本先生は意外にあっさりと納得していた……


「あ、そういえば先生たちが今日使う武器を渡しますね。希の短剣とボーンランスを先生たちに貸してあげて。前も使ったから慣れてるだろうし」

「はーい。私はなに使いましょうか?」


「そうだね、そういえば日向ちゃんワイバーンジャベリンはもう使わないよね」

「そうですね、お盆と鞭だけで十分です」


「じゃぁ今日はワイバーンジャベリンを希が使って」

「了解ですぅ。こっちの方が投げやすそうだからちょっと狙ってました」


「そうなんだ。じゃぁそれは希にあげるから使ってね」

「いいんですか?」


「全然いいよ」


 それぞれ武器を持ち早速ダンジョンへ入っていった。


 私たちが夢の国ダンジョンの一層に入ると、昨日入った時には隠れて出てこなかったコスプレキャラ達が結構な数いた。

 日向ちゃんの恰好が中々に注目を集めちゃってコスプレキャラ達に囲まれかけたけど「この格好を魔物と間違えて攻撃しました! って言うのは無理があるからね?」って希が言うと遠巻きに見るだけで攻撃はしてこなかった。


 とりあえず、ダンジョンに入ったらウォーミングアップの素振りしなきゃね! と思って私がクリティカルポールを左打ちのバッティングフォームに構えて振ると『ヒュオン』と言う音とともに風が吹いた。

 音速突破までもう少しかな?


「先輩、ヤバいですって、こんなとこで武器振るとコスプレ軍団刺激しちゃいますよ?」

「あ、そうだったゴメンね。ただのウオーミングアップですから気にしないでくださいー」


 そう言ったけど、なぜかコスプレ軍団は私の言葉が聞こえる前に私たちの周りから居なくなった……なぜだろうね?


「柊、今のはなんだったんだ? いきなり魔物に囲まれたのかと思ったぞ。それに……柊の素振りが全く見えなかったんだが」

「なんか、このダンジョンはPvPを楽しみたい人たちがコスプレで集まってるみたいなんです。私の素振りは気にしないでください」


「流石にうちの学校の生徒達には来させたくないダンジョンだな」

「でも、おそらくチームシルバーが攻略して、金沢に移転させたらそんな人たちは来なくなると思いますから、きっと大丈夫なはずです」


「柊さん? 昼からはチームシルバーの人たちと合流するって言ってましたよね?」

「はい、そうですよ」


「それって、このダンジョンの攻略に先生たちも参加するっていう事なんですか?」

「はい、そうですよ? ダンジョン一つ攻略するくらいまで付き合ってもらえたら、金沢のスタンピードで溢れてる魔物くらいなら、自力で何とか対処できるようになりますから、頑張ってくださいね」


「ええっ? 本当に大丈夫なの?」

「大丈夫なはずです……きっと」


「先生とっても不安なんですけど」


 そう言いながらも、午前中いっぱいで十層まで進んだよ。

 私の超成長の効果もあって、先生たちもレベルが十五まで上がっていた。

 一度ダンジョンから出て、協会の会議室に行くと既にチームシルバーのメンバーと美咲さん達も集まっていた。


 みんなで十層まで移動すると、昨日と同じように私が鑑定、希が罠解除、戦闘はチームシルバーが中心で、日向ちゃんと希が投擲武器の練習をしながら進んでいく。


「柊、俺たち全然戦ってないけど大丈夫なのか?」

「こうやって同じパーティで進むだけでステータスは上昇しますから、実際の戦闘訓練はここのダンジョンの攻略が終わってからで大丈夫です」


「そんなもんなのか、俺の想像していた訓練とは随分違うもんなんだな」

「気にしないでオッケーです」


 そんな感じで二十層まで到着して、二日目の攻略は終了した。

 いよいよ明日は千葉ダンジョンのボス戦が出来るかな?


 博多へ戻ると、杏さんと熊谷弁護士せんせい夫妻が食堂にいた。

 

「心愛ちゃんお帰りなさい。日向ちゃん宛に日向ちゃんのお母さんからの手紙が熊谷先生の所に届いたらしくて持っていらしたの」


 奥さんの雌熊弁護士が日向ちゃんへと手紙を渡す。

 その手紙を読みながら日向ちゃんがちょっと涙ぐんでた。


「大丈夫? 日向ちゃん」

「あ、うん。大丈夫です。お母さん、お義父さんと別れる決心がついたようで、実家へ帰るそうです。いつかまた私と一緒に住めることを夢見て実家で頑張るって書いてありました」


「そっか、日向ちゃんはそれで良かったの?」

「今はまだ、簡単に信用しちゃいけないような気がします。何年かたって考えてみようかと思います」


「無理はしないでね」

「はい!」


 日向ちゃんのお母さんとお義父さんの離婚に関しての手続きも雌熊弁護士が依頼されたそうで、お義父さんが納得しなくても離婚は問題なく成立するって言ってくれてた。

 その日の夜にTBにミルクをあげた後で、日課の魔道具作成と手に入れたポーションや金属の錬金をしていたら、グレッグから電話がかかってきた。


『Hi心愛、ステイツのダンジョンを二十二層までのシャイアンダンジョンを除いて全部二十三層までは進めたから、日本へ戻るZE』

『そうなんだ。でも、もう金沢でスキルを取るのは出来なくなってるし、戻ってくる理由ってなにかあるの?』


『ああ、今回は俺とロジャーだけが日本へ行く。JDAから発表があった魔道具ってどうせ心愛が作ったんだろ?』

『うん……まぁそうだけど』


『大統領が魔道具を出来るだけ売ってもらえるように、心愛のご機嫌を取って来いって言ってるらしくてさ。それにロマノフスキーの動きが心配だからな。やつが動くとしたら、中国か日本で動くはずだ』

『大統領が本当にそんなこと言ってるの? でも、アメリカ用に別枠で魔道具をたくさん作ったりはしないからね?』


『そう言うと思ったけど、一応命令は聞かなくちゃならないし、何より心愛のそばにいる方が楽しいからな』

『本当かなぁ、でもこっちに来たらまたよろしくね』


『ああ、愛してるぜ心愛』


 あの人たちは、女の人なら誰にでも普通に『愛してる』って言ってそうだよね。

 グレッグの電話を切って三分もたたないうちにロジャーから電話がかかってきた。


『Helloマイハニー心愛』


 きっと同じ内容の電話だろうな……と思って、話を聞いてみたけど、やっぱり同じだった。

 最後の『愛してるぜ心愛』まで同じとか、絶対愛してるって言葉を『こんにちは』とか『おはよう』と同じ意味で使ってるはずだよ。

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