第144話 夢の国ダンジョン
希がカツ丼を食べ終えるのを待って、美穂さんと樹里さん、日向ちゃんと希の四人をパーティーに加え千葉の拠点に転移した。
拠点に転移すると樹里さんがはしゃぎだした。
「なによこの部屋、超かわいいじゃん。私ここに住みたいよー」
「あー、ここは夢の国に併設されたホテルの部屋なんです。お家賃もここだけは超高くてびっくりの月、百万円なんですよ……」
「え、まじで?」
「うん、夢の国の中にダンジョンが出来ちゃったから、ダンジョン協会がここをホテルごと買い取って、千葉支部作ったんですよ。で協会支部を一階フロアに作って上を全部マンスリーマンションで貸し出してるんです。探索者って、お金持ちの人多いから、結構埋まってるらしいですよ。特典として無記名の夢の国の年間フリーパスが四人分ついてたりするんですけどね」
「いいなぁ、特務隊のお給料じゃとても住めないのは間違いないね……」
そんな話をしてると、美穂さんのスマホに電話がかかってきた。
『君川三佐、どうされたんですか?』
『ちょっと心愛ちゃんに変わってくれ』
そう伝えられて美穂さんが私にスマホを渡してきた。
『心愛ちゃんすまない。昨日のダンジョンの再設置のニュースを見て、夢の国の施設と千葉県が、ダンジョン省に要望をあげたらしいんだ。子供や家族連れも多く集まる場所だから、千葉ダンジョンもダンジョンシティーで引き取ってもらえないかって』
『そうなんですね。それでどうしたらいいんですか?』
『俺もパーティーに加えて貰って一緒にクリアしたいんだけど大丈夫かな?』
『あと一名は枠がありますから、迎えに行きましょうか?』
『よろしく頼むよ。今は金沢支部にいるので待ってるね』
『わかりましたー』
みんなに今の話を説明して君川さんを迎えに行くことにした。
ついでにチームシルバーのメンバーも全員千葉ダンジョンのクリアに参加させてほしいっていう話になって、金沢と千葉の間を三往復もさせられちゃったよ。
一人だけ博多に居た美咲さんも迎えに行ったから一時間もスタートが遅くなっちゃった。
その間に希は日向ちゃんと一緒に早着替えの練習をしてたそうだよ。
「もうマスターしちゃいました!」
って言ってたから、やっぱり希は何気にセンスがいいんだろうね。
「樹里、美穂! ダンジョンに行くなら私も先に誘いなさいよ」
「だって、せっかくの非番ですから呼んだら悪いかな? って思って」
「だってじゃない。それに、襲撃騒ぎもあったんでしょ? ちゃんと連絡入れなさい」
「ゴメンなさい」
「ゴメンなさいじゃなくて、すいませんでしょ? 子供じゃないんだから……」
そのやり取りを聞いてチームシルバーの人たちが若干引いていた。
そこに希が突っ込みを入れる。
「美咲さん、お局様っぽくないですか?」
「えっ、そ、そんなことないわよね心愛ちゃん」
「うーん、どうだろ私にはよくわかりません」
急に振らないでほしいよ……
結局、君川三佐がなんとか場を収めて、探索を始める事になった。
君川さんはダンジョンのクリアが主目的なので、私のパーティーには美咲さんが入ると言う事で、手を打ったみたいだ。
君川さんも苦労してるよね……
さすがにチームシルバーが一緒だとコスプレPK軍団も隠れて顔を出さなかったよ。
私たち的には、面倒に巻き込まれなくて助かったのかな?
ここのダンジョンは二十層まではマップが存在してるんだけど、トラップの位置は一定じゃないものもあるらしくて六層からは結構大変だった。
ダンジョン内を鑑定しながら進行し、希にトラップ解除をしてもらう。
一般の人たちに比べると格段に安全な手段だと思うけど、魔物が襲ってきたのを殴り倒しながら進む方が、全然楽だなぁって思ったよ。
チームシルバーのメンバーはまだトラップ解除が使える人もいないらしくて、香田三尉が凄く欲しがってた。
ここをクリアした時に、このダンジョンのスキルと一緒に設定しようかな?
移設したら六十八層になるから難しいけど、今ここにいるメンバーは取得できるしね。
初日は五時間をかけて十五層まで進めた。
大きな問題もなく進めたけど、トラップを全部解除してあげながらの探索だからなんだろうね?
二十一層目以降のどこかで、自衛隊の人たちがどうやってトラップを突破してたのか見せてもらおうっと。
君川さんたちチームシルバーのメンバーはクリアまで習志野駐屯地に滞在するんだって。
樹里さんと美穂さんが拠点部屋に泊まりたそうにしてたけど、美咲さんにドナドナされて博多へ連れて帰ったよ。
今度お休みの時に連れてきてあげるから我慢してね。
博多に戻ると杏さんが待っていて、お昼の日向ちゃんのお義父さんの件で警察庁の青木さんという方が連絡をして欲しいと伝言を頼まれたそうだ。
早速、聞いていた連絡先に電話をした。
日向ちゃんも心配そうな顔で私の向かい側に希と一緒に座っていた。
『青木さんのお電話でよろしいでしょうか? ご連絡をいただいた柊と申しますけど』
『ご連絡ありがとうございます。お昼に警護につかせていただいていた者で青木と申します。今からお会いする事は可能でしょうか?』
『はい、大丈夫ですけど、どちらに伺えば?』
『任務の関係上、近くにいますので食堂に伺っても?』
『そうなんですね……大丈夫です』
『では、伺わせていただきます』
電話を切って待っていると、三分ほどで食堂側の扉が開き、男女の二人組が入ってきた。
「警察庁の青木です。こちらは同僚の遠藤です」
そう言ってもう一人の女性も紹介してくれた。
「お昼はお騒がせしてしまってすいません。あの後の事をお伺いしても大丈夫ですか?」
「はい、柊さんと真田さんのお二人にはずっと警備局からの護衛がついていた事はご存じですよね?」
「先日、土方さんとお会いした時にうかがいました」
「それは警察庁長官の土方斗真の事でしょうか?」
「そう名乗られていました」
「すいません。その情報を私どもは知らなかったもので……警護につかせていただいている時にも、度々、柊さん達を見失う事が多くて、結構私たちの班のメンバーが自信喪失したりしていて大変だったんですが、今回下関ダンジョンの移転の件で発表があった転移方法を以前から柊さん達が使えていたと言う事であれば、納得がいきました」
「それは、ご迷惑をおかけしました」
「本題に入りますが、木下日向さんのお義父さんは海外からの接触を受けられていて、日向さんからD-CANの魔道具やスキルオーブを手に入れようとされてたようです」
「そうだったんですね。お母さんは何も知らなかったんでしょうか?」
「いえ、お義父さんが大金を手に入れると言っていたのを聞いているそうです。具体的な内容はご存知ないそうですが、おそらく全く見当もつかなかったという事は無かったはずです」
「そのお義父さんに接触してきた国ってどこでしょうか?」
「問題が大きくなりますので、口外をしないと約束していただけますか?」
私と日向ちゃんと希が頷いた。
「一国だけでなく、複数の国が接触してきていて、できる訳もないのに手玉に取って、どちらからもお金をせしめようと考えたようですね。はっきり言ってこういう接触をして来るのは海外でも特別な機関に所属しているメンバーで、簡単に騙されるわけはありません」
「そうでしょうね」
「一応、リストをお渡ししておきます。それと、木下誠二さんは拘留されたとわかった以上、今、外に出るとほぼ間違いなく、さらわれて殺されてしまいますので、ご本人の保護の意味合いもあって、拘留は相当な期間継続する事になるでしょう」
「でも……それって私や希に近い人なら、誰でもそういう可能性があるっていう事ですよね」
一瞬の空白が訪れた。
「ご明察ですね。真田さんのお母さん。柊さんのお母さん、お祖母ちゃんにも同様の組織が近づこうとした形跡がありました」
「そうなんですか? お母さん何も言ってこないけどまさか、話を聞いたなんてないですよね?」
「真田さんのお母さんは、とても毅然とした態度で突っぱねられたようですよ」
「へぇ、そうなんだ、お母さんやるじゃん」
「私の母とお祖母ちゃんは、どうだったんですか?」
「それなんですが、特別な組織が警護につかれてるようですね?」
「えっ? 私は知りませんよ」
「そうなんですか? てっきり柊さんの知り合いの方だと思っていましたが」
「中国系の女性たちが四人、お祖母さんのやっている牛の飼育の手伝いで雇われてるらしいんですが、その方たちが皆さん特殊な訓練を積まれている方だと報告が上がっています」
「誰だろう……」
「現時点では、お母様達は心配はいらないという事ですね」
「良かったー」
「木下日向さんのご両親に関しては警備局の方でも日向さんが護衛対象になってなかったもので、失念していました」
「わかりました。日向ちゃんは何も気にしなくて大丈夫なんですね?」
「はい、ただし隙を見せれば必ず近寄ろうとする所は現れます。日頃から今まで以上に気を付けておいて下さい」
「はい」
「それと、私たちも顔を出させてもらった以上は、これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
貰ったリストに関しては冴羽さんに渡して、リストにあった国への付き合いは該当国が納得のいく謝罪をしない限り一切差し止めてもらおう。
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