第143話 逮捕!

 私と美咲さん達のやりとりを気長に見ていた冴羽社長が声をかけてきた。


「問題なく使えそうだけど、台数がかなり必要になりそうだね。無理はしなくていいけど優先的に作ってもらえるかい?」

「社長、これですね成功率が二十パーセントしかないんです。五台に一台の成功率だと作るのも大変ですから、タブレットの製造メーカーと交渉してミスリルフレームのタブレットとか作ってもらえないですか?」


「そうか、タブレット端末は他の魔道具でも使うしスマホ型も需要はありそうだから交渉してみよう」


「一台百万円くらいなら全然許容範囲です。勿論素材のミスリルはこちらが提供しますので」

「わかった。ただ海外の大手メーカーは無理だと思うから国内の比較的小回りが利きそうなメーカーの製品になるよ」


「それは全然構わないです。最優先するのは頑丈さと伝えてくださいね」

「了解だ。今タブレット端末の在庫は二百台くらいあるんだっけ?」


「そうですね」

「メーカーと交渉するにしてもすぐには出来ないから、後五百台ほど注文しておくね」


「聞いただけでゾッとしますね……」


 試作品のSAIAを冴羽社長が持って帰るためにアイテムボックスに収納すると、美咲さん達が凄く残念そうな表情をした。


「心愛ちゃん。ここに一台常備したりする予定は無いの?」

「売ったら二千万ドルですから、そんな物置いてあったら泥棒さんが一杯来そうじゃないですか?」


「それを言われると、何も言えないね」

「センターラグは見た目がこれだとまさか魔道具だと思われないから大丈夫だと思いますけど……」


「それもなんか納得だね……」


 TBを連れて部屋へ戻ると、今日頼まれていた転移マットを作成してアイテムボックスに収納しておいた。

 ミスリルもたくさん必要になりそうだなぁと思って在庫していた金属類をあるだけ全部ミスリルに錬金して、SAISを三台と高機能版鑑定タブレットを三台、簡易型の鑑定タブレットを三台作ったよ。


 明日からは当面、SAIS三台と簡易型タブレット七台でいいかな?


 お料理もしたいけど、日向ちゃんも明日までは試験があるし付き合わせても悪いから今日は止めておこう。


 TBにミルクをあげながらテレビをつけてみたら、探索者養成学校の入学案内を島大臣がテレビに出て説明していた。


 高校は授業料も寮費もすべて無料で通えるんだって、凄いなー。

 一般向けの専門学校も授業料の半額は国から補助が出て、ダンジョンシティ内の住居も月々一万円で借りれるんだって。

 元々の金沢は四十五万人もの人が住む結構大きな町だから、ダンジョンシティーになった事で、住む場所は大量に空いてるしね。

 スタンピードで倒壊した建物もそれなりにあるけど、しっかりした作りのマンションとかはほとんど無傷だし、一万円なら超お得な物件がたくさんありそう。


 この住居はダンジョンシティ内に住民票を移した探索者養成学校の卒業生には引き続きお家賃据え置きで借りることも出来るそうだよ。


 ダンジョン産の技術を研究する設備も順次整えられて、探索者養成学校を卒業すると、特区内に設置される予定の大学にもエスカレーター式で進学でき、ダンジョン関連企業に就職するにも有利になるとアピールしていた。


 もちろん自衛隊の特務班に配属される進路も選べる。

 これは……結構すごい数の応募があるかもしれないね。


 翌朝は、杏さんに昨日作った魔道具を預けて学校へ行った。

 中間試験の終了後に、全校集会がある事を告知され、講堂へと集められた。


 その場で発表されたのは、当然のように探索者養成学校への編入試験の話だった。

 希望者は六月末の募集締め切りまでに、保護者の許可をもらった上で応募するように伝えられた。


 かなり合格率は低くなりそうな予測なので、応募した事は基本的に内密にされると言う事も告げられた。

 きっと本人が言わない限りは九月に二学期が始まった時に『あの子転校したんだね』と噂される事になるんだろうな?


 全校集会も終わり「やっとダンジョンに行けるね」と話しながら希と日向ちゃんの三人で家に帰っていると、見慣れない車が近寄ってきて横付けされた。


 このパターンは危険かも……相手の人が……


 そう思った瞬間に樹里さんと美穂さん、それに見慣れない男女の二人組が現れて、なんといきなり拳銃を構えて窓ガラスに突き付けた。


 あまりの出来事に私もちょっとビビったよ……

 

 男女の二人組が手帳のような身分証を運転席の男性に見せながら、車から降りるように促す。

 車から降りてきた人を見て日向ちゃんがつぶやいた。


「お義父さん……」


「えっ、あの人って日向ちゃんのお義父さんなの?」

「はい……」


 ちょっとだけ日向ちゃんの顔色が青ざめた。


「娘に会いに来ただけで、なんでこんな扱いを受けるんだ。訴えるぞ!」


 と日向ちゃんのお義父さんがわめき散らかしたけど、私が冷静に伝えた。


「あの、日向ちゃんに対しては裁判所から接見禁止命令が出てるはずですよね?」


 私がそう伝えると男女の二人組が日向ちゃんのお義父さんに告げた。


「警察庁、警備局の者です。あなたの行為は逮捕案件になると確認されましたので逮捕、拘留をさせていただきます」


 そう伝えると手錠をかけ「11時34分被疑者を確保」と言って日向ちゃんのお義父さんは連れていかれた。


 樹里さんと美穂さんもちょっとびっくりしてた。


「大丈夫? 日向ちゃん」


 まだ顔色は優れなかったけど「大丈夫です」と返事をした。


「一体何だったんだろうね?」

「わかりません」


「樹里さん達は警察の人の存在は知ってたんですか?」

「うん、結構いろんなところで見かけてたから警護が付いてるんだろうね? って話はしてたよ」


「そうだったんですね。でも私や希が気づかずに警護を続けてたって、あの二人結構ヤバい人ですよね」

「だよねぇ。とりあえず今日は車に乗って。このまま食堂に行くから」


 状況が状況だけに野次馬も集まってきたし、パトカーのサイレン音も聞こえてきたから、素直に樹里さんの言葉に従って三人で車に乗せてもらった。


 パトカーはきっとお義父さんの車が邪魔になるから、それで来たんだろうけどね?


「日向ちゃん。今日はダンジョンに行くの止めようか?」

「いえ、じっとしてる方が考え込んじゃいそうですから行きます」


「そっか、じゃぁ希も準備して! 千葉に行くよ」

「「はい」」


「杏さんTBの事よろしくお願いしますね。それと、もしかしたら警察から何か連絡あるかもしれないですから聞いておいてもらえますか?」

「了解です。心愛ちゃん」


「樹里さん達は千葉ですけど一緒に行きますか?」

「勿論行くよ!」


「あの、先輩。カツ丼の話覚えてますか?」

「あーそうだったね。じゃぁ先に食べちゃいなさい」


 そう言って希にカツ丼を出してあげた。

 アイテムボックスに常に在庫は入れてるからね!

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