第135話 新しい家族?

『諸葛さん、今大丈夫ですか?』

『心愛ちゃんか。だいじょうぶだよ』


『天津ダンジョンはどんな状況ですか?』

『ああ、スタンピードは止まっているから、今は溢れ出した魔物の駆除で忙しくしているよ』


『あの、諸葛さんのとこにはダンジョン消失の情報とか入って来ていないですか?』

『いや、何も聞いていないが、それはいったいどういう事なんだい?』


『現在、ガリッサと下関の二か所のダンジョンが消失しているんです。消失の条件はゴールドランカーによるギフトでの攻撃です。消失させたダンジョンはダンジョンマスターになったギフト所持者がどこにでも再設置させることが出来るんです』


『なんだって? それでだったのか』

『何かあったんですか?』


『ロシアから外交筋でスタンピードの残敵掃討の手伝いを申し出てきたんだ。それもトップチームを派遣してくれるという話で、ありがたいと受け入れを許可したところだった』

『そ、それは危険です。天津ダンジョンを持ち出されてしまいますよ。ガリッサもロシアのロマノフスキーさんが手に入れて持ち出していますから』


『どうすればいい?』

『すぐに劉さんか諸葛さんが天津のダンジョンコアにギフトで攻撃をして手に入れてしまってください』


『わかった。確認だがそれによってマイナスな要因はなにかあるのかい?』

『再設定させたダンジョンの階層がダンジョンマスターのレベルに応じて深くなる事くらいです。後はダンジョンマスターには色々な特典もありますから、ロマノフスキーさんが来る前に取得を終わらせてください』


『心愛ちゃん、ありがとう。劉大兄に伝えてすぐに天津に向かうよ』


 天津は間に合ったようだけど、ロマノフスキーさんは明らかに天津ダンジョンも手に入れようとしてたよね?

 一体、何をたくらんでいるんだろう……


 そういえばアンリさんはロマノフスキーさんと顔見知りのようだったけど、今度会った時に聞いてみよう。


◇◆◇◆


 一方、君川一尉は朝、知り得た情報を持って葛城一佐と意見の交換を行っていた。


『一佐、現在知り得た情報を基に考えますと。私が金沢ダンジョンのダンジョンマスターになる事は急務だと考えます』

『至急、政府との会談を行い決定を促そう。それまでは金沢最終層を厳重に管理下におき守らせておく』


『よろしくお願いします』


◇◆◇◆


『杏、そこに冴羽はいるのか?』

『はい、いらっしゃいます。電話替わりますね』


『澤田か、下関ダンジョンだが今後を考えると金沢へ設置するのが妥当だと思う』

『しかし、下関に整えたダンジョン協会支部の事や、下関ダンジョンで生計を立てている探索者の問題もある』


『そこは俺の方で考えがある』

『どんな考えだ? あーちょっと待ってくれ、Zoomでの会議中だからお前も参加してくれ。説明が二度手間になるからな』


『了解だ』


 アクセスキーを知らされ理事会のミーティングへアクセスをする。


冴羽:『早朝から騒がせてしまったようで済まんな』


轟 :『事前にわかっていたなら連絡は出来なかったのか?』


冴羽:『連絡をして決定で揉めている間に第三者によるダンジョンの略奪が起こってしまえば、そんな事を言う余裕もなかっただろう』


轟 :『確かにそうだな。だが、それを日本政府が大人しく頷くだけで済ますとも思えん』


冴羽:『心愛ちゃんからの情報だが、ロシアは中国へトップチームの派遣を打診してきたらしいぞ。狙いは当然天津ダンジョンの略奪だったはずだ』


結城:『なんだと……それは回避できたのか?』


冴羽:『ああ、心愛ちゃんが諸葛中尉と友達らしくて盗まれないように忠告したそうだ』


三田:『柊さんは、我々や日本政府ですら把握していない中国の状況を把握しているっていう事なのか?』


冴羽:『その辺りは俺も直接は確認していないが、少なくとも俺たちより詳しい事は確かなようだな』


澤田:『先ほど冴羽の言っていた考えって言うのを聞かせてもらえないか?』


冴羽:『JDA側の考える問題点というのは、今まで下関に投資したダンジョン協会の設備や、下関ダンジョンを拠点にしていた探索者への対応という事だよな』


結城:『概ね間違いはない』


冴羽:『例えばだ。下関支部の中に金沢へ移設したダンジョンの前に直接アクセスできるゲートを用意したらどうだ? 何も問題はない上に今後もし別の要因でスタンピードを起こしたとしても対応が非常に楽になるだろ』


結城:『そんな事が可能なのか? それが本当であれば政府も口を挟まないだろう』


桜田:『冴羽、ザ・シーカーとの関係はどうなっているんだ。彼を信用しているようだが大丈夫なのか?』


冴羽:『ああ、アンリ豊臣氏に関しては、D-CANで雇用してダンジョン攻略部門を任せる話をしていたんだ』


桜田:『どんな人脈で連絡を取れたんだ? 今回のガリッサの招集でも連絡先不明だったって話だったが』


冴羽:『うちのオーナーのお父さんと友達らしいぞ。お嬢と呼んで可愛がってた』


桜田:『どんな繋がりがあるんだ……』


冴羽:『他にもいくつか提案があるが、このまま提案させてもらっても構わないか?』



 冴羽社長が、私の作った魔道具のプレゼンを始めた頃には希が迎えに来たので日向ちゃんと三人で学校へ向かう。


 試験は予想通りっていうか、大幅にステータスの高まっている私には何も問題なく終わった。

 放課後になり三人で家に帰っていた。


「試験どうだった? 思った以上に楽勝だったんじゃない?」

「はい、簡単すぎて逆にびっくりしちゃいました」


 日向ちゃんの返事を聞いて希の顔がひきつっていた。


「あれ? 希も楽勝だったでしょ?」

「あーあの……きっと赤点は無いと思います」


「さては真面目に教科書読んでなかったね?」

「ゴメンナサイ」


「別に謝らなくてもいいけど、赤点だったら追試終わるまでお留守番させるからね?」

「明日からはマジで頑張りますから勘弁してくださいぃ」


「私は帰ったら色々やる事あるから、希は日向ちゃんと真面目に勉強しなさいよ」

「頑張ります……」


 家に戻ると早速【転移ゲート】の魔道具を作ってみようとした。

 

(ゲートかぁドアってどこに売ってるんだっけ?)


 そう思って杏さんに聞いてみた。


「杏さん、ドアってどこに売ってるかわかりますか?」

「ドア? 大きなホームセンターとかならあるんじゃないかな? 行ってみる?」


「はい、行ってみたいです」


 そう返事をすると、護衛の当番の美咲さんが「買い物なら私と美穂が付いて行くよ。杏はJDAからの連絡とか色々忙しいでしょ?」と声をかけてくれた。


「じゃぁ美咲さんたちにお願いしちゃっていいですか?」

「任せて!」


 美穂さんが運転する車で、近所のホームセンターへと向かった。


「そういえば君川さんはどうされてるんですか?」

「一尉は葛城一佐へ呼ばれて金沢に行ったわ」


「君川さんもダンジョンマスターになっちゃうのかぁ」

「知らない間に金沢ダンジョンが無くなると困るしね」


「でもリミットブレイクの取得はしたい人がたくさんいるから困りそうですね。最低でも六十七層のダンジョンになるわけだし」

「そうね、でも持ち出されちゃったりすると、もっと困るからしょうがないかもね。心愛ちゃんが作ってくれるスキルオーブだと期限なしで使えるリミットブレイクのスキルオーブは出来ないの?」


「えーと金沢は二十九層ですから、それより深い階層の魔石をベースにすれば大丈夫なはずです」

「それなら問題ないんじゃないの?」


「私が大変になっちゃいますから……」

「そうだね……」


 ホームセンターに到着すると早速リフォームコーナーに行ってベースに使うドアを見たけど、ドアだけで自立させるのが大変そうだなぁと思い中々決められなかった。


 そう考えているとちょっと閃いた。

 異世界物のラノベだと魔方陣に立つだけで転移できたりするよね?

 それなら、丸いセンターラグみたいな絨毯の上に立てば転移するとかも出来そうかも!

 物は試し! だと思って丸いセンターラグを二枚買って帰る事にした。

 あ、成功率の問題があるから二枚じゃ足りないよね……

 追加で八枚ほど購入しておこう。


 ラグを購入して駐車場に戻ると子猫の鳴く声が聞こえた。


「美咲さん、捨て猫みたいですね」

「あら、本当だ」


 美穂さんが車をとめたそばに段ボールに入れられた猫が「ミャーミャー」と鳴いていた。

 真っ黒でキトンブルーの瞳を持つ子猫だ。

 超かわいい……


「どうしましょう。多分生後一週間くらいですよこの子、このままじゃカラスに襲われちゃうかも」

「うーん、心愛ちゃんは飼ってあげる事とかできるの?」


「生き物って飼った事ないですけど、この子なら飼ってみたいと思います」

「そっか、一応ここの店員さんに確認してみようね。まさかここで飼ってたなんて言わないでしょうけど、もし、元の飼い主さんが現れたりしたら、連絡付かないと困るでしょうし」


「はい、私、サービスカウンターで聞いてきます」


 一応、美穂さんも付いてきてくれて店員さんに聞いてみた。


「あの……駐車場に子猫が段ボールに入れられた状態で『ミャーミャー』鳴いてるんですけど、ここで飼ってる猫じゃないですよね?」

「えっ本当ですか、時々いるんですよね、ここの駐車場に子猫捨てていく人が……」


「あの……それってその後どうなるんですか?」

「市の保護センターに引き取ってもらっています」


「ああ、そうなんですね……連れて帰っても構わないですか?」

「勿論、構いませんよ。保護センターに連れて行くのも結構大変だから店長も嫌がるし助かります」


「元の飼い主の人が現れて子猫を探すなんて事はありませんか?」

「まず無いとは思いますけど、まさかの時のために一応連絡先だけ伺ってもいいですか?」


 連絡先を伝えて車に戻ると、美咲さんが子猫を抱いて待っていた。


「心愛ちゃん、この子まだミルクしか飲めないからペットコーナーで少し買い物して帰った方がいいと思うよ?

「あ、そうですよね。もう一回店に戻って買ってきます」


 再び店に戻り、ケージ、ミルク、おもちゃ、猫トイレ、猫砂、哺乳瓶と思いつくがままに買い込んで戻ってきた。


「あらあら大量に買い込んだわね。結局ドアは買わなくてよかったの?」

「はい、たぶん大丈夫です」


 こうして新しい家族を迎えて家に戻った。

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