第139話 再設置②

「アンリさんダンジョンの中に入ってダンジョンコアに行けるのかを確認してもらえませんか?」

「わかった、君川は当然下関はクリアしてるよな?」


「はい、ポーションⅣで一撃撃破を試した時のメンバーでした」

「まず俺が移動してみる。その後で君川も試してみてくれ」


「了解しました」


 ダンジョンリフトにランキングカードをかざしたアンリはコアルームと二十二層までの各階に移動できることが分かった。

 君川一尉は二十二層までの転移しかできず、当然コアルームは表示されなかった。


「アンリさん、ダンジョンコアに触ってマスターには何が出来るのかを確認してもらっても構いませんか?」

「わかった、ちょっと行ってくるな」


 五分ほどでアンリが戻ってくる。

 

「現段階ではスタンピードを発生させないという選択肢だけだった」

「現時点? それは違う事の出来る可能性があるのですか?」


「恐らくだがあるな。あと二項目分の欄が見えなくなっていた」

「どんな条件なんでしょう?」


「鑑定できている部分でAランク、Sランクというダンジョンが存在するんだろ? 俺のレベルが上がり、そのランクに到達すれば使えるんじゃないか?」

「なるほど、了解しました」


 冴羽がみんなの方に向き直り話す。


「ダンジョンの設置はこれで完了です。次は我社の新商品でもある転移ゲートをご覧いただきます」


 そう言ってアイテムボックスからミスリルのプレートを二枚取り出す。

 地面に一枚を置き十メートルほど離れた場所へもう一枚を置く。 


「この二枚のミスリルプレートが特殊な魔道具になっています。この上に乗る事で対になったもう一枚のプレートへと転移できます。その際必要なのは、ランキングカードの所持と距離に応じたMPです。もう一枚を設置予定の下関との間ですとMPで百、レベル十になる事が最低限必要です。今、仮に置いた廊下の様な一キロメートル未満の距離ですとレベル一でも使えます。大臣たちはランキングカードはお持ちですか?」

「ああ、私も斎藤防衛大臣もレベルは十まで上げている。体力がつくと噂になっていたからな」


「そうですか、それでは私の後に続いてこのプレートの上に乗ってください」


 最初に冴羽がミスリルプレートに乗り反対側のプレートから現れると、既に博多からの転移を経験していない他のメンバーが次々と試した。


「この様に、タイムラグも感じることなく転移が可能です。これを金沢のダンジョン協会支部と下関の支部のそれぞれに設置して使用可能にする事で、下関からこちらへ移設したデメリットはほぼ無くなります」


 それを体感した島大臣が問いかけてくる。


「この商品は量産が可能なのですか? それと価格はどのくらいになるのでしょうか?」

「JDAには伝えていますが、魔道具は他にも種類があります。それらを合わせて一日十個までの注文を受け付けます。当社から販売をするのは当面JDAのみで一般への販売は致しません。ただし買い叩かれなければですが。この転移ゲートの場合ですと、ワンセットが二千万ドルの設定となります」


「二千万ドルか……用途によるが最新のジャンボジェットが四億五千万ドルほどになるはずだ、それよりもはるかに価値の高いこの商品の値段としては格安と言えるな。ただし、この商品はいろんな危険性もはらんでいる。JDAが販売をするにしても販売先は日本政府の許可を受けた相手にしてもらいたい」

「それは当然の判断ですな。特に国外への販売に関してはJDAで請け負うには責任が重すぎます。JDAの施設間を繋ぐ物以外の販売先は国へ委ねましょう」


 森会長の返事を受けて満足そうにした二人の大臣が協会内への移動を促した。

 

 アンリが「俺の用事はもう終わりだから戻るな」と言って、その場から立ち去り、チームシルバーのメンバーも君川一尉と冬月二尉を除き任務へと戻った。


 残ったメンバーが金沢支部の会議室へ集まる。


「冴羽社長。アンリさんはD-CANで管理下に置く事が出来るのですか?」

「現在D-CANでダンジョン攻略に特化した組織を立ち上げようと計画しています。ガリッサダンジョンの攻略で露呈したのは、各国の政府に紐づけされた組織ではこの先ダンジョンの脅威からこの地球ほしを守る事は到底叶いません。それは各国が税金を投入して部隊を育てている以上逃れようがない呪縛です。恐らくこの国の法律では武装組織を立ち上げると宣言しても認められる可能性が低いことも理解しています。その辺りの問題を解決出来次第行動に移ります」


「そうですか……日本政府としては拠点を国外に置くと言われて『はい、そうですか』と言うのは大変心苦しくもありますが、国内を拠点にされた場合の野党の反発を考えれば、それが妥当な考え方であると言う事も理解できます。しかしながら最低限親日国家である事を条件として出させてください」

「その辺りは当然考えておりますのでご安心ください」


 そこまで話したところで斎藤防衛大臣が葛城一佐へと向き直った。


「葛城一佐、D-CANの活動はあくまでも一般企業としての動きとなる。この国を守るのは基本的に今まで通りに自衛隊に、地下特殊構造体特務班に多くを委ねる事となります。そのトップである葛城一佐が今の階級では対外的なミッションの際に低く見られる可能性もあります。本日付で准将へと昇進していただきます。将官の補佐に当たる君川一尉が尉官のままというわけにもいきませんので、やはり本日付で三佐へ昇進です。よろしくお願いします」


「「ありがとうございます」」


「君川三佐へは特務もお願いします。ゴールドランカーとして金沢を含め今後日本国内で攻略されるすべてのダンジョンにおいてダンジョンマスターになって下さい。決して国外へのダンジョンの流出を起こさないようにお願いします」

「了解いたしました」


 辞令の交付を終え、早速金沢ダンジョンの最終層へと移動した君川三佐により金沢ダンジョンは消失し、再設置が行われた。

 尚この際、ダンジョン通信可能な金沢ダンジョン内には緊急のダンジョン内放送が流され、ダンジョンの消失と再設置が行われる事が告知されている。


「さて森会長、次の案件についても話を進めさせていただきます」

「と、言われますと?」


「探索者養成学校の話です。早速、今日中に全国へ向けて広報を出します。テレビ、ラジオ、インターネット配信、新聞を利用した告知を行い、希望者を募ります。六月末までの募集期間を設け試験を行います。正式な開校は九月からになりますが、合格者は順次受け入れる態勢を整えていただきたいと思います。このダンジョン特区内にある建築物は、一括して政府が取得した上で、必要に応じて貸し出しを行います。それに伴いダンジョン省の本庁舎も金沢へ設置しようと考えます。そのために転移ゲート一組を本庁舎と首相官邸の官房長官の執務室の間に設置をお願いします」

「了解いたしました。冴羽社長早速の注文だが受けてもらえるかね」


「はい、謹んでお受けします」

「冴羽社長、魔道具の製造において余裕のある台数はすべて鑑定タブレットの形で在庫を貯めておいてほしい」


「結城常務理事、それは簡易版の方で構わないですか?」

「高機能型も三台ほど在庫を作ってもらいたい。少なくともアメリカは必ず求めてくるからな」


「毎度ありがとうございます。掛け売りには対応しませんので代金との引き換えで現物をお渡しします」

「世知辛いな……」


 さらに葛城准将からも注文を受ける。


「私からの要望はJDAに対して行う形でいいのですか?」

「それで問題ありませんD-CANの取引先はJDAだけにした方が今後を踏まえた上で重要な事だと思います」


「そうだな、JDA自体が資本は政府から出ているのでその形が望ましいだろう」

「スキルオーブの注文を受けてほしい。パーティ作成とリミットブレイク、エスケープの無制限オーブをそれぞれ一万個用意していただきたい」


「結構な数ですね。無制限オーブの場合魔石が二十層以下の物が必要となりますので、JDAに魔石の在庫があれば対応します。価格は無制限オーブの場合、一律百万USドルで受けましょう」

「価値から考えれば納得するしかない価格だろうな。魔石はWDA経由で必要個数を仕入れよう。仕入値段は支払いから引かせてもらうぞ」


 ここで島大臣からもう一つの提案があがる。


「冴羽社長、現在ダンジョン省に対してスポーツ庁からステータスアップに対しての対応策を示してくれと要望が上がっている。高体連から上がった報告ではトップ探索者であれば、百メートル七秒台の数字が難しくないという報告も上がっているがそれは事実なのかい」

「あー、それは恐らくうちのオーナーかチームシルバーのメンバーじゃないと無理ですが事実ではあります」


「そうなのか、そうであればスポーツ自体が根本的に成り立たなくなるな。D-CANで、なにか良い手段を講じてもらえないだろうか」

「すぐにはお返事出来かねますが、オーナーと相談した上で対応策を考えましょう。お返事はどちらに差し上げればよろしいでしょうか?」


「直接対応にはJDAに協力してもらう事になるので澤田君に頼む」

「了解しました」


 こうして盛りだくさんな会議も終了して、D-CANは多大な注文を受ける事になった。

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