第138話 再設置

「せんっぱーいおっはよーございます」

「おはよう希、今日はいつも以上にハイテンションだね」


「へへぇ、今日の試験には、ちょっと自信があるんですぅ。早く勉強した成果を発揮したいなぁって思って」

「へー希がそんなこと言うなんて、よっぽど自信があるみたいね」


「ていうか先輩、その子どうしたんですか? 朝から先輩の胸に抱かれてミルクを飲ましてもらえるなんて……私もテストの成績が良かったらそのご褒美がいいです!」

「なんで希を抱っこしてミルクを飲ませるなんて羞恥プレーをしなきゃならないのよ……この子は、昨日ホームセンターの駐車場で段ボールの中で泣いてたのをあまりにも可愛かったから連れて帰ったの。名前はTBだよ。希も可愛がってあげてね」


「ええ、いいなぁ。私も段ボールに入って泣いてたら先輩に連れて帰ってもらえるんですか?」

「そんなの警察に電話するにきまってるじゃん。知り合いと思われたらヤダシ」


「ひどい……っていうか名前が微妙じゃないですか?」

「そう? 結構気に入ってるんだけど」


「まぁいいです。なんか、そのうち一緒にダンジョンに行ってそうな予感しかしないです」

「今の所はそんな予定は無いけどね」


 そんな会話をしていると日向ちゃんが、三人分のトーストとコーヒーをトレイで運んできた。


「日向ちゃん、ありがとう。そういえば最近いつもそのお盆持ってるよね」

「うん、ピッカピカで奇麗でしょ」


「んーなんか怪しいなぁ。ちょっと見せて?」

「えー駄目だよ、汚れるから」


「ちゃんと手洗ってるし。って言うかそれどこで手に入れたの?」

「えーと、下ダン?」


「いつ行ってきたの? 私と一緒には行ってないよね」

「先輩、希が今日に限って鋭いんですけどどうしましょう」


「しょうがないね、噓をつくよりは言ってしまった方がいいかな?」

「希、これ下ダンのボス宝箱から出たJOB付き武器なの。下ダンまだ行った事無かったから先輩にお願いして連れてってもらったんだ」


「えー日向ちゃんだけずるーい。私もJOB付き武器欲しいなぁ」


 そんな話をしてると杏さんも会話に入ってきた。


「日向ちゃん、そのトレイってどんなJOBが付いてるの?」

「えーと【メイド】です」


「そのまんまだね……でもJOB付き武器って結構出てるのかな? まだ協会のデータベースには全然情報上がってきてないけど」

「杏さん、私は三個は見てますよ。全部ボス宝箱からしか出てないですけど」


「そうなんだ。ボスを倒した時じゃないと宝箱は出ないんだよね?」

「そうですね」


「金沢は心愛ちゃん以外の人は倒してないと思うけど、下ダンは一日一回は倒されてるから結構出てるのかも知れないわね」

「杏さん、そういえば他の国って攻略情報は公開したんですか?」


「いえ、まだちゃんと公開してるのは、日本とアメリカだけだよ。来月どこがスタンピードを起こすのか全然予想がつかないわね」

「そっかぁ……Dランクダンジョンなら、問題ないと思いますけどSランクダンジョンなんかがスタンピード起こしちゃうとかなりやばいですよね」


「そうだね、日本は大丈夫だと思うけど他の国だと想像がつかないわね。心愛ちゃんの大結界って、先にスタンピードを起こしそうなダンジョンを特定出来たら包み込む事は出来るのかな?」

「どうでしょう? 出来るはずですけど、そんな抜け道をダンジョンが見逃してくれないような気がするんですよね」


「例えば?」

「包み込んだダンジョン以外の場所がスタンピードを起こすか、スタンピードの出口が結界の外側に出来るか、とかそんな感じです。もし包み込んだせいでそうなった場合責任を問われたりしたら、とてもメンタル持たないですから、一切責任を問われない状況じゃない限りは無理です」


「口約束で責任は問わないと言ったとしても、どうにかしろって言ってきそうだよね」

「でしょー。そんなの絶対嫌ですよ」


「そういえば、冴羽さんが今日金沢特区に、アンリさんとダンジョンの再設置に行くって言ってたわよ。お昼過ぎからで島大臣もお見えになるそうだよ」

「そうなんですね。お昼過ぎなら学校は終わってますけど、大臣とかいるんじゃ私は行かない方がいいかな?」


「向こうは来てほしいかもしれないけど、ここで待機してて、もし呼ばれたら行くでいいんじゃないかな?」

「そうですね、学校が終わったらここでTBと遊んでいます。それじゃぁそろそろ学校に行ってきますね」


「はい、行ってらっしゃーい」


◆◇◆◇


 昼過ぎになり食堂には冴羽社長、アンリ豊臣、澤田理事、冬月二尉が集まっていた。


「それでは早速、試作品の転移マットを使って金沢への転移を行う」

「どうやって使うんだ? って言うかなんでアニメキャラのセンターラグなんだよ」


「これは試作品だから深く追及するな。使い方はこのマットの上に乗るだけで発動する。澤田から乗ってみてくれ」

「俺が最初か……わかった行くぞ」


 澤田理事が歯を食いしばった表情でセンターラグの上に乗るとそのまま姿が消えた。

 冬月二尉とアンリも順番にマットの上に乗り転移する。


「杏、心愛ちゃんが帰ってきたら一応待機しておくように伝えてもらえるかい?」

「わかったわ。朝、心愛ちゃんもそんなこと言ってたから大丈夫だと思うよ」


 冴羽も転移マットに乗り金沢の拠点部屋へと移動した。


「ここは金沢なのか?」


 澤田が聞いてくる。


「ああ、D-CANで借りてるマンションだ。ダンジョン協会まで五十メートルも離れていない」


 ベランダから外を眺めた澤田が納得した表情をした。


「もう一度このマットに乗れば戻れるって事か?」

「そうだな」


「各ダンジョン協会支部と本部を繋げれば便利になるな」

「注文してもらえれば考えてもいいぞ」


「一組二千万ドルだっけ? とてもそんな予算は出そうもない」

「世界中のダンジョン協会に鑑定スマホ転売するんだろ? そこから予算だせばいいじゃないか」


「俺だけじゃ決められないしな……」

「さあ、大臣を待たせたら悪いから、さっさと行こう」


 金沢の町は現在一般人立ち入り禁止区域になっているため、結界内部にはダンジョン探索を行う探索者と自衛隊のメンバーしか見かける事は無い。


「商店が無いのは不便だな」

「探索者資格を持っていれば、自己責任で結界内での商売をするのは許可される予定だ」


「探索者だけが相手だと、協会内のダンジョンショップで事足りそうだな」

「学校が出来れば需要は広がるさ」


 ダンジョン協会金沢支部へ到着すると、すでに島大臣は到着していた。

 SPが四人と、斎藤防衛大臣も一緒に来ていた。

 JDAからも森会長と結城と轟の二人の常務理事が来ている。


 葛城一佐と君川一尉チームシルバーの面々も揃っている。


「遅くなりました島大臣。下関ダンジョンこと、605ダンジョンの再設置をただいまより行いたいと思います」

「約束の時間より前なので何も問題はありませんよ冴羽社長。それよりダンジョンマスターのアンリさんの紹介をしていただけませんか」


 アンリが一歩前に出て自己紹介をした。


「アンリ豊臣です」


 それ以外は何も発しない。

 見た目のいかつさにチームシルバーのメンバーですら構えた表情になる。


「葛城一佐、設置場所はどこの予定だ」

「はい、ダンジョン協会を挟んで反対側への設置を行います」


「では早速お願いします、アンリさん」


 アンリが指定された場所で「ダンジョンインストール」とつぶやく。

 周囲に地揺れが起きた。

 SPが島大臣と斎藤大臣の二人を庇って覆いかぶさる。

 森会長は結城と轟の二人がガードした。


 三十秒ほどで揺れはおさまり、その場にダンジョンの入り口が現れていた。

 周囲の安全を確認して、SP達が立ち上がる。

 

  アンリの脳裏に言葉が響く。


『ダンジョンがインストールされました』

『再設置されたダンジョンでは素材採集が可能になります』

『インストールされたダンジョンはダンジョンマスターと共に成長します』

『ダンジョンマスターはダンジョンコアに指令を出し、機能の設定が出来ます』


「完了だ。今までのダンジョンと若干の変更点があるので伝えておく。素材採集が可能になるらしい事と、俺のレベルに合わせて成長するらしい。もう一点はダンジョンコアに指令を出せるそうだ」

「それは、どんな指令が出せるのですか?」


「ダンジョンコアの場所に行ってみないとわからないな」

「しかし、六十九層あるのですよね?」


「そうだと思う」


 冴羽がダンジョンの入り口に鑑定を発動した。


『NO605ダンジョン 階層数69 Bランクダンジョン 到達階層22』


「大臣、このダンジョンは現時点で六十九階層のBランクダンジョンとなっています。到達階層は下関の22層を引き継いでいます」


「冴羽社長は上位の鑑定能力を持たれているのですか?」

「はい、偶然手に入れることが出来ました」


 周囲の人から(心愛ちゃんから貰っただけだろ)と思うような視線で見られはしたが、それを口に出す人間はいなかった。

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